私これで三度目なんだけど(怒)!!

夏菜しの

01:三度目だって言ってんだろ!

 家を左に出て数十メートル行った先にあるのは、小さな小さな雑木林。

 その竹の中に光る竹があった。

 それもひと節なんて言う景気の悪い話じゃなくて、その竹の周囲一帯が爛々と輝いていた。それを見て思い出したのは、習ってもいない竹取物語の序文ではなく、昨晩見た不思議特集のUFOや宇宙人の方。

 これはひょっとするとひょっとするかも。

 好奇心旺盛な中学生だった私は学校に向かう道をあっさりと反れて、雑木林に足を踏み入れた。



「待って!」


 自分の叫び声で目が覚めた。

 なんとご丁寧な、仰向けの私の手は夢の中の自分を止めるためか、まっすぐ空に向かって伸ばされていた。

 何も掴むことのない手を目元に下ろして恥辱でぷるぷると震えた。


 うわ~恥ずかしっ!

 なにが待ってだよ~ううぅ……


 ため息をハァと吐き、私は顔を覆っていた手を今度は頭の上の方へ伸ばした。崇高なる二度寝の為にも、登校時間まであとどれだけか把握しておきたかったのだ。

 しかし彷徨わせた手は予想に反して空を切った。

 一度ならばミスもあろう、二度になるとそれは必然。

 面倒だなと思いながら目覚まし時計を探す為に目を開けた。


 あれ?


 目に入って来たのは見知った天井ではなく、かと言って見知らぬ天井でもない。むしろ天井なんて無くて、まるで私だけを照らしているかのような淡い光が目に入って来た。

 眠気はとうに飛び去り、体を起こして周囲に視線を彷徨わせる。

 ほんの五メートルくらいの淡い光に包まれた空間、その外側には、どこまで続くかもわからない永遠の闇が広がっていた。


 私の口から思わずチッと舌打ちが漏れた。

 だからあんな夢を……

 三年前に実際にあった、もしもやり直せるなら~の最有力候補。


 私の目の前で淡い光が束になり何かを象っていく。

 程なくして光から生まれたのは、膝ほどまである癖のない金髪を持つ十代半ばの美少女。透き通るほど白い肌に纏うのは金銀の装飾を贅沢にあしらった白いドレス。

 一部の男性が妄想で描く天使は、きっとこんな少女に違いない。


「えーっといつまで待ちましょうか?」

 悪戯が成功したかのような、弾んだ感じの高い声。

「聞いてた?」

「はい、それはもうしっかりと」

 天使と思しき金髪の美少女は口元に笑み……ではなく、片方の口角を上げてニィと嗤った。その様に天使感なんてこれっぽっちも無い。

「忘れて」

「残念ながらわたくしには絶対記憶と言う物が備わっています。

 従ってあなたの恥ずかしい寝言は、未来永劫わたくしの記憶に残り続けることでしょう」

「へえ。その絶対記憶って言うのが、脳みそをぶちまけてもまだ大丈夫かどうか、試してみてもいいかしら?」

「あははは冗談ですよ冗談。嫌だなぁ真に受けちゃって~」

 間違いなく嘘だ。

 しかしこれ以上は時間のまったくの無駄だ。私は追及を止めてさっさと先に進めるようにと促した。


「では仕切り直しといきましょうか。

 ……えーと、ところで自己紹介っていりますか?」

 舌の根が乾かないうちに仕切り直しは失敗した。

「要らないわ」

 そう言いながら私は視線を下げて、自分の姿を確認した。

 目に入ったのは、ここ三年ですっかり見慣れた高校の制服。

 昨晩自室のベッドでパジャマを着て寝たはずなのに、なぜか今この制服を着用しているのは、ここがそう言う所・・・・・だからだろう。


「じゃあお言葉に甘えまして~

 何と言ってよいか、先ずはご愁傷様です」

 以前に地球の神を名乗った金髪の美少女は可愛らしい咳払いと共に、そう言って丁寧に頭を下げた。

 ご愁傷様って……ずいぶんと簡単に言ってくれるわね。

「ねぇこれでついに三度目よ。

 どーなってんのよ!?」

「前から申し上げています通り、わたくしが呼んでいるのではありません。

 あなたは異世界から干渉されてあちらに召喚されているのですよ」

「ええそうね、それは前に聞いたわ。

 でもその時に私言ったよね? 一回召喚された人は、候補から外すシールド付けてってさぁ!」

「いつも貴重なご意見ありがとうございます。

 ですがそのご意見をお聞きした際に無理だと申し上げましたよ。

 存在する世界によって、全く違う術式を持つ召喚魔法に対するシールドなんて張れるわけが無いのです」

「外からの転移に関する干渉を一方的に遮断すればいいじゃない」

「申し訳ございませんが、特定の個人に対してわたくしから加護を与えることは禁じられております」

「ふんっ【贈り物ギフト】は寄越す癖に……

 どうせ経験者だったら、帰還率高いから黙認してるんでしょ!」

 金髪の少女ちきゅうのかみは「違いますよ」と慌てて首を振った。


「もういいわ。

 時間無いんでしょ、さっさと【贈り物ギフト】頂戴よ」

 時間さえあれば人権を守るためにいくらでも戦ってやるのだが、この時間は金髪が召喚魔法に強制介入して創り出している有限の刻。

 こんな馬鹿なやり取りの間も召喚の瞬間は刻一刻と迫っている。

 あまり時間を掛けて【贈り物ギフト】が貰えない方がよっぽど不味い。

 金髪は「はーい了解でーす」と軽い返事をしつつ笑みを浮かべた。見た目は清楚可憐な美少女の、神掛かったではなくガチ神の微笑み。

 きっと男性召喚者はこれにやられるんだろうな~と私は冷めた目でそれを流した。


「ううっ反応が酷いです……」

「煩いなぁ早くしてよ」

「はいはい分かりましたよっと。

 えーっとですね、今回は〝神話級ミソロジー〟の【物品アーティファクト】です。

 しかもージャンルセレクト有り! 凄いです、とってもお得ですね!!」

「前回みたく選択の方がいいわ」

「まあまあそう仰らずに~

 ジャンルセレクト。夢が有って良いではないですかー」

 うっとり夢見がちとばかりに両手を胸の前に結んで、目をつぶり顔を少し上げる金髪。ちなみに角度まで調整済みなので、こいつ絶対鏡の前で練習してるなと思った。

 美少女がとるそんなあざといポーズは、男性召喚者は~アゲイン。

 だが私は同性だ、そんなの効かないっての!

「ほら早く説明しなさいよ」

 金髪が悲しそうに俯いていたけど知らんがな。

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