14:要人を救出せよ②
貨物室にザザッとノイズ音が走った。
『聞こえるか、後一〇分で目的地上空だ』
一方的にそう告げるとブチっと通信が切れた。
その放送の二〇分前、すっかり寝入っていた私は同乗していた兵士さんに起こされていた。何とも絶妙なタイミングに、やっぱり到着時間知ってんじゃんと口を尖らせた。
「ほらさっさと装備を着けな」
そう前置くと兵士四人が様々な物を差し出してきた。
兵士Aがやたらごつい迷彩の入ったヘルメットとガスマスクを差し出してきた。ヘルメットは戦争映画でよく見るタイプの奴で、額にはゴーグルが、側面にはペンライトが付いている。
頭を護るのにヘルメットは有った方が良いだろうと素直に身に着けた。
しかし備え付けのゴーグルは【邪眼】に干渉するので私が使うことは無いだろう。ついでにペンライトも、闇を見通す【邪眼】があるのでこれを使うシーンはきっと無い。
続いてガスマスク。
こちらも映画でお馴染みで、口がタコの様に丸く突き出たゴーグル付きのアレだ。
もしもガス使われたら、転移か、その空間を隔離するはずなのでこれは不要。
私は〝NO!〟が言える日本人なので、はっきりと要らないと言ってやった。すると『人質の為に持っておけ』と諭された。
それならばと【保管庫】にポイと放り込んでおいた。
兵士Bは段ボール二箱。
なんだこれと開けてみると、水のペットボトルに始まり、チョコレートにビスケット、さらにレーションなどが入っていた。
うわぁこれは助かるかも!
渡してくる量がやたらと多いのは、さっき【保管庫】を見たからだろうね。
平和的な兵士Bと違って兵士Cはやたら物騒。
マシンガン二丁にハンドガン二丁。それぞれの銃の替えのマガジンが箱一杯と、木の実の様な物がぶら下がったベルトが一本。
なんだこれとよく見れば、それは手榴弾で三種が二個ずつ付いていた。ちなみに爆発・催涙・閃光だってさ。
要人に渡す護身用のハンドガンはすでに受け取って【保管庫】に入れてある。だからこれは私用。
絶対に貰ったらアカン奴だ!
必死に拒否したら『平和ボケした日本人はこれだから~』と四人から嗤われた。
ハァ平和ボケ!?
異世界からの生還者にそれ言っちゃう!? だったら貰ってやると受け取り【保管庫】へポィポイっと投げ入れた。
最後の兵士Dは四角いリュック。
なんだこれ~と首を傾げていたら再び四人から嗤われた。
「くくっこれはパラシュートだよ。必要だろう」だってさ!
その小馬鹿にした態度には今度こそカチンと来て、「要らない!」と言ってやった。
鼻を鳴らして馬鹿にする兵士たち。
くっそー見てろ~絶対に吠え面かかせてやるんだからね!
いよいよ降下時間が迫って来た。
四人の兵士はパラシュートを着けていない私を見てニヤニヤと嗤っている。
その手にはパラシュートが弄ばれていて、謝るならいつでも着けてやるよと言うポーズを見せていた。
ザザッと再びのノイズ音。
『着いたぞ。幸運を!』
貨物室の後ろが開いた。
久しぶりに見た外は暗闇、どうやら今の時刻は夜のようだ。
瞳を閉じて五秒待つ。
さて最後まで謝らなかった私はいまパラシュートを着けていない。そして彼女たちはやっと気づいた。私をフォローするのが役目だったのにそれをしていないことに。
焦り始めた兵士らを横目に見てすっかり溜飲を下げると、
「じゃあね」と言って夜の大空に飛びだした。
背中に掛けられたのは『頑張れ』と言う声援ではなく、『狂ってるわ』と言う短い悲鳴だった。
体が空中に投げ出されると、ゴゥと風を切る音が耳に響いた。
爆撃を警戒してか、サーチライトどころか建物の光さえも無く、周囲は完全な闇に包まれていた。
私は先ほどセットしておいた【看破の邪眼】を開いた。
すると暗闇は一転、まるで昼間の様に明るくなった。
これは闇を始めあらゆるモノを見通す【邪眼】だ。その効果は凄まじく、幽霊や魔法で透明になった者、さらには擬態さえも看破する。
それほどの効果を持つ【邪眼】だ、上空から見えないようにネットや木々を使って隠しただけの建物なんて、看破出来ない訳がない。
難なく建物を発見した私はそちらに向かって転移を繰り返した。
転移を使用して人の常識外の軌道を取る私を捕捉するモノは無く、体よく要人が居ると言う建物の影に降りることが出来た。
瞳を閉じて五秒、まずは【感知の邪眼】と【予見の邪眼】に変更した。念のために、確認する未来は三秒先と大きく取っておく。
ところで……
『ねえそろそろ忙しいのだけど?』
と、ここにはいないティファに向かって心の中で声を掛けた。しかしティファは、『まだまだニャ』と釣れない態度を見せてきた。
ああもう。ままならない!
そもそも〝忙しいときに~〟って言うルールが曖昧なのよ!
【感知の邪眼】で建物の中をざっとサーチしていく。
地上の建物はダミーなのか屋上の見張り以外に人の反応は無く、反応はもっぱら地下ばかり、動いている点は巡回っぽいのを除けば地下二階だけになった。
起きている人のいる場所が把握できたので、瞳を閉じて五秒、【感知の邪眼】を【遠見の邪眼】に切り替えた。
上からの視点で人を点でしか表さない【感知の邪眼】と違って、こちらはまんま移動できるカメラだ。私の意思に従って動き、実際のいまをそのまま見ることが出来る。
【遠見の邪眼】の操作を開始。
切り離された私の視界が、床や壁などまるで無視して地下二階に向かった。どこからなんてまどろっこしいことは抜き、すべてをぶち抜いて視界を縦横無尽に走らせる。
そしてとある一室、写真で見た人物を発見した。
倉庫らしきその場所は、出入り口は一つきり。鉄板の入ったその扉の外側には、七人の武装した反政府ゲリラ兵がひしめいていた。
こちらとあちら拷問部屋も兼ねているのか、部屋の壁は他の部屋と違って厚く防音も期待できる。
七人か、いけないことは無いかな。
なんせここは異世界ではなくて地球のどこかだ、まさか人が部屋のドン真ん中に転移してくるとは思っていまい。
念のために七人の顔を順番に拝見、首謀者ではない。
殺ってヨシ!
そのまま斬りこんでもいいのだが、折角貰ったし使っとくかな。
私は【保管庫】に手を入れて
映画で観た通り、ピンを抜き、【遠目の邪眼】で見ている部屋の中心へ転送。気持ちはやや上に、すると落下音が鳴るからきっと注目するはず。
転送を終えたら【邪眼】を閉じてしばし待つ。
じゃないと私まで目が焼かれるってーの。
気持ち長めに五秒を数えて、そろそろいいかなと視界を再接続。七人中五人が目を抑えて呻いていた。
まずまずかしら?
【保管庫】から
事前に確認済みなので迷わず、目が視えている奴の喉笛を掻っ切った。返す刀でもう一人。同じく喉に
残ったのは視力を失った五人。
もう慌てる必要はどこにもない……
瞳を閉じて【遠見の邪眼】を【感知の邪眼】に切り替えた。【感知の邪眼】を使い、表示するターゲットを〝鍵〟だけにすると……
よし鍵ゲット!
手に入れた鍵を使い要人が捕えられているドアを開けた。
「君は……誰だ……」
青白い顔の中年の男性の憔悴しきった声が聞こえた。
確か捕えられてから半月ほどと言っていたかしら?
だったら無理も無いかな。
「助けに来ました。一緒に逃げましょう」
「君一人でかい?」
要人は訝しげに眉を顰めてくれた。
「ええそうです。
あーそうそう、脱出前に差し入れをどうぞ」
兵士Bがくれた非常食セットを一箱取り出して要人に渡した。
どこからともなく、まるで手品のように出しので、要人は目を見開いて驚いた。しかし箱を開けると、水とチョコレートを取り貪るように食べ始めた。
必死に喉の渇きと腹を満たし始めた要人を尻目に、私は次のターゲット〝首謀者〟を捜索し始めた。
やることはさっきと同じ。
ただし今度は寝ているおっさん人の顔を観察するという、どうやってもテンションの上げようがない作業だ。
偉い人は大きい部屋だろうとアタリを付けて、そちらを先に調べた結果、両手を超える前に発見できた。
首謀者は地下一階。
あ~ぁ素通りしたかったのにさ、一所に纏まっててよね!
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