36:代理戦争開始

 召喚五日目、ついに代理戦争が始まる。

 馬車に乗せられて連れてこられた戦いのフィールドは、森有り丘有り背の高い草有りのかなり広くて見渡しの悪い場所だった。


 フィールドの端っこ手前で私一人が馬車から降ろされた。

 馬車に残った国王とエリヒオは神妙な顔つきで私を見つめてきたが何も言わない。

「ねえせめて頑張ってくらい言ったらどう?」

「うむそうだな……

 次に繋いでくれ」

「真理殿、何とか二人……どうか頼みますぞ」

 最後まで消極的な発言をし、二人は去って行った。

 おいこらっ、それどっちも応援じゃねーからな!?


 頑張っても言えない糞ったれな二人が乗る馬車を見送り、私は足元の灰虎猫に視線を向けた。

「さてとティファ、悪いけど最後の戦いに付き合ってくれるかな?」

「ニャ!」

 私の瞳が黄金に光り輝くと、ティファの姿がアメーバのように波打ち始めて私と同じ姿をとった。その瞳の色は私と同じく黄金。

 その瞳の色のお陰か、私が身に宿した力は〝随神〟になったティファにもしっかり継承されているのを昨日のうちに確認している。


 発動する邪眼に出し惜しみは無し。私とティファはのっけから第三の瞳を開いていた。当然三つ目の瞳にも黄金の輝きが宿っている。

 【邪眼】の貸し借り関係はこの瞳になっても変わらない。

 ティファには今回は、【遠見の邪眼】と【予見の邪眼】、さらに【感知の邪眼】を貸し与えた。遠見があれば広範囲に転移が出来る。

 数が劣勢のこちらの利点は転移による奇襲だ。ゆえに遠見無しで近距離転移しかできない状況は避けるべきだろう。

 そして私は、【麻痺の邪眼】と【看破の邪眼】、そして【鑑定の邪眼】をセットする。相手の数を考えて同士討ちの【魅了の邪眼】と悩んだが、英雄に一つずつ貸し与えられたこの世界の〝宝具〟の効果を知る方が先だと考慮した結果、こうなった。

 なお【石化の邪眼】は〝すべてを見通す輝く瞳〟が馴染んでいないのか、上手く発動しないときがあり、そんな不完全な力に頼るのは危険だともっか封印中だ。


 さて私が受け取ったこの〝宝具〟だが、『伝説級レジェンド精神攻撃無効』で実は私の使う【邪眼】と相性最悪。敵にあったなら相当苦労しただろう。

 しかしその効果は、対私に刺さるだけで、私にとっては全くの無意味。なんせ【邪眼】持ちの私には精神系の攻撃は効かないのだ。

 従って無用の長物だけどこっちにあって良かったという不思議な位置づけとなった。

 そして奪われた〝宝具〟は『伝説級レジェンド光の矢』、目標に光の速度で真っ直ぐ飛ぶレーザー兵器だそうだ。

 一発撃つと次弾の装填時間にやや難があるがダメージは大。その速度を考慮すれば必中必殺の凄い奴!

 それを使って相討ちって、先代英雄は無能だったのかしら?


 準備を終えたらフィールドに足を踏み入れた。

 一瞬だけこちらを拒絶するシールドの様なものを感じ、そのまま進む。これで制約によりこのフィールドからは、条件を達成しない限り出ることが出来なくなった。

 試しに外へ向けて転移を使ってみたが、神に昇格した私の能力でさえも阻害された。だが中にならば転移は可能。

 ただし神になる前ならば無理だったなと言う感覚があるから、金髪が言った生存率0%と言う保証はあながち嘘じゃなかったなと感心した。




 戦争開始の合図が入るまで戦闘行動は禁止。

 しかしそれ以外にルールは無いので、私は事前に出来る事をやっておく。

 そりゃ当然、【遠見の邪眼】を使って索敵するっしょ!

 ハイジャック犯の司祭の様に、逆に敵に感知されるかもしれないが知った事か。どうせ一対十七なんだから、逆探知の警戒よりも相手の位置を知る方が優先だ。


 時間一杯まで遠見を走らせる。一人、また一人と見つかり時間までに十二人の敵を発見出来た。

『ティファこれからはこちらで』

 予定通り【遠見の邪眼】はティファに譲渡。

『ニャ』


 何ともゲーム的ではあるが、お空の上でカウントダウンが始まった。

 3.2.1.0。

 よし戦争の始まりだ。


 フィールドをマス目に区切って横軸に数字、縦軸にアルファベットを割り振った。相手の座標は【A8】などで表すように決める。

 先ほど索敵して発見したターゲットをその座標で表現。

『遠距離持ちから優先に潰す。

 私は【B5】を、ティファは別を頼むよ』

『ニャ』

 飛ぶ前に二秒後の未来を予知、相手が死ぬ瞬間が視えれば転移開始。

 転移したのは【B5】地点。

 しかし敵がいない!?

『フギャァァ!!』

『ティファ!?』

 これは……

 ちっ! ルカスか!!


 開始地点に転移すると半身から血を流したティファが転移して戻って来た。人化は解け猫の姿、瀕死ではないが重傷には違いない。すぐに私は〝時〟を操作してティファの傷を治した。

「未来が、未来が違ったのニャ」

「ええこっちもよ。どうやらルカスが何かしているみたいね」

 これは神経衰弱の時と同じ、私の未来予知はすべてルカスに覆されている。

 正直、あの時と違って私は足先だけでも神になっているから勝てると思っていた。だけど結果はこの有様で、ならば彼はとっくに神じゃないの!?

「ご主人どうするニャ」

「一対十七なんて話じゃない。

 まずは腰を据えて二人でルカスを倒しましょう」

「了解ニャ。でも案は有るのかニャ?」

「ないわ」

 未来を視てトライ&エラーに従って行動を変えるのが私の能力。しかしルカスのはそう言う次元の話じゃない。

 だって彼は一度は【ハートの3】だったカードを別のカードに変えたのだ。


「ご主人、一つだけ案と言うか、やってみたいことがあるニャ」

「なに?」

「あちきがご主人の〝随神〟になったのは知っているニャ。

 その〝随神〟の名はニケ、勝利を司る女神ニャ。その能力の一つに【勝利のルーン】と言うのがあるニャ。勝利を約束する以外に説明はないのニャが、こんな状況だし使ってみるのも有りだと思うニャよ」

「あははっ正体不明の未知の能力に賭けるって?

 まあ景気のいい名前が付いた能力だし良いんじゃない、やってみてよ」

「わかったニャ」

 そう言うとティファの瞳が黄金に輝いた。共存は不能なのか、彼女に貸し与えた【邪眼】が返還されたのが解った。

 瞳が光り輝いていたのはほんのコンマ数秒。

 光が消えた時、ティファは無機質な声で「【運命改変】」とただひと言だけ呟いた。

 アテナは戦の神でもあるけれど、智の神でもある。その特殊能力の名を聞いたお陰でいま理解した。

 それこそがルカスの能力。彼の【贈り物ギフト】は未来予知ではなく【運命改変】だわ!

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