第36話 これがマジステータスってやつなのか

「……貴様は童をおちょくりに来たのか?」

「うええ。強制的に呼びつけておいてそりゃないぜフジコ。いいから水くれ水」

「誰がフジコだこの無礼者め! いいだろうそんなに欲しければくれてやるわ! 魔王の放水、とくと味わうがいい! ウォーターカール!」

「え? 魔王の聖水がカールおじさ……うおお!」


 目の前に大きな水の塊がプリンちゃんの片手から伸びて差し迫る。

 水のくせに気持ち悪い動きすんなよ。気持ち悪いのこっちなんだぞ。

 今の俺はグロッキーで避けられそうにない。

 激怒したプリンちゃんの水魔法を甘んじて顔面で受け止めるとしよう。

 ついでに洗顔……ってあれ? 魔法って初めて食らったんだけど、この水美味いのな。

 手加減はしてくれたんだろうけど痛いとかそういうの無かったわ。

 なんだ? 回復魔法投げてくれたのかよ。プリンちゃんて優しい魔王だな。

 にしても回復薬って乱用して平気なもんじゃないわ。

 やべーよ今度は水飲み過ぎてきつくなった。

 プリンちゃんの隣にいる仮面の変なやつ、胃腸薬持ってねーかな……。


「今度は水で腹一杯だわ。そっちの仮面、胃腸薬持ってない? キャベツンでいいから」

「なっ!? ……多少のダメージは受けると思ったのだが」

「キャベツン!? 新しい魔道具ですかな? それにしても魔王様は酔狂です。こんな男を吾輩わがはいの大切な魔道具で呼び出すとは。もうあの魔道具で他の者は呼び出せませんぞ」

「だまっておれミドロ。こ奴と一対一サシで話がしたい。貴様はこ奴を戻すための準備でもしておれ」

「承知しました。吾輩の褒美は……」

「そういうのは後じゃ後! 早う行け!」

「なぁ、それとそろそろ俺、眠いんだけど。話しを済ませて……あぁ! プリンちゃん回復薬もってない? 出来ればまずくない美味しい奴ですげー回復するやつがいい」

「ふぅ。貴様とはまず真剣に最初から話をせねばならぬ。これで多少目も覚めよう」


 あれー、なんかプリンちゃんの指先に大きな水の塊が見えるな。

 もう水飲めないよ? と思ったらその水が天井に向かって飛んでいき、俺の頭に滝のような雨を降らしやがった! 


「ぶへっ……起きた、起きたから! ちくしょうこっちは客だぞ!」

「童は貴様に興味はあれど、まだ敵かもしれぬと思うておる。口の利き方、そして何より態度に気を付け……」

「すげー雨のせいでチャック壊れた。うわ、なんだこの服すげー透ける」

「ななな、なにをしておる! 大体その衣類はなんじゃ!」

「俺に言われてもな。腕のとこも穴空いてるわ。にしてもこの水は痛くないのになんでチャックとか服が壊れるんだ? そうかボッチの趣味の服だからだな! まぁいいや。それで? 俺の意見を飲んでくれる条件ってのは?」

「ええいちっともよくないわ! 誰かおる! 人族の衣類を持って参れ!」

「はーい、魔王様。ただいま参りますー」


 結局乾かして着替えさせられましたが……出てきたの、サキュバスのお姉さまですよ! 着替えさせてもらいました。有難うございます! 

 なんならもっかい雨に打たれてもいいんだけれどもね? 


「魔王様。こちらの殿方、もらっていってもいいですかぁ?」

「ええ、どうぞもらっていってくださいー……冗談だって! 火炎魔法はやめろ。てか水だけじゃなく火魔法も使えるのかよ」


 ちょっとだけ鼻の下を伸ばしたっていいじゃないか! 

 頑張ったご褒美があったっていいじゃないか! 

 ……プリンちゃんの顔がマジなので止めておきます。


「お前たちはさっさと下がれ」

『はぁーい。じゃあね、僕ちゃん』

「はーい、また今度ー!」


 出来れば一緒にいてくれた方が雰囲気が和らぐんですが。

 このぴりついた空気を少しでも……ぴりつかせてるの俺なんだけど。

 しかしだよ。目の前にはサキュバスのお姉さまたちより非じゃないほど美しい、真っ赤な長い髪を揺らす長身エロコスのプリンちゃんがいるわけなのだが。

 視線のやり場が困るんですよ魔王様。


「貴様はどこまでふざけておる。こほん。話を進めるぞ。エイト、まず最初に確認することがある。貴様は本当に召喚者か?」

「召喚者ってのはマジックアカデミア国に呼び出された奴らのことを言うんだろ?」

「そうとも限らぬ。確かにあの国は異世界より多くの者を召喚しておるが、あの国だけが異世界人を召喚するわけではない。我ら魔王もそういった召喚をすることもあるのだ」

「魔王が……人を召喚するのか?」

「くっくっく。魔王が召喚するのは人ではない。デーモン。貴様らに分かりやすくいうなら悪魔だな」

「悪魔と魔王って何か違うのか?」

「……貴様本当に知らぬという顔だな。悪魔とは魔王に使役される私兵のようなものだ。悪意に満ち、悪意の下に行動する。魔王、魔族とは異なる存在だ。これは異世界より呼び出す召喚術じゃ」

「ふーん。つまり悪魔は泥棒したりスカートめくりしたり隣の家の植木鉢を壊してバカモンされるようなやつか」

「どうにも悪い概念が弱いが、平たく言えば……そうじゃな?」


 腕を組み小首を傾げるプリンちゃん。ナイスショットですよインスタントカメラ生成しておけばよかったわ! 


「ちょっと今の言い方可愛かったプリンちゃん」

「ええいふざけておる場合か! 童が聞きたいのは勇者足り得る召喚者のことじゃ。貴様は魔法が使えぬと申したな」

「それは間違いない。ステータスに一つも無いから」

「見せられるか、そのステータス」

「それには条件がある」

「なんじゃ? さすがにステータスを確認するだけで全ての町民を救ってやる話なら……」

「混浴風呂を造らせてくれ!」

「先にも申しておったな。なんなんじゃそれは」

「男女が一つどころに風呂へ入り語らう場所だ! それこそ混浴風呂だ! 全男軍団の指揮が跳ね上がると言っても過言ではない。ああ、過言ではない!」

「ふむ……指揮を高める団らんの場というわけか。まぁよいだろう」

「うっしゃあ! おいクラウドさん聞いたか? 魔王城にまさかの混浴風呂を爆誕させる許可をもらったぞ! うっひょおーー! これはAI生成がはかどりますわぁー! どんな形にしてくれようか」

『マスター。よかったですね。悲願が叶いました!』

「クラウド? とやらは一体なんなのだ? 貴様の分身体か何かか? 童には見えぬのだが」

「ああそっちは後だ。んで、ステータスはどうやって見せるんだ? 魔王様が眼でじーっと見ると分かるとか?」

「そういった方法もあるにはあるが……これに触れてみよ」


 プリンちゃんが差し出してきたのは例の石板だ。だが、やたらと縦長な石板に見える。

 これにはろくな思い出がない。なんなら叩き割ってやりたいと思うが今は混浴のためだ。

 そーいや襲ってきた熊倒したのにレベル上がらなかったな……。


「ちなみに貴様が使ったことがあるような安物とは違う。この見通す石板はあらゆる情報を見通す。隠し事は出来ぬと知れ」

「へ?」


 エイト

 年齢 26 

 誕生日 8月8日

 職業 ヤブンイレブンの元店員

 レベル 769

 LIFE POINT 23550/23550

 MAGIC POINT 2290/39300

 STRINGストリング 772

 VISIONビジョン TRANSFORMERトランスフォーマー 2320

 DEFENSIVEディフェンシブ XENOゼノ 5320

 INCERTIVEインサーティブ CREATEクリエイト 999999999規定値超過測定不能

 ALGORITHMアルゴリズムLORDロード 532

 習得魔法 無し

 通常スキル AIトーク

 付帯型固有スキル AI生成メニュー(プロテクトコードレベル2)、AI並列処理(プロテクトコードレベル1)

 通常ステータス オールマスキング 


「な、ななな、なんじゃこれは!? 見通す石板でもステータスが阻害され確認不可能だと? 貴様は一体何なんじゃ! この付帯型固有スキルとやらの影響なのか!?」

「俺、不能じゃなかったぁーー! よっしゃあーー!」

「不能? 一体どこで喜んでおるんじゃお主は……」

「にしてもなんだよ。INTってインテリジェンスじゃねーのかよ。俺が天才過ぎてやばいのは事実だが、方向性が違ったってことだな」

「このようなステータス、童は初めて見た。一体どういう意味じゃ? お主分かるか?」

「大体はだけど。色々納得したよ。そもそもレベル七百六十九って高いのか?」

「並みの勇者で精々五百程度じゃ。お主一体どのようにしてこんなレベルに。ええい聞きたいことが多すぎるぞエイトよ!」

「ふーん。まぁいいや。ライフとマジック以外上から順番に説明して……やっぱだるいから省くわ。基本俺のAI生成……つまりさっき言ってたクラウドさんに関わる能力ってことだ」

「それではさっぱり分からん! しかし童にも一つだけ分かったことがあるぞ。貴様は嘘を付いていなかったということ。本当に魔法を使えぬ者を呼び出しておったのか。これを目の当たりにしては信じぬわけにもいかぬ」


 プリンちゃんに少しでも信じてもらえたならよしとするか。


「クラウドさん、俺のステータス認識って生成能力のことで大体あっているよな?」

『マスター。おおまかに合っていると進言いたします』


 しかしステータスマスキングってのはなんだ? 

 筋力とか向上してないってことか?

 ハチだのにぶっ刺されたのって結構危なかったんじゃ。

 リーアってもしかして治癒とか出来たのか? 

 分からんことが膨らんだわ。

 しっかし魔法が使えないのは俺が気にしてることだけど、魔王にとってそんなに気にすることなのか? 


「なぁプリンちゃん。魔法が使えないと魔王にとってどうなんだ?」

「魔王は魔法でしか倒せぬ」

「へ?」

「つまり貴様は生身で絶対に童を倒せぬということだ。それだけレベルが高くても、童にとって何の害意もない。無害のお主となら童は……いや、こちらは童の杞憂きゆうであればよいのだが。貴様のような存在を敵になど回しとうない。なれば童の城下に取り込むのが一番の手であろう。しかしお主、時間がないと申しておったな。町民を全て移動させるのは難しいのではないか? 救えるものだけ選別するつもりか?」

「いや、あっちの町には移転させる準備を済ませて来た。あとはプリンちゃんの土地に移送方陣を描かないといけないんだよ。移転させてもいい場所に連れてってくれ。それと回復薬下さいお願いします美味しいやつで」

「ふむ……? にわかには信じがたい話ばかりしおるな。まぁよい。回復薬には対価を払ってもらうが、よかろう。キャタピラズクロウルよ、我が呼びかけに応じよ!」

「ギジギジギジギジ!」

「びっくりしたーー! なんだこいつ!」


 いきなり地中にプリンちゃんが手を当てると、足がいっぱい生えたでっかいカタツムリ的な奴が出て来た。

 何これ! 魔法? 召喚? すげー! 俺こういうのやりたいです。

 真似してやってみよう……出来ませんよね。

 知ってました。

 プリンちゃんそんな目で見ないで。


「もし出来るというのであれば、貴様の言う通り我が支配地域に町ごと移転することを許可しよう。じゃが統治はせぬし、きちんと上納金や食糧などの提供はしてもらうぞ。それとエイト、貴様は童に……いや、これは成功してからにするか」

「おい何言ってんだ魔王様。統治すんのは俺じゃないぞ。それにだ。どうせやるならちゃんとした取引しないか? その方が互いのためだぜ?」

「どういう意味じゃ? お主の話は主たるものが抜けてて分かり辛いんじゃ。もっと詳しく話せ」

「その適任は俺じゃない。まずは急いで移送方陣を描きに行く。その間に魔王様は再度あの通信機で話しかけてくる奴が絶対いるだろうから応じてくれ。重要な問題があるんだよ」

「なんじゃ? まだ何かあるというのか」

「今プラプライムの町に勇者が一人来てる。そいつをどうにかする算段を必ず聞かれるはずだ。いっちょ勇者退治を一緒にやらないか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る