第14話 AIにあって当然の機能

 早速ドリヤードさんを生成すべくワードを考えクラウドさんに伝えた結果……。


『……その条件は公序良俗に反する言葉が含まれております。生成不可能とお伝えします』

「……なにーー! つまりクラウドさんを生成するときも使えないのか!」


 いえ、別にエロいとかそういうんじゃないんですがね。

 それなりのワードを入れたには入れたんですよ。


「こいつ、いきなり大声でとんでもないことを言い出したぞ。頭おかしいんじゃないのか」

「まぁ、エイトには想像のつかない考えがあるんだろう」


 どこまでも優しいグラドと、生ゴミを見る目パート二のリーア。

 だが、一体どうやってドリヤードを生成すればいいんだ!? 

 葉っぱ衣装を取り除いたらそれはもう、ドリヤードとは呼べない。そうだろう? 


「グラド。ドリヤードを言い表すとどうなる?」

「分かりやすく言えば木の精霊だな。女性型の巨木、そんな例えが正しいだろう」

「仕方ない、それでやってみるか。女性型の巨木で出来た精霊で葉っぱ衣装のドリヤード……と」

『AIジェネレーターによる生成を開始……完了しました』


 ――AI生成により完成されたドリヤードが目前へ現れる。

 そこに現れたのはブリケツの葉っぱ隠し姉ちゃん……などではない。

 巨木のおばさんっぽい何かだ。

 髪は木の葉のようなパンチパーマ。

 丸太のような腕に丸太のような足。寸胴型のごっつい体。

 その腕からは太いネギのようなツルが伸びている。

 いや、あれは俺の視覚的にネギである。

 最も怖いのは顔だ。

 目も口も幹を切り抜いたような節穴だ。

 女性とは何を示すワードなのか、さっぱり分からなくなった。

 衣装は葉っぱだが、葉っぱアーマーといわれるようなものだ。

 葉っぱの陰から見え隠れするものなど節穴でしかない。

 くさむらを装備していると言っても過言ではないのだ。

 そんなクラウドリヤードさんは早速仕事へ取りかかろうとする。


「そちらの草を集めればよろしいのですね、マスター」

「うわ。はっきりクラウドさんの声が木材おばさんから聞こえる!? 救いなのは中身がクラウドさんってことだけだわ。声だけ可愛いわ……お願いします!」

「なんだこれ。ドリヤードが命令を聞いてるのか?」

「リーア。お前が驚くのも無理はない。エイトは凄いスキルを秘めているんだ」

「ふーん。なんだ結構頼りになるんじゃないか。少しだけ見直してやったぞ」


 ふふん、今頃気付いたか。ちょっとだけいい体つきをしているからって調子に乗りやがって。

 だが奴はアリだ。アリに構っている時間などない。

 さっさと依頼を終わらせて冒険者ギルドのお姉さんを見返してやらねばならんのだ。

 そうこう考えている間にネギを揺らし巨木を揺らしてクラウドリヤードが薬草採取を開始する。

 ううーん……絵、ず、ら! この絵、ず、ら! どうにかなりませんかね。

 揺れてんのは葉っぱだけなわけよ。

 俺は何を楽しみに薬草探せばいいのよ。もう探したくないのよ。


「マスター。予定数より多く集まりました。宿代くらいにはなりそうですね」

「もう集まったの!? さすがは俺のクラウドさんだ。ところでそのクラウドリヤード、どのくらいマジックを消費するんだ?」

「脚力と腕力以外特に能力を発動しないゴーレムと違い、専門的な知識を有するものを生成した場合、より多くのマジックを消費します。ですが、このドリヤードはそれほどの性能ではありません。ゴーレムの二倍ほどであるとお伝えします」

「二倍か。それなら余裕はありそうだ。このまま町まで運んでくれ」

「それは不可能であるとお伝えします」

「なんでだ?」

「ドリヤードは時間経過とともに根を下ろす習性があるようです。あと数秒で全く身動き取れなくなるとお伝えします」

「……ドリヤードは全然使えなかった。ただのデコイにもならないじゃないか……いや、ネギがあるからネギデコイにはなるか」


 集め終わった薬草は三倍ずつ。合計十八つの草だ。

 報酬も三倍……にはならないだろうが、少しは多くもらえるだろう。


 ――直ぐに冒険者ギルドへと戻ると、相変わらず生ゴミを見る目のお姉さんが依頼の草を確認する。


「……質はまぁまぁですが、もう集め終わるなんてすごいですね。しかも三倍の量。お二人のどちらかが優秀だったんでしょうか」

「俺が集めたんです! こいつらは何もしてませんから」

「嘘つけ。お前だってドリヤードに頼んだだけ……むぐっ」

「しーっ。今はエイトを怒らすべきじゃない。余計なことを言うなリーア」

「ではこちら、報酬に色をつけた金額とお貸しした分の銀貨一枚を差し引いて、銀貨八枚です」

「……有難うございます」


 薬草採取なんてこんなもんだよ。

 宿屋一泊で再び追い出される。

 待てよ。俺一人ならそんなことはない。

 こいつらを置いていこうそうしよう。


「よし。パーティー解散でいいよな?」

「何やってるんだエイト。早く宿屋に行って休むぞ」


 ダメだ。こいつら人の話を聞いてない。

 だが、待つんだエイト。俺はこの世界のことをよく分かっていない。

 にもかかわらず、現地民を簡単に手放すのはよくない。

 もう少しだけ情報を得るため同行させるのは悪くないはずだ。


「仕方ない。もう一泊してから考えるか。はぁ……レベルを上げてもう少し生成しやすくしないといけないだろうが、このレベルが低いのかどうかも分からん……」

「おいブツブツ言ってないで早く行くぞ。もうお腹がペコペコだ」

「何もしてないのに口と腹だけは達者だな、このダメアリが! お前少しは金を稼いで来い!」

「何言ってんだ。助けてやったのをもう忘れたのか? この恩知らずめ!}

「お前に助けられた分なんて、宿屋一泊でちゃらなんだよ! 大体なんだ? お前ちっとも可愛くねーのにヒロイン気取ってんのか? こっちはヒロイン募集中なんだよ!」

「あ、あたいは十分可愛いだろ! こんな美女をおいて何て言い草だ!」

「おいおい落ち着けって」


 コイツー! 言うに事欠いてあたいは十分可愛いだと!? 


「寝言は鏡見てから言うんだな、それに俺は自分で自分のことを可愛いなどという女の可愛さは認めん!」

「言ったな、このやろうー! ぶっ殺してやる!」

「おーしやるってんだな痛だだだだだ! 降参、降参痛だだだだだ!」


 指をつかまれ押し倒された。

 なんて馬鹿力だよこのアリ! クマと俺を抱えて泳ぐぐらいだから当然か。


「ちょ、止めろ。折れる折れるー、あっ」


 つい、変なところを触りましたがそのあとフルボッコにされたのは言うまでもあるまい。

 結局ずるずると宿屋までグラドに引っ張られた。

 銀貨八枚からまた銀貨五枚引かれて、残ったのはたったの銀貨三枚ですよ。


「……それで、俺の腫らした顔はいつ戻るんですかね」

「知るか。お前が悪いんだろ」

「やれやれ。それよりエイト。この先どうするんだ? お前はマジックアカデミアから逃げて何をしようと考えていた?」


 ようやく落ち着いた環境だ。そういった話をするときがついに来たようだ。

 顔面が痛いです。

 やっぱり寝てもいいかな。

 

「俺以外に召喚された人が他に三人いたんだよ。場の雰囲気が妙に怪しい感じがしてさ。あの国、結構やばいんじゃないのか?」

「……ああ。お前が召喚者であるなら聞かされていると思うが、あの国はこの世界で高度な文明と知識、戦力、財力を持っている。しかしだ。やり方は極めて汚い」

「あたいだって無理やり牢屋に入れられたんだ」

「お前はどうせ尻を触られただのなんだのと暴れて捕まったんだろ」

「な、なんで見てきたみたいに言うんだ! さてはお前、覗きでもしたんだろ!」

「はい図星ですー。俺はな、護送の離城って場所に行ってさっさと元の世界に戻りたいの。こんな危険な場所より家でゆっくりAI生成していた方がましだ」


 ……あれ? 皆さん固まってしまったよ? 


「護送の離城……だと? アビスの支配する城か!?」

「命知らずにもほどがあるね。とんだバカだよあんた」

「は? そもそもそれが一体どこにあるのかも知らんわ。そんなにやばいとこなのか?」

「勇者アビスの城だ。世界に災いと混沌をもたらす……」

「ちょっと待てグラド。それって魔王じゃなく?」

「魔王? 何を言っている。世界に混沌をもたらすのは常に勇者だろう?」


 どうやら俺の世界での常識とは異なるようだ。

 勇者アビス。名前からして混沌だよ。


「それで、その勇者アビスとやらの居城はどこにあるのかね? アリ君」

「だからリーアだって言ってるだろ! 物覚えの悪いやつだな。それにあたいがそんなこと知るわけないだろ。護送の離城に住むアビスってのがやばいって話は酒場とかでも有名な話だ」

「すまんなエイト。俺も詳しい場所までは知らんし、そんな場所に行きたいとも思わん」

「ちなみに俺がそこへ向かって生きていられる可能性は?」

『無い』


 ……これはどうしたもんか。

 いきなり帰路を絶たれたよ。

 何かしらの方法はあるだろうが……どうしたもんか。


「それよりもだ。エイト、お前のスキルはまるで創造を司る神の能力だ。一体お前は何者だ? なぜそれほどの能力を持ち、マジックアカデミアを追放されたんだ?」

「あたいも聞きたいね。あの国がそんな能力者を手放すとは思えない」

「それは俺が魔法を一つも使えない無能だと思われたから。スキルはレベルが上がるまで伏字だったんだよ。いいか無能だぞ? 不能じゃないからな。そこんとこはき違えるなよ!」

「……スキルについては調べられなかったのか?」

「よく見えなかったんだよ。▲▲ホニャララトークっていう俺の能力、最初は俺にもぼけて見えてたから。俺自身理解してなかったし。レベルが上がって出来ることが増えたのにも驚いた」

「ふむ。つまりお前の能力はレベルが上がるほど更に強力なスキルを覚える可能性があるのか。それならレベルアップを当面の目標にした方がいいな。いい場所がある」

「出来ればあんまり大っぴらには今後クラウドさんの力を使いたくないんだよ。俺がマジックアカデミアから脱獄した召喚者ってばれたらまずいだろ? しかしいい場所ってのは気になるな。詳しく」

「それは、ダンジョンだ」

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