第18話 ミミーのステータス

 ミノタウロスのカンキチの店で散々飲み食いさせてもらったので、ひっそりとお礼に腹の足しにならないリンゴを二個生成してミコンに直ぐ食べるならと伝えて渡した。

 リーアが恨めしそうに見ているが、お前にやるつもりはない。


「それで、お前一体なんであんなところでボロボロになってたんだ?」

「ガムッ、はむ、ほむ、ムグッ。ミミ―いじめられたの。空に飛んで踏みつぶそうとしたらいじめられたの」

「誰に」


 しかし答えが無い。

 肉をナイフで突き刺したままこちらを指すのは止めなさい。

 ていうかなんでフォークが無いんだよ。作れないの? フォークを作る技術が無いの? 


「なぁグラド。迷子の子供をこの世界で見つけたらどうすればいいんだ? やっぱり迷子センターか?」

「迷子センター? なんだそれは。親とはぐれた場合は親切な者に拾われれば助かる可能性もあるが、大抵は死ぬ」

「ひっでーな。なんつー世界だよ。兵士に渡して親を探してもらえないのか?」

「ミミ―、一人だもん」

『……』


 よーしよく考えよう。

 このままミミーと名乗るこいつをギルドに連れて行くと、受付のお姉さんに生ゴミアイどころか一言も口を利いてもらえなくなるだろう。

 ギルドマスターに連れて行ったら大笑いされて責任を持てとか言われるだろう。

 そうだいい加減グラドとリーアに役立ってもらおう。


「そんじゃお前ら、そういうことで」

「待って、お兄。ミミ―を捨てないで」

「……おい待て。俺はお前のお兄ちゃんじゃない」

「お兄ちゃんに捨てられるーー!」

「うわぁーー! 落ち着けちょっと待てほら肉食え肉!」

「モゴッ」

「そんじゃな!」


 逃げようとする俺の手をバ怪力なリーアがひっつかむ。

 お前の腕力どうなってんだよ! 


「おい落ち着けって。あたいらでこの子の親を探してやればいいだろ」

「そうだな。エイトの力を使えばいいんじゃないのか?」

「それだーーー! さすがはグラドさんだ。よく分かってる。クラウドさんに質問すればいいんだ。おーいクラウドさんや」

『はいマスター。その子の親を探す方法ですね。では、ステータスの確認をする石板に触れさせることを進言します』

「そうか、ギルドの石板? ちょっと待て。それ結局受付のお姉さんに軽蔑けいべつされるじゃないか。おいミミーとやら。俺を呼ぶときに決して変な風に呼ばない。約束出来るなら親を探してやる」


 肉をほおばりながらコクコクとうなずく幼女。

 善は急げだ。食事のお礼を子供ミノタウロスのミコンにして、幼女を脇に抱えギルドへ直行した。

 ――ギルド受付のお姉さんの前まで行くと、その表情は驚いているものだった。

 よかった、少しは評価がまともになったんだな! 

 

「……あのー、エイトさん。その子、さらってきたんですか?」

「誤解です! 倒れてたのを拾って……」

「ババァー!」


 おいバカ! 俺を呼ぶときは変な風に……って相手はお姉さんだった。

 こいつ、考えてやがる……。


「……あらー。今度は子供を使って嫌がらせですか。ふふふふ……」

「……へっ」

「おい! よく見ろ! こんな美人受付、この世界に二人といないだろ? な?」

「ババァーーー!」

「おい早くしろよ。日が暮れたらまた宿代がかさむだろ」

「あーもう! 問題ごとばかり起こしやがって! ちくしょう大体なんで俺がこいつらの分まで宿代を払わなきゃならんのよ」

「エイト。俺は落ちてた雑多なものを道具屋に売りに行ってくる。ここは任せたぞ。さぁミミー。その石板に触れてみろ」

「はーい。えいっ」

「いい加減お前らとはパーティー解散だって……ん?」


 ミミー

 年齢 7

 職業 忘れられたミミック

 レベル 7

 LIFE 800/800

 MAGIC 2000/2230

 STR 80

 VIT 100

 DEX 13000

 INT 300

 AGI 1000

 習得魔法 ドロンプチ、アイアイ、ドロンデス、スリピンド、パラライン

 スキル 宝箱巨大変化、宝箱睡眠罠、宝箱浮上罠、環境擬態宝箱、箱内収納ボックス

 従属契約者 エイト 


 この子、ミミックですよ。

 なんとなく嫌な予感はしてた。

 つまりあのときのボスだ。

 こいつをぼろ雑巾にしたのは俺とリーア。

 従属契約者ってのはなんだ? ただの記入ミスだろ? 

 誰かここに二重線引いとけよ。

 リーアをちらっと見るとそっぽを向かれた。

 ミミーが受付のお姉さんと親し気に話している間に、こいつに全て押し付けよう。

 

「そんじゃな、リーア。頑張って子育てしろよ」

「ババァ……お姉ちゃんこれなぁに?」

「お前が連れて来たんだから、それはお前の役目だろう! だいたいあたいに子育てなんて出来ると思うか? それに従属契約者にエイトって書いてあるだろ!」

「あら。この憎らしい子、ステータス高いんですね。これはね。ギルド登録証よ」

「知らんわ! 俺よりお前の方が適任だから。大丈夫だよほら、ただの箱だから。アリなら箱とか狭いとこ好きだろ? なんだったら巣として使ってくれてもいいんだけれどもね!」

「欲しいー! ミミーにも、ミミーもー!」

「あたいが好きなのは草原とか木の幹だ! 箱が好きなわけじゃない!」

「それじゃ登録料……ううん、あなたの年齢ならいらないわね。エイトさんを従属契約者として本登録しますね。それにしても人型のしゃべる獣魔は珍しいです」

「だったら木の幹で暮らしてもいいだろ? ほらミミックだって木の幹にだってあるし? アリのボスが持ってることだってあるわけだし?」

「わーい! 見てー。作ってもらったー!」

「ほら見ろお前が文句言ってる間に幼女がお前と一緒に出掛ける支度を……っておい待て。なんでお前が冒険者登録してるんだ」


 リーアと言い争ってる間に一体何が起こった。

 俺は聞いてない見てない知らない。


「それじゃそういうことで」

「あ、エイトさん。ミミーさんを従属契約者として本登録しましたからね。これではぐれても安心です。良かったね、えっと……憎ったらしいミミーちゃん」

「うん! ありがとババァ……お姉ちゃん。さ、行こ!」

「どこに行こうというのかね。ここは既にあの世だぜ……」

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