第17話 とんでもねー! 幼女を捨ててくなんてとんでもねー!
目の前に転がるズタボロの幼女。周囲には壊れた装備品やらが沢山転がっているが、これはダンジョンに打ち捨てられたものだろうか。
グラドとリーアが幼女に気付かずそれらを漁り始めた。
そして、これからダンジョンに入ろうとしていたのか?
四人組のパーティーがやってきてしまう。タイミングどうなってんのよ。
「あれ? あんたらここクリアしちゃったの? どっかで見た覚えが……確か草ムシラーの!」
「なんだよ今から入ろうとしてたのに。お宝残ってたか? うわ、ゴミばっか」
「お、おい。こいつら……仲間が倒れてるのに助けようとせず戦利品漁ってるぞ」
「ちょっと見て! 幼い女の子じゃない?」
「ちち、違う今ダンジョンから放出されたばかりなんだ! おい大丈夫かしっかりしろ! 今すぐ治療するから待ってろよ! リーア! グラド、行くぞぉーーー!」
幼女を脇に抱えて猛ダッシュ。
おいーー! 状況悪くなる一方なんだが!?
いーや大丈夫だ顔もそんなに見られてないしあいつらはダンジョン攻略に来ただけ。
俺たちは仲間を負傷させて治療するため全力疾走。よーしよーし問題ない!
「しっかりしろー! 絶対助けてやるからなーーー!」
「……へっ」
【従属契約が完了しました】
「ん? 何か聞こえたか? いやそれどころじゃなーい!」
「……」
「おい! せっかくお宝があったかもしれないのに」
「いや、ほとんど壊れた装備だった。使えそうなものは持った。ゴミばかりだったが、ダンジョン攻略の報酬と思われる小箱を拾っておいたぞ。あとでエイトに渡すからな」
「小箱? それはあたいのもんだ! あたいが活躍したからクリア出来たんだ!」
「活躍したのはクラウドさんだろ! その箱はグラドがしばらく預かっとけ。町から近くて良かった……はぁ。結局レベル一つ上がっただけで、草臥れただけじゃないか」
――プラプライムの町入口に到着すると、入口のカンキチことミノタウロスが親指を立てて挨拶をする。
「おうリンゴの兄ちゃんじゃねえか。どうだ? リンゴを仕入れたか? んん? 随分とズタボロな子供を抱えてるな。何かあったのか?」
「大変だったんだよ。巨大な箱に襲われて。ダンジョン一個クリアしたんだけどな」
「ほうほう。治療院ならこの道を真っすぐ進んで三つ目を東だ」
「サンキュー……ちなみに金は」
「かかるに決まってるだろ」
ぐっ。だが仕方ない。このまま幼女を見捨てたら、犯罪者として生きねばならない。
などと考えていると、けたたましい腹の音が幼女から鳴り響く。
「おまけに腹減りか。見たところ娘と同じくらいの年齢だ。飯はおごってやるから、治療が終わったら俺の店に行きな。治療院の正面にある店だ。カンキチにご馳走してもらえると言われたっていやぁ通じるようにしとくからよ」
「いいのか!? 有難うな、カンキチ!」
「いいってことよ。そん代わり、またリンゴ持ってきてくれよ。娘が気に入ったようでな。食べても食べてもお腹がいっぱいにならないからいくらでも食べれそう! すごい! って喜んでたぜ」
……すみません。親切にしてくれるミノタウロスに俺はなんてことを。
罪悪感でいっぱいです。
いつかちゃんとしたリンゴ、箱に詰めて持っていきますから許して下さい……。
――気を取り直して治療院に駆け込むと、その中にはなんと聖女がいるじゃないか! 本物の聖女だよおい!
白いベールをかぶり、
ちらりとも見えない肌に、逆に強い色気を感じてならない。
神々しささえ感じ取れる、聖女ですよ!
「これはいらっしゃいませ」
「……え? あ、はい。あれ? なんだこの強烈な違和感は」
声が低い。低すぎる。
目の前にいるのは聖女だ。
そうだ聖女だ。しっかりしろ俺。
「この子を助けてほしいんですけど。行き掛かりで大怪我しているのを拾いましてね」
「そうですか。ではこちらのベッドに寝かせて下さい」
あれ? 何かがおかしい。
ものすごーーーく男声なんだけれども。
いや目の前にいるのは聖女だ。
今日はたまたま声が枯れ果ててしゃがれ声とかそんなオチですよね。
決して地声じゃないですよね。
「これは……まぁいいか。水の女神リンヒルドよ。彼の者を癒す豊水を我に授けよ……アクアリバイタル!」
おお、初めて見る癒しの魔法……か?
水魔法? どこぞの熊と違い詠唱もしていたぞ。
聖女だ。俺の目の前にいるのは純白の聖女。
純白の聖女の声に脳内変換しろ。
「外見ほどひどい怪我では無かったよ。はい、金貨一枚ね」
「……あのー、聖女様。あなた様は聖女様ですよね」
「そう見えない?」
「見えますとも見えますとも。どこからどう見ても聖女様なんですが、あの、お声が少々……枯れてるのかなーなんて」
「ぷっ。あはははは。そうそう、声が枯れてるの。はい金貨一枚確かに受け取ったよ。またのお越しをお待ちしてますー」
……絶対違う。これ、聖女じゃなくて、
信じられない。なんならギルドの受付お姉さんより美人なのに。
まさかの男の娘?
どうなってんだこの町!?
しかもこの幼女、本当に治ったのか?
目をつぶったままぴくりとも動かないんだけど。
「おい。大丈夫か? 意識あるか?」
「……」
「あの。まだ治ってないみたいなんですけど」
「治ってるよ。眠ってるんじゃないのかな? 衰弱してるみたいだし。さぁ帰った帰った」
「はぁ……仕方ない。カンキチの言ってた店に行くぞお前ら。タダ飯の時間だ……あれ?」
「治療の前にとっくに出ていったみたいだよ。あんたもさっさと行きなよ」
「あいつらぁーーー!」
再び幼女を抱えて正面の店に向かう。
こっちは【ステーキミノ】とか書いてある。
ミノタウロスだからか!? ミノタウロスが肉焼くってか?
肉のミノの部位だってか!?
行ってやろうじゃないか俺にも肉を食わせろ。
「こんにちはー。エイトです。カンキチに言われて食事をご馳走になりに来ました」
「あーーー! リンゴのお兄ちゃんでしょ。本当に来たよ、ママー」
「あらあら。お連れさんは先に食べてます。直ぐ用意しますからね」
本当に肉を焼いて食わせる場所だよ。
店内には小さいミノタウロスに奥さんと思われるミノタウロスがいる。
小さい方はカンキチの子供だろうか。
子供ミノタウロスは思っていたより可愛い。
奥さんの方はガチもんのミノタウロスですが。
性別の判別が胸回りしか分かりません。カンキチ同様パワフルです。
「すみません連れが勝手に。あいつらからは金を取って下さいね」
「いいのよ。子供を助けたんでしょう? そっちの子がそう?」
肉の焼けるいい匂いに、幼女の腹がギュルギュルと鳴り響く。
こいつもしかして起きてないか?
「おい。お前」
「に、肉……」
抱える俺を振りほどくと、地べたを這いずってリーアが食おうとしていた肉をつかみ取る。
そして、焼かれていたありったけの肉を一気に食い尽くした。
……また問題児な匂いがする。
そうだ、この店には来なかったことにして俺一人ここから出るか。
「あらあら。お腹空いてたのね。お父さんが呆れてるわよ」
「ちょっと待って下さい。今、なんて?」
「お父さんでしょう? 可愛いお子さんですね。助かってよかったわね」
「あのですね奥さん。あいつは俺の子なんかじゃなくて……」
「おいお前! なんであたいの肉を食うんだよ!」
「……ミミーの」
「はぁ?」
そうだ、このままリーアに押し付けてしまうのも悪くない。
そう考えていると、ミノタウロスの奥さんが出掛ける準備を始めた。
「私、これから主人の下に行くから沢山食べていってね。ミコン。お肉沢山出してあげて」
「あーい」
「え? ちょっと奥さん? 俺だけ失礼したいんだけれども。あのー! 聞いてます!? ちょっと!」
「ほらお兄ちゃんも席に着いて。お腹空いてるんでしょ」
そう言われて俺の腹も限界だったようだ。
腹の響きが収まらない。
俺は肉の魅力に負けるのか。
これは生命として
――抗がえませんでした。
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