08:脱出ミッション開始

 ティファが早速【感知の邪眼】を発動した。

 すると私の【感知の邪眼】が効果を失って消失した。能力を奪われた・・・・という感覚は初めてだったがこの場で体験できたのは私にしては運が良いと思う。

 この一件で、ティファには能力を貸し与える・・・・・・・・と言う意味が正しく理解できたのだ。

 なんせ戦闘中だったら下手すりゃ死んでいたものね……


 さて同じ【邪眼】は使用できないとすれば、防御に特化した【感知の邪眼】と【予見の邪眼】はティファに残すべきだろう。

 代わりに自分は攻撃に特化した奴を付けておいた。


 そして武器。

 いつもの〝伝説級レジェンド両刃剣グラディウスは私が使うとして、もう一本か~

 あるかと言われればある。

 でも使った事が無い。せめて最初の世界で最後まで使っていた奴があれば良かったのだが、当時はまだ【時空間操作】を持っていなかったので持ち帰れなかった。

「(武器が必要なら勝手に【保管庫】を漁りなさい)」

「(分かったニャ)」

 最後に一つだけ、ティファに確認だ。

「(貴女の使える邪眼の数は?)」

 一つの瞳に宿せる邪眼の能力は同じく一つ。地球人である私の瞳は二つなので、当然宿せる邪眼は二つになるのだが……

「(もちろん三つニャ)」

 当然のように返ってくる間違った答え・・・・・・を聞いて安心した。


「じゃあ行ってくるよ」

 私は先ほど【感知の邪眼】で一度だけ上から見た図を思い出しながら転移する。

 目指すは一番分厚いあの一角、さっさと終わらせて地球に帰ろう。



 私は転移を断続的に繰り返して森の上空を進んでいく。

 短い転移で森の上を移動しながら私は面白い事に気づき、〝神話級ミソロジー〟の【物品アーティファクト】という存在のデタラメさを痛感していた。

 なんとティファに貸し与えた二つの【邪眼】の効果が脳裏に映るのだ。

 つまり今の私は─二つは出力が落ちているが─同時に四つの【邪眼】の効果を得ている事になる。


 試しに、

『ティファ聞こえる?』

 心の中で思うと、『ニャ』と肯定だか否定だか分からない回答が返ってきた。

 聞こえていないと返事が無いはずなので多分これは肯定だろう。

『貴女に私の邪眼の効果はあるかしら?』

『無いニャ』

 つまり逆は無し。〝神話級〟の【物品アーティファクト】でもそこまで万能ではないと言う事らしい。

 というか、そこまで万能だともう私が要らないのでこれでいい。


 それにしてもだ、最大ならば邪眼が六個・・か~

 うう~っ夢が広がるわ!




 いつもよりちょっぴり狭いが、脳内に展開される【感知の邪眼】から来る映像を元に、私は一番多くの敵がいるエリアを目指して転移した。

 訓練された兵士の弱点は頭が倒れると動きが鈍ること。

 だったらそれを狙わない手は無いわよね~


 早速集団の一部を発見。

 真横に転移してすぐに剣を一閃、ズバシャと血飛沫が舞う。

 気づかれる前に何人れるかが勝負!

 二人目、三人目が倒れた時に周りに気づかれて隊列を整えられてしまった─さっさと高い樹の枝に退避した─。

「敵襲だ! 密集隊形を取れ! 相手は転移魔法を使っているぞ!」

 いま叫んだのが隊長だなと目星をつける。


 命令はしっかり届き、兵士らはザザザッと素早く動いた。ほんの数秒、兵士らは彼を中心に密集陣形を取った。転移による奇襲に反応した速度、命令を聞いてから実行するまでの時間。

 チッこいつらかなり訓練されてるわね。

 すっかり密集陣形を取られて、転移する隙間が無い。

 えーと残りの人数は~、ひのふのみぃ……。

 うわぁ隊長を含めて十二人かぁ、多いな。


 私が広範囲の破壊魔法でも使えれば一発解決。

 しかし私は魔法を持っていない。


 次案は狙撃。

 【保管庫】の中に〝伝説級レジェンド〟の弓も無いことは無い。しかしそれは拾ったときに綺麗だから取っておいただけで、弓の練習なんて一切していないのだからぶっつけ本番で当たるとは思えない。

 結局、剣で切り裂くのが手っ取り早いと言う結論になる。


 さてと飛び込む前に全体の状況を確認ね。

 私の乱入の結果、ここらは停滞しているが包囲はさらに狭まっていた。ただしティファには【感知の邪眼】がある。包囲を巧みにかわして、こちらの方へ移動中。

 つまりここが開かないと詰みってことか。


 んーティファが来るまではあと五分ほどかしら?

 ヨシっと、兵の真ん前に飛び込み一閃。

 十一!

 そのまま返す刀で二人目に斬り掛かると、ガキィンと甲高い音が響いた。

 斬った隣の兵は反応がいい奴で剣で弾かれた。

 くっやるな。

 男と女、そして長剣と短剣の差。

 易々と力負けしてたたらを踏んだ所で、間髪入れずに私を取り囲もうと兵らが動く。私はすぐに一足飛びに後ろに下がって距離を開けた。


 悪いことに、兵士の剣の腕前はどうやら私より上っぽい。

 最初の世界でいくら魔王を倒していようが、私は剣技の【贈り物ギフト】なんて持ってないから、訓練の差がそのまま実力に繋がる訳で。

 職業女子高生と職業兵士のどちらが訓練量が多いかってーと、当然後者。

 むしろ私が勝ったらオカシイっしょ!


 攻め手にあぐねてしばし睨みあう・・・・

 視線の端・・・・、隊列の一部が入れ替わり、数人の兵が後ろに下がった。

 それはきっと上から見ていない限り違和感を感じないほどの綻びだった。だが私には隊列が乱れたのが視えた。

 その隙をついて、私は再び斬り掛かった。

 走り寄った私が剣を振りかぶった時、先ほど私の剣を弾いた兵士は、目を見開いて驚いていた。防御にまわしたはずの兵士の剣は間に合わず、私の剣が兵士の体を斜めに捕えて斬り捨てた。

 〝神話級ミソロジー〟の凄さには霞むけれど、〝伝説級レジェンド〟だって一端の劇や物語で謳われるほどの業物だ。ただの鉄製の装備などないも同じ、兵士は鎧ごと斜めにわかれて倒れた。

 一〇!


 振り下ろしてすぐに横に薙ぐ。

 やっぱり兵士は驚いた表情のまま、先ほどの様に剣で弾く・・・・ことも無く、今度は胴体から上下にわかれて真っ二つ。

 九!


 やや遅れる様に、別の兵士が私に剣を振り下ろしてきた。その隣の別の兵士からは突きが二つほど。

 私はそれを視て、後ろに飛び退いた。


「は、速すぎるだろ……」

「なんなんだあの女はっ!?」

 一瞬・・で二人を斬られた兵らに動揺が走った。


 使ったのは【麻痺の邪眼】だ。

 この邪眼には睨んだ相手の知覚を鈍らせる効果がある。視界に入れるだけで良くて、対象を選ばない辺り問答無用に強いように思えるが、実際に私が早いわけではないので、範囲攻撃してくる相手にはすこぶる弱い。


 しかしいまはとっても有効だ。

 私は怯える兵を、無言でジッと見つめていた・・・・・・・・・

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