閑話 ボッチは深く考える
※前書き こちらはライオットさん視点のショートストーリーです。物語のエイト視点では見れない部分を少々分かりやすくするために描いたものになります。
私はライオット。病に倒れた父から領主を受け継いで八年。
早くに両親を亡くした私に残された家族は、執事として雇用した孤児たち、そして町民たちに他ならない。
数十日前。門兵を務めるカンキチさんから大変興味深い報告があった。
怪しげな恰好をした金を持たぬ男が、禁断の果実ともいえる食べ物を持ってきたという。
最初はただの報告と受け止めたが、カンキチの子供がその果実の一つを持ち私の下を訪れた。
食してみると、それは得も言われぬ幸福をもたらすような味わいのリンゴだった。
この世界において、あれほどの果実は実らない。
その男はどのような手段を用いたか不明だが、異世界からそのリンゴを持ち寄ったのだと確信した。
早急に調べ上げたところ、宿屋の主人よりその正体が判明した。
その名をエイト。
彼は実に不可解な人物であることを知った。
中でも興味を引いたのが、ヤーレンと関わりのある通行証。
こちらから出向くことも考えたが、ある日、彼自身が私の目の前に現れた。
心底、心が躍った。これほどの喜びを味わったのは久方振りだ。
しかし情報が定かであるかを確認する前に、彼は更に驚くものを持ち出してきた。
ガラス細工。それも、この国が持つ技術では作れない形状で、何一つ異なる部分が見当たらない同一のものを五つ。
驚く以上に私は恐怖した。
彼は……神かもしれない。
これは私が彼に試されているのか、それとも神に試されているのか分からなくなった。
恐怖した私は彼をあえて遠ざけてみることにした。
もし彼が……神ではなく、神の力を持つ心ある人であるならば、私の下に再び戻ってくるかもしれない。
本当に神であるなら……マジックオブコート共々、私も滅ぼされるかもしれない。
恐怖と歓喜。双方が私の胸に渦巻いた。
そして彼は……戻って来た。
ヤーレンを連れて。
非礼を詫びたが、事態は深刻化している。
現状我が国は多方面と敵対し、強大な国マジックアカデミアからも目を付けられていた。
彼はマジックアカデミアより流れて来た投獄者。
私は彼をかばい、この国を捨てる覚悟を打ち明けた。
彼は私に嫌々ながらも協力をしてくれるという。
民が、子供たちが助かるのであれば、子の命失おうとも構わない。
願わくば……彼がこの世界で何を成すのか。それを見届けたい。
私の下を訪れた勇者は、一度接客の間に移し、魔王プリンシアと対談を行った。
魔王の顔色はエイト殿との対談を終え、やや疲れた表情を浮かべていた。
私は彼の全容を魔王に打ち明けた。
「つまり彼は……神のような力を所持しています。そして恐らく召喚者としてどの者より強い勇者足り得るでしょう。あなたにとって最も危険となる恐れのあるものを懐に入れておけば、あなたを守るきっかけとなると確信しています」
「確かにエイトと話をしてその欲の無さに驚いた。だが童にとってみればそれはエイト個人での話。貴様がそうでないという保証はあるのか?」
「私はエイト殿に心酔しています。町の統治などの多忙となるものは私が引き受けましょう。彼は能力としての成長が必ずあるはず。そして魔王様。あなたの危惧していることもその通りだと確信しています」
「こ奴……童の考えを読み取るか」
こうして彼女へのカマかけは成功した。
後はエイト殿に託すのみだ。
――だが、執務室に戻ると直ぐ、再び扉が乱暴に開かれ数人の者が入って来た。
「おい、領主。何度扉を叩いたと思ってるんだ」
「これは失礼。佐々木、ナオキ様。いかがいたしました?」
「佐々木って呼ぶな!」
「なぜ、佐々木様とお呼びしてはいけないのかお尋ねしても?」
「お前には関係ないだろ。ライオットとかいい名前もらってるやつには分からないんだよ」
目の前にいる男も召喚者。だがなんの魅力も感じない。
洞察力を発揮するに最も大事なのは相手の視線と仕草。
そのどれ一つとってみても彼が大した能力を秘めてない凡人であることが分かる。
エイト殿は仮に私が領主だと述べても動じることは無かっただろう。
そして彼の視線が探しているのは美しいものばかりに目を向ける。
目の前の男のように他者を見下したような目で見たりなどしない。
そして仕草もだ。
エイト殿は常に頭の中で何かを巡らせているためか、動作は少ない。
無駄な動きが無いともいえるが、彼は動きが無駄だらけだ。
そして話言葉も対等を望む会話ではない。
服従を常に強要する……心弱き者の発言だ。
そんな彼との対話を穏便に済ませようとしたときだった。
乱暴に開いたままの扉から二人誰かが入って来る。
「おいエイトはどこだ?」
「あーあ、あたいもドレス着たいなぁ……うん?」
……エイト殿は残念なことに有能過ぎるという仲間はお持ちでないようだ。
しかし彼らは彼らで実に面白い。エイト殿をこちら側に導くにあたり、彼らは運命を共にした仲間となったのだろう。
見捨てることは出来ないが、この突然の往来には私も度肝を抜かれた。
まさか来客中の部屋に入って来るとは。
「……なんだこの亜人共は。あれ? お前ら確か……」
「ナオキ様! そちらの熊とアリは脱獄者です! こちらのリストに人相書きが!」
「……なんだよ。やっぱりいるじゃん。隠してただけなんだねー」
「なんのことやら分かりませんね。彼らは客人です。グラドさん。リーアさん。別室でお待ちくだ……」
「おっと動くなよ。今俺の能力で補足した。お前もだよライオット。動いたらズドンだ」
「……これは何の真似ですか。このようなことが許されるとでも?」
「僕の片目を通してさぁ。リリス様が観てるんだよね。脱獄者をかくまってシラを切ろうとしてた君は多分死刑だよ。一応連絡を待つけどさー。抵抗するようなら今すぐ殺しても構わないよね? 町全体を取り囲んで、マジックオブコートからの援軍も処理かな。国境に一番近い人、誰がいる?」
「確か……抜刀斬りの刹那様に爆殺魔法の瞳様が……」
「うげーっ。どっちも会いたくない。でもそんなこと言ってられないか。お前らの片方は国境付近の兵士呼んできてよ。ここからなら直ぐでしょ」
「待って下さい! 領民に手出しは!」
「うるさいなー。こっちもリリス様の許可がないまま惨殺とか出来ないんだよ。それで? 一番肝心な八神八雲ってやつはどこにいんの?」
「八神……?」
「アースショット!」
自動で追尾するような土魔法?
伊達に勇者ではないということでしょう。
「うぐっ……どうか皆さんに手出しは無用に」
「お、おい! 殺すつもりか!」
「亜人はだまってろ。痛いだろ? 嘘をつくなよ。八神だよ八神。マジックアカデミアから脱走した召喚者だよ」
「彼は……戻るまで時間が掛かります。いえ、必ず彼なら……」
「ふーん。んじゃ俺、ここで待ってるから。おい、ライオットは町民に見えるよう外に吊るしておけ。亜人はまとめて馬車に詰めとけよ。多分売れるから。屋敷にいるガキ共も一緒に詰めて……」
「はぁーーーーー!」
……今度はヤーレン殿まで来てしまった。
なぜ出て来た。私には恨みしかないだろう。
「おお、怖っ。背後から剣? でも声上げたらもろばれでしょう。アースプロテクション」
強力な土魔法。上級以上にも関わらず無詠唱。
やはり勇者の能力はどれも特殊なものばかり。
ヤーレン殿の初手は完全に防がれた。
「覚悟!」
「おいおい人質見えないの?」
「ライオット殿、怪我を……よくも!」
「ヤーレン殿。私なら平気です。剣を収めて下さい。領民の命が……かかっています」
「くっ……汚いぞ!」
「んー? その声、姉ちゃんか。ふーん……ああ、ダメだ。リリス様が観てるからな。こいつも馬車に放り込んでおけ」
「はっ! さぁ大人しくついて来い……ん? こんなところに宝箱なんてあったか?」
「知るか。急がないとナオキ様に殺されるぞ」
ここは一つ、
「あーそうそう。女二人、隠れて何かさせようとしてるけど無駄だよ。人質のあんたを盾にするだけでここの屋敷内は制圧出来るから。さて、昼頃までに八神が来なかったら、全員殺しちゃおうかなー」
……どうか間に合って欲しい。
我が神よ。どうか。
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