第16話 草原のダンジョン。掘り当てちまったのこれかよぉー!

 みなさんこんにちは。エイトです。

 本日はプラプライムの町、最寄りのダンジョンに来ています。

 見渡す限りとても広い草原です。

 上空から見ればさぞや草が生えていることでしょう。

 

「おい」

「どうしたエイト」

「一面草しか生えてないぞ」

「草原のダンジョンなんだから当たり前だろ。あたいにとっては最高の環境だね」

「ここは地下へ続くタイプのダンジョンじゃないな。いわゆる平面ダンジョンというやつだろう。しかし本当に見渡す限り草原だ。このタイプは珍しいんだがな」


 俺とグラド、リーアの三人パーティーは、町から数十歩の場所にあった草原ダンジョンとやらに突撃した。

 入口は本当に洞窟のようだった。

 中に入ったら草生えまくりで、上空から見てみたくなったってわけよ。


「こんなところにレベル上げに適したモンスターやら、宝箱やらがあると思うか? 草生える結果で終わるんじゃないのか? ワラワラコースか? ワラシベコースあんのか? あるよな? な?」

「まぁ探索し終えてないってことは何かしらの宝があるのかもしれん」

「あたいは草原好きだからねー。ほこりっぽい町やかび臭い宿よりよっぽどましさ」

「んじゃこのアリは置いてくか。ここでパーティー解散。いいな?」


 別れを告げて去ろうとすると、ぐいっと黒ツナギのエリをつかまれる。

 このアリはもう俺に用は無いはずだ。

 そもそもあれだよ。パーティーがアリにクマだよ? 

 いい加減異常性に気づけよ。

 普通なら一発で全てを粉砕させるロリッ娘やらがいるべきだろ? 

 見てくださいよこのパーティー。珍獣しかいねえんだよ。

 

「俺はもうクラウドさんと二人旅をするって決めたんだ。じゃあなお前ら」

「おい待てって言ってるだろ! どうしてお前はそうせっかちなんだ。本当はあたいにメロメロなんだろ? このス、ケ、ベ」

「お前何か? あれがアリにアリがアリで興奮するとでも思ってるのかそこに座れ! 説教してやる! いいか……」


 このクソアリは体つきだけはエロい。

 俺の視線が誘導される。


「変なトコ見たろ」

「……はい。すみません」

「おいエイト。戦う準備をしなくてもいいのか? 例の……なんだ? クラウドだったか?」

「そうだった。アリに翻弄ほんろうされてる場合じゃないんだった。ついに俺のクラウドさんが降臨される時が来たのだ! そうだろう、クラウドさん!」

『マスターがどのような提案をするのか楽しみです』

「んーふふふふ……」

「こいつ突然酷い下卑げびた笑い顔をしているぞ」

「それはエイトのいつも通りの顔だと思うぞ?」

「お前ら静かにしろ。まず、バストは九十、理想的な丸型です。ウエストは五十。ナイスなクビレラインがある。そしてヒップは九十。そこのアリと同程度だ。顔は女優並みで年齢は二十位の……」

『公序良俗に反する言語は使用出来ません。AI生成は拒否されました』

「なにーーー! どういうことだクラウドさん! クラウドさんを生成するためのワードなんだぞ!?」

『公序良俗に反する文章は使用出来ません。マスター、再考を推奨します』

「……よし! 俺は今日ここで座って考えてるからお前らダンジョンの敵倒してこい」

「お前は一体何を言ってるんだ? というかさっきの言葉、またどうしようもないことを考えてるんだろ。いいから来い! お前のレベル上げなんだろ!」

「ちょ、バカ、引っ張るな! 待てよ? 体だけこいつと同じにして顔だけ女優にしたら……いやいや待て待て。中身がアリでアレな感じかもしれん。ここは落ち着け俺。相手はクラウドさんなんだ。失敗は許されない。いや、失敗したら作り直せばいいか」

『マスター。私に一任して頂ければマスターにとって理想的なクラウドを提供することをお約束いたします』

「ほう? イデデデデ引っ張るならもっと優しく引っ張れよ、このアリ! よーし分かった! クラウドさんに一任しまーす!」

『マスターの思考を一部流用した自動AI生成モードへ移行します。しばらく時間が掛かります』


 ずるずるとリーアに引きずられながら出来上がりを楽しみにすることにした。

 そうか、俺が動かず引きずられているならAI生成可能なんだな。

 これでようやくヒロインの爆誕ですよ。

 しばらくってどのくらいだろう? 


 ――引きずられながら草原のダンジョンを探索するが、出てきたのはアレ。

 スライムですよ。青い奴。こいつをテイムしてテイマーとか、沢山肩に乗せて一緒に魔法とか、こいつを主人公にして王国を築く! とか。

 そういう旅になぜならないんですかね。

 アリに引きずられ熊をお供に草原をズルズルする俺には、スライムですらまぶしく見える。

 ――そんなスライムを眺めていたら、熊こうが手を前に出して構えているのが目に入った。


「アクアバレット!」

『いやお前が倒すんかーい!』

「エイトは考え中だからな。それにしてもこの草原ダンジョン。もしかすると一面草原が続いているだけで、ボスを探すのが面倒で放置されているのかもしれんぞ」

「ふーん。つまりあたいの能力を使うときが来たんだな」

「体つきしか能の無いお前がか? 痛だだだだだ! 腕がへし折れるわ! どんな腕力してんだこの筋肉アリダルマが!」

「ふん。あたいはいろんなトコを掘るっていう結果を作れるのさ。能が無いかどうかお前に見せてやるよ。インビシブルディグ!」

「へっ?」


 俺のえり首をつかんだまま、奴は草を直線で掘り出した。

 何を言っているのかよく分からないがきっとそう。

 掘ってるのは地面じゃなく、草の根をかき分けるよう真っすぐに草を掘り進め出したのだ。


「お前、こんな能力あるなら自分の力で牢獄から脱走出来ただろうがー!」

「この技は疲れるんだよ! あれっ……?」


 引っ張られながらグングン前へと進み、グラドから離れていく。

 そもそも俺を引っ張る必要あんのか? 

 しかし揺れる。揺れる何かが視界を埋め尽くす。

 リーアの通った道は真っすぐに草が刈り取られたように無くなっていた。

 ……どの程度掘り進んだのか分からないが、なかなかに使える能力じゃないか。

 だがこれなら俺のAIジェネレーターにより草刈り機で草を刈れば余裕なわけだが。

 なぜそうしないのか。それはクラウドさんを生成したかったからだ。

 揺れを楽しみたかったからではない。


『マスター。AI生成がまもなく完了します。今回は試験的なのでAIジェネレーターによるものです』

「おほほーー! ついに、ついに来たか! おいリーア止めろ」

「……無理だ」

「はぁ? お前何言ってんだいいから手を離せ」

「ミミックを掘った」

「なんだ? ミミック? ミミックって宝箱のミミックか? そんなものどこにも見当たらな……」

「ミミックのトラップだよ! 空中に跳ね上がったんだ!」


 空を見上げると黒い影が見えます。

 それはとても大きな影。ダンジョンでも雲があるのかー。

 いや、これは違う。巨大な箱が空高く打ち上げられていたんですね。


「ちょ、おまふざけんなよ! 何してんの? てゆーかここは初心者ダンジョンなんだろ? なんであんなバカでかい箱が空中にいるんだよ聞いてないよ? どうすんの何? 踏みつぶされておしまい? ええっ!?」

『マスターの願望、ホーリーカオスを予定変更。巨大ショルダーアームハンド生成……完了。クラウド。いきます!』

「ショルダーアームハンドってなんだ!」


 俺とリーアの目の前に現れたのはホーリーカオスという、聖剣を持つ背徳審あふれる美女……ではなく。

 巨大な肩と腕、そして手だった。


「クラウドさーーーん! 俺の願望何一つ叶ってねえわ!」

「えいっ!」


 その巨大な手で巨大な箱を軽々キャッチ。

 それを遠くにぶん投げるクラウドさん。

 ミミックははるか彼方へ飛んで行った。

 そして俺の頭にレベルが一つ上がった安っぽい音が鳴り響く。


「すげー。巨大ミミック一撃。やっぱあたいの目に狂いはなかったよ」

「お前の目は狂いまくってるだろうが! ふざけんな、これ生成失敗したのミミックのせいだろ」

「マスター。仰る通りです。急きょ予定を変更して生成内容を変えました。AI消失を推奨します」

「はぁ……AIジェネレーター消失」


 ふっと消える巨大な手はバイバイをしていた。

 ……本当、なんなのよ。

 うなだれる俺にグラドが手を振ってやってきたと思ったら、俺たちはダンジョンに入る前の場所へと戻されていた。

 あのミミックがダンジョンのボスか。

 くさむらに埋もれて見つからないから攻略されてなかっただけじゃねーか! 草も生えんわ。畜生。


『マスター。今回の生成を踏まえて、もうしばらくクラウドの生成は止めておくことを推奨します。生成レベルを上げましょう』

「クラウドさんがそう言うならそうするよ。はぁ……ん?」


 そんなダンジョン攻略を終えた俺たちの目の前に、とんでもないものが転がっていた。


 ……ずたぼろ幼女である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る