第38話 アーススナイプの勇者

 無理やり転移させられて、例のプリンちゃんを映し出していた装置前に戻って来たものの……おかしい。一花いちか二花ちかもいない。

 ボッチもここでプリンちゃんと通信してたんだよな? 

 みんなでお休みしに行ったってわけじゃないだろう。

 上が騒がしい。何かが破壊される音が聞こえた。


『マスター。警戒して下さい』

「ああ。サーモグラフィサングラスを……」

『既にマスターはそちらを所持しておりません』


 そうかミミーに預けたままだった! 

 もう一個作るか? でも建物内だと微妙か。

 まずは状況把握が先だ。


「クラウドさんというAIにどうなっているのか、状況を予測してもらうとしよう。これぞまさにAIトーク!」

『お任せ下さい。これまでの状況を踏まえて分析、推測します。まず、グラド様とリーア様がライオット様の予測する斜め上の行動をとってしまい、勇者に見つかります。そこでマスターがここにいる可能性が高いことを疑われました』

「あるわー……全然あるわー。あいつらも脱獄者だったわー」

『次に騒ぎが大きくなり、目が覚めて駆け付けたヤーレン様が勇者に立ち向かおうとします。それを急いで一花いちか様、二花ちか様が救おうとして捕まります』

「あるわー。間違いなくあるわー……」

『勇者に対抗したことで立場を危うくされたライオット様は、近く処刑されるかもしれません』

「なんだって?」

『ライオット様の状況、町の状態を把握、および現在屋敷内にいる何かを制圧しなければ、マスターのミッションコンプリートとは言えないでしょう』


 AIの予測だし大体当たってるだろうが、ボッチが処刑? 

 気に入らない奴だがあいつが処刑されたら全部パーじゃないか。

 屋敷内にいる何かってのはなんだ? 勇者か? 

 俺以外にもスキル持ってる奴はいたな。

 助言とかいうスキルだったか。

 いっそ一足先ひとあしさきに魔王城のおひざ元へ転移させて、そこでフルボッコってのはどうだ。

 ……ダメだよな。

 いくらなんでもプリンちゃんにそんな迷惑押し付けるわけにはいかない。

 無関係な奴を巻き込んで迷惑をかけたら、俺が悪魔だろ。

 

『マスターにはクラウドがついていますよ』

「ああ、分かってる。まず上にいる奴が誰かを知らないとだわ」

『マスターと同じ特殊能力者と推奨されます。時折その反応が消失しており、家具などが破壊される音が聞こえます』

「確かに上の部屋からものがぶっ壊れる音聞こえたんだよな。怒鳴り声などはしないから、戦ってるって感じじゃない。遊んでるとか……待てよ」

 特殊能力。俺の予想もそっちだ。

 家具などを破壊か。

 来ていた勇者だとしたら、FPSえふぴーえすがどうのっつってたもんな。


「分かったかもしれない」

『さすがはマスター。どのようなものを生成しましょうか』

「ふっふっふ。もう俺の脳裏を読み取っているんだろう? クラウドさんや」

『さすがはマスター。悪知恵が働きますね。AIジェネレーター生成で、それなりにマジックを消耗します。ご注意下さい』

「ああ……まぁいざとなったらプリンちゃんの道具でも使ってみるさ」


 ここは執務室地下。階段を登り隠し扉前でAIジェネレーター生成を行う。

 そしてずかずかと足を踏み入れて執務室へ入る。

 奇襲をかけられるチャンスではあるが、相手の能力が分からない以上、俺は慎重だ。

 執務室の椅子に座って指を銃のように構える、右目が隠れた俺より少し若いくらいの男がいた。

 外を向いていてこちらを見ていない。

 部下は見当たらず、茶色の光を指先から放出して動く家具を破壊しているソイツ。

 ……勇者で間違いないな。


「待ちくたびれた。やっぱここだったんだ隠し通路。他は全部壊しちゃったし、待ってれば来るかなーって思ってたけど。罠とか張りたかったな。町中探してるあいつら、可哀そうにねー」

「男に待たれても嬉しくないね。三文字だからかろうじて覚えてるよ。佐々木っつったか」

「佐々木って言うな! ナオキって呼べ。いや、どっちみちあんたは死ぬから呼び方なんてどうでもいいか」

「なんで俺が殺されないといけないわけ? 理由を聞いていいか?」

「だって君、脱獄者でしょ? 怒ってたよリリス様が」

「ああ、あのババアか。最初見たときは少し可愛いとか思ったけど。知り合った連中からすりゃみにくいババアだったわ。もう顔も見たくないね」

「安心しなよ。見ることないから。【オンセット】。あれ? まだこんなに標的あるんだ。まぁいいや。全部破壊すれば」


 片手を銃っぽくしたまま反対側の手で円を描くと俺の周囲にある家具やら俺やらに四角い囲みが出来る。

 そして強制的に体が動き始め、家具も動き出す。

 ……これが他人のスキルか。

 おっかねー。まじおっかねー。


「はい、セット完了。名前は……確か八神君だったっけ。最後に顔を……ぷっ。粘土細工見たいな顔面だね。さようならー」


 奴は俺をちらりと見て、その指先から土の弾を放出した。

 撃ったのは合計八発。

 俺とそれ以外の家具七つの囲いを貫いた。


「あーあ。一人目がこいつじゃなきゃいけないって命令がなければなぁ。あの亜人お姉さんをじわじわと苦しませて楽しんだのに」

「ふーん」

「……えっ?」

「お前の能力って後ろ向きでも撃てるのな。囲いは同時に八つまでか。俺が八神だから皮肉のつもりか? ああ?」


 奴の頭に新しく生成したM9エムナインを押し付けてやる。

 どうだこの野郎! 銃で狙われる怖さを思い知れや! この、この! 

 お前なんて銃でグリグリ、銃グリの系に処してやる! 


「な、なんで生きてる。どうやって背後に!?」

「タレレバー言ってんじゃねーよ!」

「……タラレバだ」

「それを言ってんじゃねー! こっちは寝てないし腹も減ってていらいらしてんだよ」

「……聞いてないぞ。お前は下ネタトークとかいうお下劣げれつスキルしかないはずだろ!」

「はぁ? 下ネタトーク? そんなスキル……ああ、持ってるわ。そうだな、俺のスキルは間違いなく下ネタトークだ」

『マスター! 酷いです!』

「ご免なさいクラウドさん嘘です」


 種明かしすりゃわけないことだ。

 俺はAIジェネレーターで俺の偽物を生成した。

 当然マジックをあまり消耗しないようになんの能力も無いし若干俺と似ていないような生成物だが、これ以上無いオトリ役ってわけだ。

 もっとマジックが増えたら斥候用の俺とか作れるんじゃないか? 

 しかもクラウドさんが操作出来るなら強すぎるわ。


「……あんた、銃なんて撃てるの? 震えてるけど」

「だ、誰が震えてるかばかもんが!」

FPSえふぴーえす初心者特有の震えだね。ガタガタしてる。今にも落としそうだよ。そういえばロック外してるの?」

「ロックだぁ?」

「ハッ!」


 くそ、少し目をトリガーに持ってった瞬間椅子をひっくり返して銃を弾きやがった! 

 こいつ、伊達にFPSえふぴーえす好きって言うだけのことはあるじゃねーか。


「ふう危ない危ない……っと。銃は奪えなかったけど、それをどこで手に入れたの? ここの領主の秘蔵品? あいつ隠しごと多いしむかつくからさっさと処刑しておきたかったのに」

「ちっ。このガキ……」

「驚いたけど、まさか双子だったんだ。二人で脱走してたなんてね。いいよ、スキルじゃなく魔法で殺してあげるよ。君、魔法使えないんでしょ? 対処出来ないよね、きっと。その銃を使おうとしても無駄さ。土壁陣アースプロテクション 。僕はね、アースススナイプの勇者って呼ばれてるんだ」


 奴の胴体部分に光る土色の壁が一瞬きらめいた。

 防御魔法かよ。面倒だな。でも顔面とかはおおわれてない気がするけど、こいつ自身気付いてないのか? 

 しかも俺が双子だって? まだAIジェネレーター消失させてないけど、俺とクラウドさんの関係は双子じゃない。

 最強の相棒……いや婚約者? 妻? まぁいいや。

 妙な肩書きを持ってるみたいだが、蚊取り線香みたいな名前しやがって。 

 そんなもの、このエイトさんが覚えられるはずないだろ。


「長くて覚えられないんだよバーカ。それにお前の能力もろバレの名前じゃねーか」

「……侮辱した分苦しめて殺してあげるからね。左足、右足、左手、右手。それぞれ貫通させていたぶってあげるからねー」


 こっからは魔法に対して防御出来るか分からん実験も含むが……クラウドさんの合図はしっかり見た。

 あいつの場合スキルと魔法を同時使用している。

 魔法の方で対処すると言ったのは、スキルの使用条件を満たさないからで間違いない。

 あのスキル……なんて言うか知らんが囲いを作る奴は、連続発動出来ない。俺が移動しながらクラウドさんでAI生成出来ないようなものだろう。。

 その分魔法が使えるのはずるいが……こいつはFPSえふぴーえすに執着し過ぎている。

 残酷なFPSえふぴーえすやり過ぎてリアルでもやりたくなっちゃう頭のおかしい奴だろう。

 

「さっき指から飛ばしてたのも魔法だろ?」

「そうだよ。囲いがスキル。でも一番弱い土弾アースショットだからね。殺傷力が低いけど致命傷となる場所にあたるとさぁ……苦しみながら死ぬでしょ? そっちの双子のよう……あれ? あいつはどこに行った!? なぜ動けるんだ!」

「気持ち悪いなお前」

『マスター。今です』

「ああ。時間稼ぎに付き合ってくれてサンキュー。自分の能力をペラペラと自慢げにしゃべるなよな」


 トランキライザーガンがオートメーションで火を噴くと、佐々木の野郎の足を貫いていた。

 やっぱ足元も顔面も防御出来てねー。

 せっかく持ってる魔法の無駄遣いだわ。

 致命傷さえ避ければ他はいいってか。

 バカかよ。あたりゃどこだって痛いんだから全身防御しろって。


「ギャアアアアアアアアア! な、なぜ!? どこから? なんで? 僕の足が、足がーー!」

「大げさだな。よく見ろよ。貫通してねーから」

「へっ?」


 当たったのは麻酔。ぎりぎりまで威力を落として放出してある。

 もうすぐこいつは動きが止まる。

 インド象でも眠るって白物だよ? 


「ウ、ウワアアアアアア! 土重弾アースヘヴィショット!」

「最後っ屁かよくそが! 避けられな……」


 狂ったような表情の奴が俺に向けて土弾を両手で投げつけるように放って来た! 

 全身で食らっちまった俺は……「土臭いです」

「……へ?」

「だから、土臭いです」

「ば、ばかな。全力で撃った……のに……」

「土臭いです……あ、ボッチとかがどこにいるのかこれじゃ聞けねえ! まぁいいや地道に探そう。クラウドさん。縄道具生成で頼むわ」

『マスター。ただの縄では不安が残ります。もう一発麻酔を打っておきましょう』

「その方が早いか。あ、ほい。にしてもスキルって面白いのな。囲いを付与する能力とか使い方によっては便利だろうに。お前は能力の無駄遣いだな。正体を隠さず堂々と椅子に座ってたらFPSで恰好の的にされてたぞ」


 こいつがアホな奴で助かったが、たった一人の召喚者でも危ないな。

 しかしなんであいつの土魔法効かなかったんだろう? 

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