第28話 見えて来たボッチの人柄

 宿に戻るとびっくりしてる店主をスルーして部屋へと向かう。

 俺もヤーレンも仮面の戦士だ。

 そんな奴らが二人で宿屋に戻って来ればやることは一つ。

 仮面舞踏……密談しかない。


「おい戻ったぞミミー」

「何? 誰かいるのか? まさか私を罠にはめようと……」

「面倒だからお前ちょっとだまってろ」

「なんだと! 誰に向かって……」

「あーズボンが落ちそうだわー」

「くっ……」


 こいつ結構ちょろい気がしてきた。

 このズボンネタで俺は優位にある。

 とことんこのネタを持ち出してやろうじゃないか。

 大体なんで何もしてない俺がこんな女に背後から脅されたりズボンを破壊されたりしなきゃならんのよ。

 ……そういえば俺、隣国の脱獄者でした。


「うぇっほん。それはいいとしておいミミー! そろそろ起きろ!」

「……」

「ん? なんだ誰もいないじゃないか。例のものはこの中なのか?」

「おいバカ! 勝手に触る……」

「ガジガジガジ」

「み、ミミック! やはり貴様罠に!」

「お前が勝手に触ったんやろがいー!」


 ベッドに置いてある箱、普通勝手に触ります? 

 やっぱこの女やばい奴だわ! あのゴリラ兵士が言ってたのもきっとマジだ。

 敵将七つの首を挙げて二階級特進だったか? 

 もうさっさと手紙渡して帰るぞ! 


「おいミミー止めろお客さんだ」

「んー? お客さん? 食べちゃダメなの?」

「お前は人を喰うのか!?」

「んー。美味しかったら?」

「……はぁ。おい勝手に箱開け女。これがボッチからの手紙だ」

「誰が勝手に箱開け女だ! なんか油汚れがついてるな。お前の言うボッチって誰なんだ?」

「なんだっけな。ラ、ラジオでボッチだったっけか。いや、ライトなボッチだったような……」

「そんなに長い名前なのか?」

「そうだった気もするが五文字以上の奴は名前が覚えられる気がしない」

「頭の悪い奴だな……」

「舐めんなよ! 俺のINTは……なんでもないです」

「……? どれ見せてみろ。差出人……ライオット!? 全然合ってないじゃないか」


 ヤーレンにボッチから依頼された手紙を渡した。

 ようやく仕事完了だ。後は図書館に行って護送の離城がどこにあるか調べたり、安全な場所を探したりして……「お前が所持しているものを確認し、気に入ったらプラプライムへ一度来て欲しい…だと?」

「へ?」


 突然剣を抜き構えるヤーレン。

 ここ、宿屋なんだが? 


「さぁ出せ。奴から託されたものを。毒か? それとも暗殺用の射撃武器か? 奴のことだ。私を何かしらの罠にはめてあざ笑うつもりに違いない」

「待て待て剣を降ろせ。宿屋でチャンバラなんて笑えないジョークだぜ」

「うるさい! 私は……私はあんなはずかしめを奴に!」

「へー。例えばどんな?」

「私が勲章授与されるときに、どのような恰好で行くべきか奴に相談したんだ」

「それでー?」

「綺麗なドレス、特に刺繍に可愛い動物の絵が入ったものを着ていくのが普通だって」


 こいつそれ信じたのか。やっぱりバカなのか。

 ドレスで騎士が受勲って。

 ネタだよな? それを見てあざ笑うボッチ。

 想像できますわー。


「お、おう。それ、着てったんですね」

「ああ、今思い出しただけでも切り刻んでやらねば気が済まん!」

「まぁあいつ性格悪そうだしな。乗ったら乗ったで楽しんで、乗らなくてもいいような悪ふざけをするタイプだ。しかしあれだ。知り合いなら話が早い。俺は奴とは少し話しただけの間柄でしかない。それにほら。お前に渡すものはこれ。ただのガラスコップだよ」

「何?」


 コップを見せるとヤーレンは剣を突き出したまま確認し始める。

 ふーん、こっちの剣はクラウドさんに生み出してもらったアルミニウム合金と違って鋼の剣っぽいな。綺麗だが重そうだし切れ味も悪そうだ。

 持ち手の細工こそ綺麗だが、魔法の剣とかじゃない。がっかりだ。


「これは……なんという洗練された透明な器なんだ。飾り気こそないが精密な作りだ。あいつの謝罪か?」

「同じのが後四つあるけど全部買い取ってもらう代わりに屋敷と土地が手に入るんだよ。依頼達成で税金も支払い完了らしい」

「あのライオットがそう言ったのか? 信じられん。こんな男に入れ込んだというのか」

「おいヤーレン。お前は俺をなんだと思ってるんだ?」

「ただのヘタレだろう?」

「こいつふっざけんなよ! 俺にはなー! ……なんでもないです」


 危ない危ない。こんな奴にクラウドさんの正体をばらしたら、今度はこっちの王国で操り人形として使われるに決まってる。

 俺のクラウドさんの情報は信用あるもの以外に教えてはならん能力だ。

 なんだったらプラプライムに戻ってグラドとリーアの脳内から消去したいくらいだ。


「それで、ライオットはこれで私にどうしろと言っていたんだ」

「確か実験の道具にとかなんとか言ってたな……ってヘタレは取り消せ。じゃないとこのズボンの弁償代を更に跳ね上げるぞ」

「くっ……騎士として弁償はする。お前の話も信じてやるからちゃんとズボンを履け!」

「ミミー。ボッチにもらった貴族服のズボン出してくれよ」

「あいー」


 ぽいっと俺のズボンを放り投げるミミー。

 いい収納箱だが食い物を入れると勝手に無くなる。

 ……おいミミーさん。なんか衣類に食い物の汁が付着してるんだが? 


「なっ……それはプラプライム領事館の紋様がある服じゃないか! 最初からそっちを履いてくれば私が尾行する必要は無かったぞ!」

「んなこと言ってもな。俺もお前と一緒であの執事信用してないんだよ」

「執事? お前は何を言っているんだ。ライオットは領主だぞ」

「はぁ? あれが領主? だって本人が執事だと……」

「大体考えてもみろ。一介の執事が土地と屋敷をくれてやる権利があると思うか? お前は最初からだまされていたんだ。あいつは辺境伯。私よりずっと上の身分だ」

「くっそあの野郎! 戻ったら一発ぶん殴ってやる」

「止めておいた方がいい。あの男、この私でも太刀打ち出来るか分からないほど強い。陰湿で陰険で狡猾こうかつ。冷徹で残忍性もある男だ」

「けど、町は平和そうだったぞ?」

「そうだろうな。あの男はマジックオブコートから離反しようとしているんだ。差し詰めこれは私を引き抜くための手土産だろう」

「え? どういうこと?」

「酒場の店主にライオットから手紙を託されたんだろう? そうすれば私に会えると。私がお前を尾行することになったのは、酒場の店主に言われたからじゃない。酒場にもう一人誰かいただろう。あれが私の情報収集依頼者だったんだ」

「つまり……どういうことだ? 酒場の店主にお前を紹介するって言われたのに」

「酒場の店主には恐らく、ライオットの使者がヤーレンと面会したいという情報が暗号で伝わったんだろう。だが、酒場の店主は私とライオットの橋渡しをするつもりはない。お前が今日の昼に酒場へ向かえば、連れていかれた先は恐らく王宮だ」

「おい。急いでこの町を出たくなった。俺のズボンを破壊したんだから手伝え」

「なっ……くそ、そういうことかライオット! 私を最初からそうやって罠にはめて連れ出すために!」

「いやズボン壊したのお前だろ!?」

「私が不器用なことをまたあざ笑うのか! なんて卑劣な奴だ」

「……こいつもやっぱ地雷女だよな。おいミミー。帰る支度しろ。急いでこの王都から離れるぞ。おい不器用ポンコツ娘。お前もそのままついて来い」

「ぽ、ポンコツ娘だと!? 貴様、言うにことかいて騎士の私を愚弄ぐろうするつもりか!」

「じゃあなんて呼べばいいんですかね? 男ズボン降ろし魔とか? ズボンの騎士とかか? ああ?」

「な、なんでお前が逆に怒るんだ……わ、分かったついていくからズボンを降ろそうとするな!」


 ふん。アマチュアが。

 しかし昼までにはもう時間がない。

 馬車を売り払うとか考えていたが、こいつなら操縦出来るだろうか。

 いや、足がつくか? 

 それにもっと早く戻りたいんだよな。


「おい。プラプライムへ戻るのにいい道は無いか?」

「途中まで向かえる、ほとんど使われなくなった移送方陣がある」

「……なんだそれ」

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