第39話 仲間を助けに行こう

「クラウドさん。AI道具で油性ペン出してくれ」

『マスター。マジックの無駄遣いは推奨されませんが、必要ですか?』

「ああ必要だとも。こいつは俺の複製とはいえクラウドさんを粘土細工見たいな顔面とののしったんだ! 許せん」

『AI生成レベルが二のため、人のような複雑な生物を生成するにはレベル三にする必要があると進言します。AI道具生成油性ペン……完了しました』


 どれ、こいつをいっちょイケメンにしてやろうじゃないか。

 眉毛を繋げて……ん? なんだこいつの片目。

 目の中が魔法陣? いや、まさかこれは! 通信魔法か何かか!? 

 まずいことになった。

 こいつは捨てておいて部屋の外に出ないと。


「あれ? なんで部屋の外に宝箱が置いて……ああ、そういうことか。おいミミー起きろ! エイトだ。飯の時間だぞ」

「飯ー! あれ? お兄?」

「お前は無事だったんだな。てかミミックの役目はどうした」

「お姉がね。出てきちゃだめだ鍵を閉めてここでじっとしていろって。だからいっぱい蹴られたけど出なかったの」

「お姉ってヤーレンか? 本物の宝箱だと思って持ち帰るつもりだったのか。とにかく無事でよかった。状況を教えなさい」

「んーとね。ミミ―よく分かんない」

「ですよねー」


 ミミーに預けておいたサーモグラフィサングラスなどを装着して……あーもう汚れてんな。周囲を確認するが、室内じゃやっぱりよく分からない。

 この屋敷は広い。どこかにヤーレンたちがいればいいが……。

 ボッチは住民を人質に取られて逆らえないってとこだろうな。


「クラウドさん。召喚者って自分が欲しいスキルを持ってるものなのかな」

『その可能性は高いかもしれません。つまりマスターこそ最強であるとクラウドは進言します』

「しかしな。あいつらは能力以外に魔法も使えるだろう?」

『まだ断言は出来ませんが、マスターは魔法が効かない可能性があります』

「そーいやプリンちゃんの魔法も、こいつの魔法も水と土そのものに感じた。魔法ってそういうもんじゃないの?」

『現在魔法に関する情報が著しく不足しています。物理的な攻撃はマスターにも効果があると断言します』

「まぁ剣でぶった切られたら死ぬよな。そして剣術一本でやってきたようなやつがもしこの世界に召喚されてたら、それは……剣の勇者か。敵わないわ。そんなイケメン補正も加わりそうな奴、絶対無理だわ-。気にしてもしゃーないしまずはあいつら探すか」

『マスター。探索用の道具をAI生成しましょう』

「オウケイ……AIジェネレーター、犬五匹位でいいか。嗅覚特化型ならそれなりにマジック消費するよな。おいミミー。ヤーレンかなにかの匂いが付いたもん持ってないか?」

「あるよー。鎧に着替える前の服ー。毛布もー」

『AIジェネレーター、小型犬を五匹生成……完了しました』

「わぁ! 可愛いの、ミミーの!」

「お前のじゃない。さぁヤーレンの所有物とやらを俺に寄越すんだ」

「可愛いのに上げるね」

「おい、俺に……」

「マスター。居場所が判明しました。ついてきて下さい!」

「可愛いのしゃべったー! 待ってー!」


 誰も話を聞いてねー! ん? 外に向かったぞ? 

 屋敷内にはもういないのかよ。

 ――外に出て直ぐ、事態の深刻さに気付かされた。

 マジックアカデミアの脱獄者を、ここの領主であるボッチがかばっていたのがばれてるのは間違いない。

 町内部にマジックアカデミアの兵士が何人か入り込んでいる。

 町民がそいつらと反抗するように争っていた。

 ここは町から高い場所にあるから町をよく見ることが出来る。

 傷を負った子供を治療する聖男様。

 ひっくり返って失神している道具屋の店主ブルーナ。

 馬車に無理やり詰められそうになっている子供をかばう一花いちか

 そのそばに剣を奪われ縛り上げられているヤーレン、そしてグラドにリーアもいた。

 町の一部は火で焼け落ち、最奥で指揮しているゴリラのような兵士も見える。

 いやあれはゴリラだ。

 なるほど……こんな早く兵士が来るってことは、国境警備と牢獄の町の奴らか。

 これだけの騒ぎだ。マジックオブコートから兵士もそのうち来るだろう。

 

 ボッチは……「いた。おいおい十字に縛り上げてって、まじでやったりすんのかよ。異世界こえー」

「マスター。一花いちか様たちはミミー様とクラウドにお任せを。相手の指揮官はあの男のようです」

「ゴリラが指揮官って笑えない冗談だぜ」


 まずはボッチを助けるべきだが、今のところ兵士は誰一人俺たちには気付いていない。

 ……そのままボッチを焼こうってか。ばっかじゃねえの。

 小指をちょっと火傷しただけでも飛び跳ねるくらい熱いんだぞ。


「トランキライザーガン……届くよな」


 屋敷の入口からボッチが吊るされている場所までは少し遠い。

 屋敷の門から少し離れた、町からも見えるような場所だ。

 ボッチを見ている奴より戦ってる奴がほとんどだが。

 ボッチは下を向いたままだ。

 何かを祈っているのか。絶望しているのか。

 それはここからでは分からない。


「はー、やんなるわ。俺は静かな部屋でホーリーカオスを生成していたいだけだってのにさ。次から次へと変なことばっか起こりやがって。だから頼むぜボッチ。これが終わったらゆっくり寝て、しばらくは屋敷から出ない生活するからな! いけぇーー!」


 銃声一発。下で火をつけようとしたやつの腕を貫いた。

 今、クラウドさんに頼ってはいけない。

 妙に頭が冴えて冷静だった。

 直ぐ近くにいた別の兵士四人全てに麻酔弾をヒットさせた。

 そのまま急いでボッチの下へ駆け寄ると……ボッチはもう下をうつむいてはいなかった。

 天を見上げて笑っていた。

 だから怖いわお前! 


「ああ神よ。彼をつかわしてくれたこと、感謝します。彼こそ私が望む最大の友であり町民を救ってくれる……英雄であると信じていました。さぁエイト殿。今こそ私の鎖を断ち切り、賊軍を全て討ち果たしましょう。ふふふふ……」


 などと叫んでいるが俺にそんな手立てはない。

 ひとまず俺のサブちゃんでボッチを吊るしてるものを破壊したらさすがにサブちゃんの刃が欠けた。

 あーあ、どうすんのよせっかくの伝説級の武器が! 

 お前後で絶対弁償しろよ……くそ、ゴリラがこっちに気付いて動き出し始めた。

 町民と戦っていた兵士を呼び集め、屋敷を取り囲むように前へ動き出す。

 クラウドさんは一花いちかたち周辺にいた兵士たちを撃退して、俺とボッチの周囲に集まっていた。


「エイト様。よくご無事で。二花ちかは信じていました」

「がんばったようねエイツ。まだあなたを信じてはいないけれどライオット様を助けてくれたことは褒めるわ」

「遅いぞエイト! 危うく私は変な衣装に着替えさせられ、売りに出されるところだったんだからな!」

「何言ってんのさ。あたいより貧相な体してるってのに」

「エイト。お前はやはり裏切らないな。不思議な奴だが俺はお前を信じていたぞ」

「お兄。お腹空いたー」

「はいお前ら静かにしろ。俺は寝てないからちょっとイライラしてます。クラウドさん。AIジェネレーター消失だ」

「あれー。可愛いのいなくなったー! どこ?」


 そろそろマジポーション飲んどかないと。

 兵士の皆さん殺気だってますね。こいつらをどうやって追い払ったもんかな。


一花いちか、馬車に子供たちが詰められてたんだろ。屋敷内に連れて行ってくれよ。子供が見るようなもんじゃない。あと執務室に変な勇者が眉毛を繋げて伸びてるから身ぐるみをいで町の外に捨てておいてくんない? 大至急で。二花ちかとヤーレンは町民の様子を気付かれないように見に行ってくれ。怪我人がいたら聖女……聖男様のところに。グラド。お前は失神してるブルーナさんを助けてやってくれ。リーアはカンキチたちの下へ行って無事を確認して来い」


 全員ぼーっとしてる。なんだよさっさと動いてくれよ。

 こっちは眠いんだよ。


「お前……本当にエイトか?」

「的確な指示ね。また少しだけ見直したわエイツ。勇者って眉毛繋がってたかしら。まぁいいわやってあげなくもないわね」

「素敵ですエイト様。二花ちかはどこまでもついていきますから」

「あたいがミノタウロスのとこに? なんで?」

「分かった。目の前の兵士をお前がどうにかするんだな?」


 散々な奴と尊敬の眼な差しと半々なんですけど。

 まぁいい。

「プリンちゃん。この巻物使うぜ……大群相手じゃどうにもならんからな。おいゴリラ! 久しぶりだな」


 こちらに迫るゴリラを静止する目的で大声を張った。

 兵士を手で静止してぴたりと止めた。

 一時停止成功。危ねー、この巻物どうやって使うんだ? 


『マスター。これをぜひ写真で撮影しましょう!』

「却下だクラウドさん! んなことやってる時間無いって。そういうのは魔王と直接交渉だ」

「それは……エンシェントスクロールではないか!?」

「ん? ヤーレン、使い方知ってるのか? じゃあ悪いけど、二花ちかだけで町民の様子を見に行ってくれるか」

「はい、承知しました」


 二花ちかは素直でいい子だ。この子を俺専用の執事に雇うことをライオットに打診しようそうしよう。

 と、ちらりと衣服がボロボロなライオットを見ると、最高に邪悪な笑いを返された。


「エイト殿。私も戦います。さぁ神の如き指示を私に!」

「ボッチは怪我してるから一花いちかと一緒に屋敷へすっこんでろ」

「……ライオット、と」


 こいつハイになってて策略どころじゃないな。

 ちゃんと休ませてプリンちゃんの下で役に立ってもらおう。

 

「ヤーレン。こいつ渡すから合図出したら使ってくれ。ゴリラと話をしてくる」

「お、おい。一人で行くつもりか?」

「うるせーな。こっちは早く寝たくてイライラしてんの。お前信じて任せるんだからしくじるなよ」

「全くお前という奴は……もっと他に言い方があるだろう!」

「お前そういう言われ方が好きなんだろうが」

「なっ……何を……私は、私は……! ええい早く行ってしまえ!」


 これで無鉄砲なこいつが突っ込んでくることは無いだろ。

 兵士共を一掃するにはAIでどうすべきかを考えるときだ。

 そのため時間稼ぎしながら思考を巡らせることにする。

 いつだって考えて来たはずだ。

 どんなものがAIで出来たら便利になるのか。

 どうしたら安全に暮らせるのか。

 敵となるやつを排除出来るのか。

 この世界であいつらがびびりそうなものを生成する。

 それが俺の今出せる最大の武器だ! 


「よくも俺をだまして国境を通りやがったな! 犯罪者め。一体どのようにして通行証を入手したのか分からないが……大人しく投降するなら痛い目に合わなくて済むかもしれんぞ?」

「おいおいゴリラ。何ウホウホ言ってるんだ? 俺は犯罪者じゃないぜ。強いて言うなら人を勝手に異世界に呼び出したあのババアが犯罪者だろ。リリスつったっけ……クラウドさん。AIジェネレーター生成。魔法が効かない能力を持った、魔王城で見たキャタピラニア苦労人とかいう化け物を生成してくれ。周囲にいたあの木もついでに何本か周りに生やしておいて」

『マスター。多量のマジックを消費しますがよろしいですか?』

「ああ。ヤーレンがプリンちゃんの道具を使ってくれるまでの時間が稼げればいい」


 俺の発言でゴリラは怒り狂っている。

 この茶番、最終バトルといこうじゃないか。


「おら、かかってこいやゴリラァーーー!」

『AIジェネレーター生成開始……完了。キャタピラズクロウル、発進します!』

「俺の覚え間違い文字修正してくれて有難う! それとそいつ、ロボットじゃないからな、クラウドさーん!」


 安っぽくない生成レベル上昇音と共に俺を運んだきしょい巨大生物が姿を現す。

 そしてこのタイミングで生成レベルアップ、有難いね! 

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