第15話 目的地? ダンジョンだ
唐突にグラドが発言した言葉。
ダンジョン……聞いたことはある。
恐ろしい怪物が生息し、中には貴重な宝物を詰めた宝箱があるなど、冒険心をくすぐるような場所だと。
最奥には大体ボスが存在し、入るたびに形を変えるものや、なんなら管理されているものまであるとかないとか。
そんなものがこの世界にもあると聞いたら……「だが断る」
「なぜだ? そこは乗ってくるところだろう?」
「危ないんだろ? 俺、魔法使えないんだよ。歩きながらだとクラウドさんも使えないし。大体そのダンジョンってとこに行って、レベルが上がる保証あんの? そもそもどこにあるわけ? 日々の草むしりでクラウドさん使ってるからマジックだってかつかつなのに。宿代だけで精一杯なわけだよ君たち」
「ダンジョンはギルドが管理している。未発見のダンジョンを報告するだけでそれなりに金が……」
「それだー! まずは金だ。金のためにダンジョンをクラウドさんで探す。ギルドに報告する。金が儲かる。強い冒険者を金の力で雇う。俺が目的地に到着。勇者アビスとそいつらが戦ってる間に俺は帰還方法を探す。プランBと名付けよう」
「お前、それは最低な発言だぞ……」
「エイトにも色々考えがあるんだろう」
「お前はそればっかだな……でも金がないのは事実だ。あたい、いい加減きれいな服が欲しいんだけど」
「は? お前タダ飯タダ宿食らっておいて何言ってんだこのアリ! 誰が金出したと思ってるんだ? ちっとは自分の力で稼いでみせろ」
「あたいだって武器があれば戦えるんだよ。そうすれば金を稼げるけど、無いから戦闘の依頼を受けれないんだ! 男なら少しくらい金を融通してみせろ!」
「アリを女だなんて認めてませんー。服が欲しかったら自分で買うんだな。まぁ? なんなら俺が選んだ服を着せてやってもいいんだけどもね?」
「言ったな! 絶対買えよこいつ!」
ほーう。まさか乗ってくるとは。上等だ、すんごいの選んでやる。
ていうかクラウドさんの能力があれば作れるんだけど、これ以上奇抜な服をこの世界に爆誕させるのは、現状避けておこう。
「いずれにしろまずはギルドだな。俺としてはダンジョン攻略が一番おすすめなんだが……」
――話し合った結果再び冒険者ギルドへ行くと、受付のお姉さんは何やら忙しそうにしていた。
カウンター越しに腕をおき、顔を覗き込んでみる。
「ひゃっ……エイトさ……」
「おっと。怒ると可愛い顔が台無しですよ。名前も知らないお嬢さん」
「はぁ……本日も依頼を受けられるんですか。依頼の一覧は右手奥です」
「そっか。普段は自分で選ばないといけないんだよな。今日はそれ以外の用事です。ダンジョンについて知りたいんんですが……お姉さんと一緒に食事でもしながら」
「私、仕事中なんですけど。ダンジョンについてですね。担当のものを呼んでまいりますから少々お待ち下さい」
やんわりと断られました。
というか顔を覗き込んだので怒ってました。
受付のお姉さんは俺を生ゴミ扱い継続のようです。
それというのも全部、黒のツナギを着用しているからだろう。
――受付のお姉さんが連れて来たのは美女……ではなくヒゲ親父。
太い腕にごつい顔。強いぞこの親父。顔面がとにかく強い。
「お前が新人のエイトか。うちの若い者にちょっかい出すんじゃねえぞ」
「ええそれはもう旦那。早速なんですがね。ダンジョンについて詳しく教えてもらえると……」
「ふん、ヒヨッコが。死んでもしらんぞ? まずダンジョンってのは魔が濃い場所に出現する洞窟のことだ。これは海底だったら海底ダンジョン、草の中だったら草原ダンジョンと名前が変わる。ここまでは知ってるな?」
「初耳だが?」
「……そうか。そしてダンジョンってのは完全攻略されると消滅する。これはさすがに知ってるよな?」
「いや? そもそもなんで突然ダンジョンが出来るんだ?」
「決まってるだろう。魔濃度が上がり過ぎればそこにダンジョンが生まれる」
「魔濃度……つまり魔法の源みたいなもんが濃い場所に出来るんだな? 人工的にも造れるってことか?」
「人工的? 魔工的だろ? ただの人間はダンジョンなんて作れんぞ」
「あ、ああ。それはどっちが作れてもいいだろう。人だって魔法が使えるんだし」
「おいおい、人が魔法を使う方法と魔族が魔法を使う方法は違うぜ。まぁそんな話、ダンジョンには関係ないからいいか。それとだ。新しく発見したダンジョンを報告すればそれだけでも金になる。このお陰で魔王の城近くに踏み入り、その地を荒らしたせいで戻らない冒険者もいるが……」
「魔王の城付近? なんだそりゃ?」
「魔王城の話はいい。とにかく聞け。ダンジョンには発見時にその場所を示す道具がある」
まさか電光掲示板に書いてあるとか? そんなわけないか。
「おっさん。その道具ってのはなんだ?」
「おっさん? ギルドマスターのわしに向かって随分と大きな口を叩くな」
しまったつい話に夢中で目の前のおっさんをおっさんと呼んでしまった。
いや間違ってはいないはずだが。
「すまない。今のはただの勢いなんだ」
「ふん、まぁいい。ギルドが販売する魔法の地図がある。ダンジョンを発見しギルドに報告すると、その地図を所有している全ての奴らに情報が伝わるって寸法よ。未発見ダンジョン報告者には一つにつき金貨十枚が支払われる。この地図は買うことをおすすめするぜ。銀貨七枚だ」
……なるほど。その地図の販売なんかがギルドの主な収入源か。
待てよ。地図が安すぎる。これは他に何かあるな……探ってみるか。
「それで、その地図は何日持つんだ?」
「お前なかなか鋭いな。この地図は一週間しか持たん。一週間経過すると白紙に戻る。この力の効果中は攻略されたダンジョンもちゃんと地図上から消えてなくなるぜ。無駄足にならんってことさ。自分で目星をつけて向かったら消えてる……なんてこともダンジョンにはよくあるからな」
「やっぱりかよ! 危うくだまされるところだった。一週間しか持たない地図じゃ全然使えないじゃねーか」
「そうでもない。能力のあるやつは地図に映ってないダンジョンをそこから割り出して、一度に三つ報告したりもするからな。それだけで金貨三十枚だぞ」
「おいエイト。試しに地図を買って、それに乗ってるダンジョンへ向かえばいいんじゃないか?」
「それがいい判断かもな。運が良ければ宝も残ってる。悪ければ宝だけ無しでモンスターだらけ。ボスも放置だな。さぁどうするんだ」
「ふむ。いや待てよ? ……お金が足りません」
「なんだ金無しか。少し稼いだらどうだ? 見たところ、ろくな装備も無い。そんな状態で行けば本当に死ぬかもしれんぞ」
「効率よく金を得るためダンジョンに行こうと思ったんだが……仕方ない。薬草採取させてくれよ」
「あいよ。最初は地道にやるのが一番だ。冒険者ランクも上がるしな。ガッハッハッハ。金が貯まったら地図を売ってやる。そんときゃもっかい呼べ」
――結局その後、着替えさせろとうるさいアリの意見を跳ねのけながら三人で草むしり。
早くダンジョンへ向かうため、丸二日宿とギルドとくさむらの往復をした俺たちの所持金は、合計銀貨三十枚、つまり金貨三枚分まで所持金が増えた。
そして冒険者ランクもEに昇格した。一番の利点はこれだろう。
受付のお姉さんは俺をただの草ムシラーと認定しているようだった。
二日目には何も言わずに薬草採取の依頼を渡してくるお姉さん。
他にいる冒険者の方々も俺たちを黒ツナギ草ムシラーとして認定されていて、冷ややかな目で見られている。ちくしょう、覚えてろよお前ら!
少なくとも宿代を気にしないように、どうにか根城をと考えているが、俺たちはそれどころじゃないほど貧しい。
クラウドさんの能力をフルに使ってもいいのだが、あまりやり過ぎて騒ぎになるのが怖い。
まずはここ、プラプライムの町に慣れることを優先と考えた結果がこれですよ。
そしてついに……貯まった金で地図を買うことを決意したのだ。
再びギルドマスターのおっさんに話をする。
「ようやく貯まったか。どうだ? 草むしりにも慣れたか?」
「もううんざりだ。さぁ地図をくれよ。銀貨七枚だろ」
「頑張ったし、最初だからな。銀貨五枚にしておいてやる。ほら、こいつが地図だ。まずは町から直ぐの未攻略ダンジョンに行ってみたらどうだ? あそこはスライムくらいしか出ないって話だし、慣れるにはいいだろう」
「スライムくらい? スライムって本当は強いんじゃないのか? 魔王だったりすんじゃないのか?」
「何を言ってるんだ。スライムだぞ?」
そう言いながら地図を渡すおっさん。
ふむ……安全なら行ってみるのもいいかもしれない。
地図代金をまけてもらったが、残金は金貨二枚と銀貨五枚にまで減った。
さらにもう一泊分の宿代を払うから、残るのは金貨二枚。
武器を買う金も無いし、このまま向かうしかないだろう。
地図を広げて見てみると、この町周辺の地図で世界地図ではなかった。
一週間しかもたないって言ってたし、魔法の地図なんだろうけど範囲が狭い。
これで宿屋一泊分かよ。正確には宿屋三人分だけどな。
地図上には点滅する白い光がある。これがダンジョンか。
「ま、十分気を付けて行ってきな。ええと確か……エイト」
「おう。あんがとなおっさん……じゃなかった親父マスター!」
「誰が親父マスターだ! わしはギルドマスターだ!」
……よし、覚悟を決めて行くしかない。近くのダンジョン直行だ!
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