37:vs運命改変

 未来予知とは未来を知ることで取捨選択をする能力だ。対して運命改変とは、すでに起きた結果を捻じ曲げる。

 相手がパーを出すからチョキを出したのに、さっきの無しねとグーに変える。

 そんなものに勝てる訳がない。

「ありがとうティファ、私があいつに勝てなかった理由が解ったわ」

「ニャぁ……」

 悔しそうに嘆くティファ。


 【特殊能力アビリティ】には優劣がある。

 未来予知は決して【運命改変】には勝てない。しかし【運命改変】は結果を操作する行為だから、未来が視えている訳ではない。

 ただ起きた現象の後に、少し前に遡ってやり直せるだけ。

 それならやりようはある。


 トライ&エラー開始。

 私は転移を繰り返してルカスの居場所を探した。

 よし発見。【E5】ほぼド真ん中!

 名前に反して【運命改変】に未来を変える力はない。だからルカスは【E5】に必ずいる。しかし転移した先にルカスが居ない可能性があるのが【運命改変】だ。

 だって転移した後に過去からやり直せるんだもん。

「ちょっと行ってくるわね。待ってて」

 言うが早いか私は【E4】に転移した。そこからは木々を抜けて【E5】へ向かって疾走する。

「ルカス!」

「高沢真理!? お前がどうしてここに居る!」

「そりゃあ決まってるでしょ。あんたを殺しに来たのよ」

「ふんっそんなことが出来るとでも?」

「出来るから貴方を発見してここに居るんだけど」

「チッ何をした!?」

 私がここに居ることの意味を理解するとルカスが吠えた。


「【運命改変】ってのはとどのつまり後出しじゃんけんなのよね。だったらじゃんけんその物が起きなかったとしたら貴方は一体何を改変するのかしらね」

「馬鹿な、そんなことが出来る訳がない!」

「そう?」

 次の瞬間ルカスの右腕が飛び血飛沫が舞った。

「うぎゃぁぁ!」

 何のことはない、私が【天羽々斬剣あめのはばきりのつるぎ】を振るったのだ。もちろんルカスは【運命改変】を使い剣を避けただろう。

 だがその試みは失敗した。

 何故ならその運命は最初から起きていないのだから……

 まあ失敗はお互い様よね。

 本当は二度とも・・・・首を狙ったのだけど、使い慣れていないからこちらも失敗したわ。


「手が、俺の手がぁぁぁ。

 何をしたんだブスがぁぁ!?」

「えーブスって酷くない?」

「煩い! 何をしたのかを聞いているんだ!!」

「首を狙った横振りの剣を、運命を改変して避けた事にしたんでしょう?

 ねえその剣は本当に横振りだった?

 実は縦振りだったんじゃないかしら、それとも剣でさえなかったのかも」

「お前は……、いったい何を言っているんだ……?」

「ルカス、貴方はもう私には決して勝てない。

 だって私の能力は【因果律】を操るんだもの」

「ハ……? 【因果律】だと、そんなことは神の所業だ。人間ごときが出来る訳がないじゃないか!」

 残念ながら私はもう人じゃないのよ。

 心の中でそう呟いて、再び剣を振るった。


 未来予知して彼が避けるであろう場所・・・・・・・・・に剣を振るって首を狩る。

 首を狩られたルカスが【運命改変】を発動し剣を避けた事にする・・・・・・・

 彼が剣を避けたのを視た・・私が【因果律】を操作して、振るった剣はそれじゃないんですーと【保管庫】から伝説級レジェンド〟の両刃剣グラディウスを取り出して投擲した。


 【因果律】を操作すると言うことは、その発端をも変える行為だ。

 つまり【運命改変】の能力が後出しじゃんけんならば、【因果律】の操作はそもそもじゃんけんじゃなくてあみだくじだったよねと、根底からひっくり返す暴挙そのものだ。

 相手の動向を視てから操作できると言う点では同じ。

 だけど起因さえも操作するのは神の所業。だって遡れば宇宙が始まるビックバンさえもなかった事に出来るのだから……


 ルカスは苦悶の表情を浮かべたまま、両刃剣グラディウスに頭を割られて死んだ。


 そこからは掃討戦。

 神vs人。

 前に金髪が言った通り、人が神に勝てる確率なんて皆無。勝率がほんの僅かでもあった私がオカシイのだ。

 残り十六人。すべてを殺した私はフィールドを出る前に敵側の所持していた〝宝具〟を余すことなく回収した。

 これらは元々この世界にあった物、神々の【贈り物ギフト】ではないから、どれも〝伝説級レジェンド〟だ。

ゴミ・・ね」

 いまの【因果律】を操る私ならば、この程度の品・・・・・・なんて容易に創る・・ことが出来るのだから……




 私がフィールドの出口そばに転移をすると、コルネート国王陛下と宮廷魔術師のエリヒオが「おおっ!」と歓声を上げながら走り寄り、競って感謝の言葉を言い始めた。

 口々にまさか勝とは~と言っている。

 ファンの時と同じ反応だが、今回は前提からして違うのでまあ許そう。

 ちなみに歓喜して、ただし年甲斐も無く跳ねまわっている陛下の顔からは、すっかり影が無くなってとても明るい表情を見せていた。

 これで理不尽な戦争が終わったんだなと、私も喜んだ。


 帰りの馬車は陛下とエリヒオの乗るちょっと豪華な馬車に同席した。どうやら今回の勝利で私への待遇が良くなったらしい。

「のぉエリヒオよ。

 これで我が国の〝宝具〟は十八になった。そして我が国には英雄王・・・の真理様がおられる。

 この勢いを活かし我が国で大陸の制覇をすべきだと思わんか?」

 最初の時は自らの責任を放棄するかのような態度を取っていた癖に、今度は〝英雄王〟などと言って勝手に祀り上げる。

 驚きの手のひら返しとはこのことか?

「はい、陛下の仰る通りでございますな」

 すんなりと同意したエリヒオの言葉に、今度こそ私は苛立ちを覚えた。


「ねえ折角勝ったのだから戦争なんて止めて、専守防衛に努めて平和に暮らしたらどうなの?」

「いや現在これほどの数の〝宝具〟を手にしている国はほかにおらぬ。

 今こそ他国を攻め世界を平定すべきだ!」

 それは他人の命を使い、民や領地に被害の無い代理戦争なんてことをやっているから言える事で、勝手に駒にされたこっちの事なんて一切も考えていない。

「陛下。戻りましたら直ちに召喚の儀を行います」


 興奮冷めやらぬ二人に対して、私はとてもとても冷めきった口調で、

「いい加減、異世界の人間を巻き込むのは止めなさい。

 貴方達には警告・・しておくわ、次は無いわよ」

 しかし私の警告は鼻で笑われる形に終わった。

 馬車から降りた後の私の待遇はそれはもう酷く。何を言おうが無視されて挙句に客室に監禁された。


 忠告ではなく警告だったのだが、すっかり無視されてこの有様か。だったらこっちにも考えがあるわ!


 私は黄金の瞳を宿してこの世界の理を視た・・。すると突然部屋の中が眩く光り始めて、その光が一点に集まり始めた。

 この光景は見たことがある。

 光の束は次第に人の形をとり……

 ただし現れたのは金髪碧眼の偉丈夫。予想と違う完全な肩すかしに思わず、「だれあんた」と素で聞いてしまった。

「口の利き方がなっていないぞ若き神よ」

「それはお互い様ね、貴方は?」

「俺はこの世界の神だ。

 いまからお前がやろうとしていることは神の理に反する行為だ。

 意味を理解したならやめろ」

「もしかして他の世界に干渉しないってヤツかしら。

 だったらそもそも他の世界に干渉する異世界召喚なんてものを止める事ね」

「断る。この世界は俺がそのように創ったのだ。お前ごとき生まれたての神にとやかく言われる覚えはない」

「ふうん。そう言う言い方をするならこっちも考えがあるわ。

 私はここに自分で来たわけじゃなくて呼ばれてきたの。ならば私はここで生き残るために最善を尽くす・・・・・・だけ、行使する力が大きすぎるかどうかなんて知った事じゃないわ」

「お前の意見に一利あると認めよう。だが勝手に世界の理に触れることは許さん」

「召喚するのがこの世界の理ならば、私を還し、貴方自らで異世界の扉を閉じなさい」

「……二度とこの世界がお前を呼ぶことはないだろう」

「足りないわね。

 それでは私以外が呼ばれるじゃない。じゃあこうしましょう。呼んでもかまわない。ただしそれ相応の報いを支払いなさい」

「無茶を言うな。神を呼んだ報いなど到底人が支払える訳が無かろう」

「ならば自ら滅べ!」


 異世界の扉を閉じることは理に反してできなかった。しかしその扉の内側にならば、少しばかりの干渉が可能だった。私がこの世界の内側に居たからこそできたギリギリグレーの裏技だ。

 私は異世界の扉を通る際に新たな制約を追加した。


【召喚した英雄の力に対する対価をその力に相当する国民の生命力で支払う】


 私の力で課せた制約はこれひとつきり。だがきっと、この腐った世界の住人らには十分な罰だろう。


 さて異世界の人を一人召喚する対価は如何ほどだろうか?

 きっと一人の命と同じかそれよりは軽いだろう。だけどこれに、追加のオプションが付くと話は変わってくる。だって呼ばれた英雄たちは元の世界の神々から【贈り物ギフト】を貰ってくるのだ。それは大抵〝神話級ミソロジー〟より上で、それの対価は一人の命では到底足りない。

 私が課した新たな制約に男神は焦る。

 しかし私の課した制約を勝手に書き換えることもまた理に反する。唯一の正解は私が制約を課す前に世界ここから追い出すこと。しかし私は召喚の制約に囚われている・・・・・・から、それを断ち切ってまで追い出せば異世界召喚の根幹が揺らいでしまう。そうなれば私は問答無用で壊れかけの扉を壊しただろう。どうあっても終わり。これはわたしがここに呼ばれた時点で勝敗が決まっていた勝負。



 男神は結局何もできなかった、いやしなかったのかも。

 そして制約が正しく作用した結果、七人目の英雄が召喚された時、コルネート王国は滅んだ。


 一応、監禁されていた客室から抜け出して再警告したんだけどさ。

 鼻で笑われた挙句、彼らは連続で英雄を召喚した。

 そして彼らは端から死んでいく国民に気付くことなく、自らを含めた全ての国民の命を代償に差し出して英雄を呼び、……終えた。


 こうして雇い主死亡により契約による強制力は失われた。

 私は新たにやって来た七人に事情を話しその場で解散を告げる。彼らは首を傾げながら元の世界へと還っていった。

 そして私も。


 さあ家に帰ろう。

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