第13話 冒険者としての前準備だ

 目が覚めると、そこには悲しい現実が待っていた。

 宿屋の退去。ぐっすり眠って快適な朝を迎えるはずだったのに。

 食事もとらず眠り続けていた。

 どうにか飯をと頼み込み、いびつな形の固形物を頂戴した。

 そして俺たちは直ぐに宿屋を追い出された。

 

「お前ら、なんで起こさなかったんだ?」

「起こしたのに枕にしがみついて気持ち悪いこと言ってたのはお前だろ!」

「エイトは疲れてるみたいだったからな。冒険者ギルドに行く予定だったんだろ? それならしっかり休んでからの方がいい」

「ふん。どうせ冒険者になったところで、また壊れる橋を出すのが精々だろうさ」

「バカにすんなよ? こちとら最強のAI、クラウドさんがいるんだからな。お前なんかより百倍役に立つわ」

「何だそれ? クラウドさん? どこにいるっていうのさ?」

「ふん。お前には教えてやらん。さー行くぞグラド」

「おいちょっと待て。あたいを置いてくな!」


 結局ついてくるこのアリは何がしたいんだ。

 ここから俺とクラウドさんの甘い生活が始まるっていうのに。

 さっさと冒険者ギルドへ行こう。

 

「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ!」

「ええ。どうも初めまして……八神八雲。通り名はエイトです。お嬢さんのお名前をぜひフルネームで」

「顔が怖いんですけど……それに少し近いです」

「おっと失礼。あまりにもむさいやつらと危険な長旅をしていたもので。では改めて……」

「ええっと。冒険者登録証はお持ちですか?」

「ふっ……持ってません」

「で、では……冒険者登録からですね。こちらの石板に手を触れて下さい」

「おおっと。その前にお名前を。名前も知らない女性の差し出したものにうかつに触るほど野暮な男じゃありませ……」

「いいからさっさとしろ! お前のせいで時間食ってるんじゃないか!」


 バカアリのリーアに後ろから尻を蹴り飛ばされて石板に手が触れた。

 こいつ……覚えてろよ! 

 いや待て。この石板、もしかしてあれか? 

 マジックアカデミアで最初に受けたあれと同じか!? 


 エイト

 年齢 26

 職業 脱獄者

 レベル 768

 LIFE 22000/23340

 MAGIC 17800/38900

 STR 770

 VIT 2300

 DEX 5250

 INT 999999不能

 AGI 530

 習得魔法 無し

 スキル AIトーク、AI生成メニュー、AI並列処理


 ま、ず、い! 俺のステータスフルオープンだよ見ないでこれ、見ないでー! 

 お姉さんに不能の二文字が! 


「早く消して下さいお願いします……」

「えっと。職業が……」

「ち、違うんですよ。これはね。脱獄を手助けしたらこういう職業になるって聞いて。それで試しにやってみたらこうなっちゃったんです。いやー、あれは困ったなー。だから俺たち全員脱獄者なんですよ、な?」

「そ、そうなんですねー。どうりで皆さん同じような恰好だと思いました」


 上手い。我ながら上手いと言わざるを得ない。

 この振りなら他全員が脱獄者であれば妙な疑いは回避できる。

 というか回避できた。でも恰好には触れないでくれ。


「エイトさんですね。レベル七百六十八ですか。しかしこれは故障でしょうか? 不能? つまり能力が封じられているんですか?」

「はい! 決してあっちが不能とかではなくてですね? 誤解しないで下さい」

「はぁ……あっちってどっちかしら。これはかなり珍しいケースです。それにしてもエイトさん。こんなステータス……驚きです。魔法のところが空白なのですが、隠ぺい魔法をお使いなんですか?」

「え? ええ、そう、そうなんですよ隠ペイがね。ええ、ええ。そんな支払方法で。はい。当然じゃないですかやだなー」

「支払方法? というのはよく分からないのですが、それでしたら、いきなりC級冒険者から始めてもいいかもしれませんよ?」

「えーっと、C級って?」

「冒険者にはランクがあって、一番上がS、一番下がFランクまであります。登録料は上がりますが、上からスタートすることが……」

「Fでお願いします。全員Fでいいです。嫌な予感がするのでお願いします」

「おい待て! なんであたいまでFなんだ!」

「おいグラド。つまみ出してくれたまへ」

「分かった。ちょっとこっち来い。きっとエイトには考えがあるんだ」

「くそ、離せ! おい!」

「本当にいいんでしょうか?」

「ええ、お姉さん。構いませんよ。これで話は全ておしまいですね?」

「いえ。お金をお願いします。三名で銀貨六枚……」

「ああっ! なんということでしょうお姉さん。実は今、あいつらからお金を預かっていません。そして手持ちは銀貨五枚……どうかこれで足りるようにはしていただけませんか? なんなら仕事を請け負うので、ツケでもいいんです。たまたま、たまたまあいつらがいないのと持ち合わせが無いので」


 ……完璧な作戦だ。そう言わざるを得ない。

 だが、俺を見る美しいお姉さんの顔は生ゴミを見るような目つきだった。


「え、えーっと。分かりました……それでは薬草採取をお願いします。出来るだけ早く、メナス草とミヒラキ草をそれぞ六つずつ。これが依頼証です。特徴は……」

「有難うございます……あの、お姉さんのお名前……」

「急ぎでお願いしますねー。それでは、行ってらっしゃいませー!」


 すでにお姉さんは、俺に目を合わせてくれなくなっていた。

 こんな依頼直ぐ終わらせてやっからな! 速攻で戻って来るからな! 

 逃げるように外へ出ると、暴言を吐くアリのリーアがけなしてくる。


「あんな女に鼻の下伸ばして。せっかくの高ランクスタートのチャンスを!」

「仕方ないだろ、金が足りないの分かってたんだから。前借りしてクエスト受けたから。ほら行くぞ」

「薬草採取か。初めてのクエストには持ってこいだな。手分けして探せば早く終わりそうだ。早速行くか?」


 無一文な上借金してるんだ。

 なんで俺がこいつらの分も払わなきゃならんのよ。

 グラドは別としてこのアリに助けられた記憶が無いのに、ゆすりを受けている気分だよ。

 さっさと草を引っこ抜いてパーティー解散おさらばしたい。


 ――外に出ると手あたり次第にくさむらを探るが、見つかるのはただの草だ。

 特徴を聞いてはいたが、全然見つからない。


「おーいグラド。森には詳しいんだろ。見つかったかー?」

「そりゃ食い物の話だ。薬草は専門外だ」

「それじゃアリー。見つかったかー」

「リーアだって言ってんだろ! 探し物は苦手なんだよあたいは」

「どっちも使えねー。パーティー解散ー!」


 文句言いつつも探すと、それらしいのを一つずつ見つけた。

 しかし数が足りない。メナス草とミヒラキ草で合っていると思うのだが。


「ここはクラウドさんに頼るしかない。クラウドさん、AIで複製ってできないもんですかね」

『マスター。残念ながらAI複製を習得しておりません。現状では不可能であるとお伝えします』


 やはりダメか。何か手は……このあたりを撮影して探してもらうとか? 

 いやいや、どうせならAIジェネレーターで薬草採取が得意なものを呼び出す? 

 しかしどんな奴が薬草採取を得意とするのかが分からない。


「グラド。薬草採取ってどんな種族が得意なんだ?」

「ううむ、ドリヤードとかだろうな」


 ドド、ドリヤード? ドリヤードってのはあれか。

 美しーい女性が葉っぱ一枚でプルプル登場するあの。


「詳しく」

「ん? ああ。えーっとだな……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る