第26話 ここでさっと曲がると……

 酒場を去り、宿屋へ帰りがてらミミーのお土産飯を買った後に王都をふらつくことにした。

 多少暗いが王都だけあって夜もにぎやかだ。

 しかしどうにも警備が厳重っつーかなんつーか。

 居心地がいい都じゃない。

 きれいなお姉さんが客引きしそうな店も無いし。

 娯楽は酒とギャンブルか? 遊びが少なすぎるんだよ。

 

「ヤーレンか……やっぱりまずいよな」

『マスター。気を付けて下さい。尾行されています』

「はぁ……だから嫌なんだよ。狙いは一体何だろうな……ボッチの件か? そーいやクラウドさん。ボッチに俺がマジックアカデミアの脱獄者だってばれてると思う?」

『見抜かれていると推測します。しかし尾行者がそれを知っているかどうかは判別がつきません』

「それは同感だ。分かってるなら直ぐ捕らえて兵士に突き出すよな。そーすると……」


 もの盗りか、酒場の主人が疑ってるのか、それ以外の何か、か。

 面倒ごとはご免だね。どうにかして逃げよう。

 幸い狭い路地がいくつかある。


『マスター、どうされるのですか?』

「まぁ見ていなさいクラウドさん。ここで突然さっと角を曲がり裏道に入る俺」

「おらさっさとブツを出せや! このダボが! ……ああん! 何だてめぇ!」

「……するとやばい現場に遭遇する」

「見られたからにゃあただで返すわけにはいかねえなぁ……ん? てめぇ冒険者か。そのナリ……結構いい獲物持ってやがるな」


 そんなお取込み展開聞いてない! 

 せっかく格好良く尾行してくるやつをこうと思ってたのに! 

 なんだこいつは。ハゲ面に長い剣。

 黒いローブ着て怪しさ満点のやつだわ。

 占い師だよな? ハゲ頭占い師だよな? 

 ご利益があるとか言って高いツボ売る人で合ってるよな? 


『マスター。ピンチです』

「冷静に分析してる場合か! くそ、こうなったらニードルガンで……」

「はぁぁ!」


 銃を懐から抜こうとしたら、上からジャンプして来た何者かが俺を飛び越えてハゲ面男に飛び掛かった! 次から次へとなんなんだ一体。

 

「くそ、もう一匹いやがった! ……ぐっ、こいつ、強ええ!」

「大人しくしな!」


 よく分からないがとりあえず助かった。

 知らない人、尾行者だったかもしれないけどありがとうな! 

 今のうちにさっさと退散しようそうしよう。

 

「さいなら!」

「こら、待て! くそ……放置出来ない」


 猛ダッシュで宿屋へゴー。

 もう嫌だ俺は家に帰りたい。

 このままいっそプラプライムなんぞに戻らず全てを忘れて逃げるってのはどうだ。

 ……一体どこに? いや待て。図書館で調べ物をする。

 もっと穏やかな村が見つかる。

 その村でクラウドさんと一緒に帰り道を探す。

 それか農業を営み静かに暮らすってのはどうだ。

 いいんじゃないか? 

 ……だが、俺が脱獄者であることはほぼ間違いなくあのボッチにばれてる。

 すると指名手配され……くそ、逃げ道ねーじゃねーか! 

 考えても分からん。とりあえず今日は飯食って寝るか。

 いや、弾だけ少し作ってから寝よう。

 リサイクルした針はどっかに捨てておこう。


「おいミミー。戻ったぞ」

「お兄! お帰り。クンクン……いい匂いする!」

「食うか? 宿屋の飯が出来てるはずだから俺はそっち食ってくる。いいか、全部食うなよ?」

「わは! いっぱいだぁー。いただきます……」

「なぁお前、どっか安全な場所しらないか?」

「安全な場所? 魔王様のお城」

「なんで魔王の城が安全なんだよ。一番危ない場所だろうが」

「ううん。魔王様の城は安全だよ! だって攻め落とせないでしょ?」

「……確かに。いやしかしだな。俺には戻れば屋敷が……ううむ、この件はやっぱ保留だな」

『マスター。魔王城が安全であると推測は出来ますが、プラプライムの町に戻ることを推奨します』

「そうだな。あの執事を敵に回すのだけは避けたい。言われた仕事だけはきっちりやっておこう。ミミ―、魔王の城ってどこにあるんだ?」

「知らなーい」

「ですよね……振り出しに戻った。ダメだ、弾作って飯食って今日は寝るぞ」


 尾行も上手く撒けたようだし、疲れたからさっさと寝ようそうしよう。

 結局人のベッドを宝箱で占有するミミー。この部屋は子供用と大人用のベッドがあるが、なんで俺が子供用ベッドで寝なきゃならんのよ。


 ――そして翌日早朝。

 身なりを整え王都の朝を観察しに行く。

 武器を持った兵士がこんな早朝からうろうろしてるのに、昨日は路地裏で盗賊みたいなやつに出くわした。

 目的は図書館の位置を把握することだが……朝っぱらから兵士もごつい冒険者もわんさかいる。


「この町に沢山あって、俺が仕入れられるアイテムねぇ……あの野郎、武器や防具を要望してるってところかな」

『マスター。プラプライムはこの国から離反しようとしているのではありませんか?』

「そうだなぁ……そういう方針なのかもな。そうするとやっぱ戻るの危険か?」

『いいえ。今すぐ離反しようというものではないと進言します』

「待ちな!」


 クラウドさんとブツブツ会話をしていると、突然背後から呼び止められた。

 まずったな。少し人気が無いところまで歩いていたか。

 ゆっくりと後ろを振り返るが……あれ? 誰もいない? 


「動くな」


 ……振り返った俺の背後から冷たいものを感じる。

 おいおいおい! ここ町中なんですけど!? まじ怖ぇ! 

 治安の悪い町なんてエロフがいても勘弁だわ! 

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