第37話 待たせたな!

 皆さんお早うございます。エイトです。

 眠ってないので感覚がよく分かりませんが、もう夜明けです。

 プリンちゃんに箱へと詰められた回復薬を強引に背負わされ、気色悪いカタツムリ的なやつに乗せられてガタガタと移動し、新天地となる魔王のおひざ元に来ています。

 ここは実に素晴らしい。

 まず土地は紫色。毒の湿地と思われる場所が広がっています。

 周囲にある木には、まるで意図的に目と口を切り抜き絶叫を上げるような奇形を彩っています。

 そんな、滅多に見られない鮮やかな木々が生えている魅惑の大地です。

 ところどころに崩れた建物は魔王ご自慢の一品でしょう。

 お優しい魔王様の気配りで備え付けてあるのでしょうか。

 さらにその瓦礫には、これまた人の顔をした鳥がいます。

 それらはギィギィと美しい声を発し、歌っているんですね。

 良い卵を産み落とし、それをゆで卵などで頂ける朝を迎えられるでしょう。

 そんな格別な配慮に「ふざけんな魑魅魍魎ちみもうりょうじゃねーか! この世の終わりかここは」

「ふうむ吾輩なぜこんな男と一緒に連れて来られたのかさっぱりである。しかし召喚者というのは真か? 名前はなんだったか」

「俺はエイトだ。おっさん誰だよ。どうせ来るならサキュバスのお姉さまだろ? なんで仮面の怪しいおっさんが一緒なんだよつーか広いなここ。おい、あれ毒の湿地だよな」

「ううむ名を問う質問に対して数倍違う質問で返すとは。吾輩は大悪魔にして偉大なる発明家! ミドロである」

「大悪魔? 悪魔ってことはプリンちゃんに召喚されたのか?」

「ふむ。多少は話が通じるようだな。もし貴様が召喚された者であるならこれを見るがいい!」


 おっさんが黒い服の内ポケから出したもの。

 妙に機械チック……いや機械のそれを、ボタンを押してパカパカポチポチしているじゃないか。


「ん? 何だそのガラクタ。見覚えあるな。ガラケーじゃねーかそれ? いつの時代だよ」

「ガラ、ケー? なんだその妙な名前は。これは吾輩が発明した魔道具よりもっと優秀であった装置だと聞いたので、研究しておるのだ! 登録したものと容易く音声による対話が可能な優れもの。その名を携帯電話という!」

「まぁガラケーってそういうもんだしな。写真も取れるけど画質がクッソ悪い。つーか電源入ってねーし電波もねーだろ!」

「おお、これが分かるというのはやはり召喚者なのだな! 吾輩にも恐怖せずまともに異世界の道具について話せる男よ。吾輩と少し……」

「おっさんと話してる時間無いんだわ。やばい場所だけど今更土地を変えられないだろ。きっとボッチがなんとかするよな。クラウドさん。早速頼めるか?」

『承知しました。直ぐに開始しましょう。こちらも地盤が悪いため、プラプライムの町同様地中に描きましょう』


 それが無難か。モールドロウアーを二十匹ほど生成……早速回復薬を飲んでみよう。

 ……くそ、やっぱりだ! ボッチの奴のより全然飲みやすい。

 つか、微妙に甘いくらいだわ。


「それは一本で最大マジックまで回復する貴重なナーガの秘薬、フルマジポーションではないか! 魔王様がこんなに譲ったというのか?」

「おお? 一本で最大まで回復すんの? それならゆっくり飲めばいいな。にしてもなんだよそのナーガって」

「ナーガとは女の魔族だ。お主……それ一本飲むだけでどれほど対価を要求されるか分からんぞ。吾輩などな……いや、止めておこう」

「その辺はほら、ボッチが払ってくれるから。にしても地上からじゃ全く分からないな。さすがだぜクラウドさん」


 モールドロウアーは既に地下を掘り進み、移送方陣を描いている。

 ――障がいとなるものが無ければ、クラウドさんがプラプライムの町と同様の規模の移送方陣を描くのにさして時間は掛からいだろう。。

 ここは魔王城からさほど距離が離れていない。

 魔王城はプリンちゃんと同じような髪色だから遠めに見ると血のようにも見えるが、プリンちゃんをイメージすると可愛く見えるじゃないか。

 不思議だ。本来魔王城なんて近づきたいものじゃないのに。

 なんて城を眺めていると、地面がボコリと空いて、片手を上げるモールドロウアーが一匹口を開いて話しかけて来た。


「マスター。行程全て完了しました。AI消失を推奨します」

「早っ。もう終わったのか? さすがだぜクラウドさん」

「地中環境は悪くないようです。地上は浄化することを推奨します」

「そっか。そんなのは全部後だ、後。AIジェネレーター消失」

「ふむ。一体何をしておったのだ? 今のは貴様が使役するモンスターか」

「いや。町をここに移送させるための準備」

「ほう。やはり貴様、正気ではないな」

「俺はいつだって正気だぜ。魔王のひざ元に住めれば誰が手出ししてくるってんだ?」

「勇者に決まっておろう」

「そういやいたなそんな奴。クラウドさん。回復薬一杯あるから武器も作っておこう」

『名案です。どのような武器を作りましょうか?」

「ふふ。サブレッサー消音装置搭載とうさいのM9F1ハンドガンモデル。空圧発射タイプで懐に入る伝説の麻酔銃だ! 延長筒のバレルもつけてくんな」

『マスター。もう一つ生成することを推奨します。マスターご要望の銃では遠距離での攻撃が不可能です』

「ならトランキライザーガンを生成しよう。麻酔弾込みで二つ作れるか?」

『回復薬込みであれば生成可能と推奨します』

「よーしよしよし! 頼むぜクラウドさん!」

『AI道具生成を承認……生成完了。再度生成……」

 ぼとりとまずは一本目。M9F1という最高にクールな麻酔銃を用意した。これを握ったら一言目は決まっている。

「待たせたな!」

「吾輩大して待ってはおらぬぞ」

「お前に言ったんじゃない。回復薬は残り五本か。もらってもいいんだよな?」

「吾輩に貴様のマジック量を知る術はないが、なぜ魔法を使用しておらぬのに、それを飲む必要があるのだ? そして何か落ちて来たような」


 こいつついてきたから隠しようが無かったけど、細かい能力までは把握出来ないだろ。

 異世界道具収集へきでもありそうなこいつに見せてやるか。

「俺の新しい武器、見せてやるよ」

「ふむ、武器? ……これは一体なんだ!」

『AI道具生成完了。背中に背負い肩に固定装備する設計にしてあります』


 二本目は長距離仕様の麻酔銃。

 猟銃に近いが断然恰好良いトランキライザーガンだ。


「さすがだぜクラウドさん。試し撃ちしてみるか。あの気色悪い木でいいだろ」

 

 トランキライザーガンはデカい上にスコープもついてる。

 こちらはあてどころを間違えると貫通する爆薬式だ。

 対勇者で使用するなら足か手しかない。

 逆にM9なら大体どこ狙っても平気だろう。

 ガス圧縮式だからガスの補充が必要だろうな。

 狙いを気色悪い木に定めて……あれ? 


「木が走って逃げるんだけど」

「それはそうであろう。あやつはトレント。人間をからかいに来ただけだ」

「……撃っていいか?」

「完全に怯えている。悪気はなかったのだから許してやってくれるか。それより吾輩、エイト殿を侮っていたようだ。これは実に興味深い。我が英知を更に高められるものであろう!」

「やらんけどな」

「そう、か……」

「しょぼくれるなよ。これはやらんけどあんた、大悪魔とか言ってたな。今後協力するなら俺と取引しない?」

「大悪魔と分かっていながら人が契約を持ちかけて来るとは酔狂な男よ。気に入ったぞ」

「まぁ全部後回しね。忙しいんだよ俺。混浴……もやってたら一花いちか二花ちかに生ゴミとして認識されるから、そろそろ俺を戻してくれないか。勇者を町から放り出すのに成功したら戻って来るから」

「ふむ。出来ればその勇者が持っている珍妙な所有物があれば持ってきてはもらえんか? 当然対価は支払おう」

「乗った」

「ついでにエイト殿が死んでは吾輩との取引が消滅してしまう。一つこれをやろう。懐に持っておくと良いことがあるかもしれないし無いかもしれない」

「ん? 何だこれ。藁人形。怖いし気色悪いわ!」

「いいから持っておけ。吾輩は偉大なる魔道具発明家にして大悪魔のミドロ。よく覚えておくのだぞ。それと魔王プリンシア様をプリンちゃんなどと呼ぶのは控えるのだ」

「四文字以上の奴の名前、覚えられないんだわ。ミドロみたいな名前なら覚えられるけど」

「ふむ……吾輩の名前は正確に言えるのか。一応魔王様に助言しておくとしよ……」

『急いで戻ってまいれ、エイト! ミドロ、さっさとエイトを我が前へ運ぶのだ!』

「む……魔王様からの呼び出しだ。戻るぞ」

「あのカタツムリ揺れるから嫌……うおお!」


 来たときと同様でかいカタツムリが無理やり俺を乗せて走り出す。

 くっそ速いし音も凄い最低な乗り物だ。

 プリンちゃんを乗せて走ってるとこなら遠くから見てみたい。

 ――魔王城に再び戻らされ、そして! 


「はぁ……」

「あー。これボッチにやられたなー」

「魔王様!? 一体どうされたのか!?」

「ミドロ。お主は少し控えておれ。エイトよ……」

「ボッチ、やばかったろ……」

「何がボッチじゃ! あやつはライオット。マジックオブコート前国王の参謀にして悪質な嫌がらせを得意として罠にはめる狂人ではないか!」

「そんな有名だったのか、あのボッチ。大体合ってるけどやりこめられたんだな」

「はぁ……あ奴とは深い仲だったのか?」

「いや? ただ仕事を一度受けただけ」

「やはり童を巧みに罠にはめおったな!」

「よく分からないけどさ。俺はプリンちゃんの味方だぜ!」

「なっ……まぁよい。童の弱点を童の喉元に置くのが最も安全、か。よう言うたわ。まぁよいエイトよ。新天地はどう……」

「それより急いで戻してくれよ。このままじゃ生ゴミなんだわ。武器も用意したし帰らねーと」

「ライオットの話では、勇者一名護衛二名。今は眠っておるが、降伏は認めず明朝よりFPSえふぴーえすじゃったか? を開始するそうじゃ」

「なんだって? もう時間無いじゃないか。あいつ、まじで町民を殺し始めるつもりかよ!」

「ふむ? まずい事態なのは理解しておる。じゃが、童は現地には向かえぬというか、貴様以外誰も向かうことは出来ぬ。だが、協力はしてやるぞ。ミドロよ」

「はっ。すでに一つ吾輩からは委ねてあります」

「ふむ。童からはこれを託す。よいな? いきなり使用するでないぞ。状況が悪くなったら使用するのだ」


 そう言って俺に三つの色が違う巻物を渡してくるプリンちゃん。

 何これ恋文ってやつ? 開けて読んでみたいんだけど開けようとしたらものすごく睨まれました。


「よいぞミドロ。エイト、無事に戻って来るのだぞ!」

「え? そんな危険な感じならやっぱ止めておこうかな」


 と思ったらミドロが俺の前に立ちはだかり高らかに声を発する。

 どけ邪魔だプリンちゃんが見えないだろ。


「それでは貴様を戻す! また会おう、愉快な召喚者エイトよ!」

「誰が愉快な召喚者だおま……」


 転移させんなら最後まで言わせろやくそがー! 

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