第27話 種族ハーフ?
両手を挙げて相手の様子を少しでも確認しようとするが、全然見えない分からない。
腰に差したサブちゃんがあるから相手は俺を剣士だと思っているはずだ。
「まずは人目の届かないところまで移動してもらおう」
「へいへい。振り向かなきゃいいんだろ」
「いいから黙って歩け。怪しい動きをするなよ」
裏手に回り誰も来ないようなところまで進むと、奴は腰に差していた俺のアルミニウムブレードを乱暴に外しはじめた。
「なんだこれは……どうなっているんだ? ここが、こうか!?」
外し方が分からなかったのか強引に外したせいで俺のズボンまで壊れてストンと落ちた。
何してくれてんの?
「……おい」
「こ、これはすまな……いや、動くな! ズズ、ズボンに怪しい道具が入っていると思ったんだ!」
「はぁ。そんじゃ何か? 俺はズボンをむしり取られて冷たくなってこの辺に打ち捨てられ、パンイチで発見される変態になるわけ? 冗談じゃないぞ」
「調べが付いたら解放してやるから。だから動くな!」
「……お前、昨日尾行してたやつだろ。酒場の主人に言われて後を付けてきたのか? 俺はちゃんとライボッチに依頼を受けてきたんだ。証拠なら昨日酒場の主人に見せた」
「質問するのはこちらだ! まず貴様の名前は?」
「エイト、ええとなんだっけか。エイトオブエイト」
「ふざけてるのか?」
「ふざけてないよ。そのズボンの中に冒険者登録証が入ってるだろ、見てみろ」
「嘘ではない……か。目的はなんだ」
「仕事が終わったら土地と屋敷をもらえるって聞いてあるものを届けに来た。渡す相手の名前がヤーレンってことは昨日初めて知ったんだ」
「そんな情報だけで依頼を引き受けたのか?」
「こっちも訳ありなんだよ。出来ればそんな仕事やりたくはないけど。なんならあんたが俺の面倒見てくれるの? 脱がしたズボンの分も含めて」
「ば、バカを言うな……だが、嘘は言っていないようだな。すまない、ズボンを履いてくれ。私がそのヤーレンだ」
「何ぃーー! あっ」
剣をひっこめたのが分かったので慌てて振り返ったら、固い鎧に俺の手が当たった。
随分密着されていたんですね。気付きませんでした。
この人……仮面付けてるけど女性でしたわ。
わざとじゃない! そんな密着してる方が悪いんだ!
ていうかただの固い鎧だ! 冤罪だ!
「ななっ、私はズボンを履けと言ったんだ! 振り返れなんて言ってない! この変態!」
「ちょ、待て落ち着けわざとじゃない。ヤーレンが女? 女騎士? ヤーレン・ソーランが?」
「誰だそれは! 私はアイシュ・ヤーレンだ! この変態スケベ!」
「ぐえっ……」
思い切りぶん殴られた。この人酷い。
殴られた勢いで完全にズボンが脱げたんですけど。
「いいからズボンを履け! それに、ライボッチ? とやらから渡されたものはどこだ」
「持ってくるわけないだろ。酒場の店主には昼に来いって言われたんだから」
「そうか。差出人は私充てで間違いないんだな?」
「俺が知るか。手紙の中身は読んでない。人の手紙を勝手に読む趣味もないんでね。はぁ。もう王都なんてこりごりだわ」
「悪かったな。もう一つだけ聞きたい。この武器をどこで手に入れた?」
「いきなり剣で脅したりぶん殴ったりするやつに教えると思うか?」
「なっ!? あれはお前が! ……いや、悪かった。謝罪する」
おやー? 結構しおらしいな。こいつは仮面を身に着けてるから顔がよく分からないが、外見はリーア並みにスタイル……いや、待てよ。鎧に当たってしまったあの感じ……違和感がある。そうか! こいつは!
「お前パットだな!」
「なな、ななな……」
「図星か。どうも鎧が合ってない雰囲気なんだよ。固ーい鎧の胸部分に手が当たった感じ違和感があった」
「……つまり、お前は今ここで始末されたいんだな?」
「ちょ、それ、俺のサブちゃん……すみません、ご免なさい冗談です!」
「全く。私は騎士だ。別に鎧などに手が当たったからって、大して気にしないだけだ。男のように育てられたからな」
「その割に思いっきり殴られたんですけど」
剣と脱げたズボンを俺へ放り投げるヤーレン。
これはもしかすると……俺にも剣士お姉さまイベント到来なんじゃないのか?
そうだよな、クラウドさん! いやすみません。何でもないです。
「それで、あんたがヤーレンだって証拠はあるのか?」
「何をバカなことを。ヤーレンを名乗るのは私以外いない」
「だから証拠は? それじゃ証拠にならないだろ?」
「む……では、顔を見せよう」
仮面お外しタイム! 顔なんか知らんから見てもヤーレンかどうか分からないけど。
一体どんな……えーっと、あれ?
「人族……じゃない?」
ヤーレンは左目の瞳孔のみが真っ赤に光り、黒目の部分がまるで無いように黒い。右目は緑眼で髪色は灰色。オッドアイってやつか。
耳は長くスラっとした背丈に黒鎧で強そうだ。
雰囲気がどちらかというと闇寄りか? つまり……「分かったぞ! あんた、陰キャだな!」
「陰……キャ? とはなんだ? 私はランパスとダークエルフのハーフだ」
「ランパスってなんだ?」
『マスター。ランパスとは精霊の一種のようです』
「お前、ランパスも見たことがないのか? やはり少し不信だな」
「いやランパスねランパス。精霊にして偉大な種族だったわー、思い出したわー」
「……この顔を見て恐怖すら覚えない……か。面白い男だな」
「なぁ、シリアスな顔してんのはいいんだけれどもね。俺のズボン、完全に壊れちゃったんだけど、ほら。もうつけられないよ。チャック見ろよ。ほら」
「ななっ!? ば、ばか! こっちに向けるな!」
「お前がやったんだろ! どうしてくれんだこれ。高いものなんだぞ!」
「確かに見ないような材質のものだったが……べ、弁償するからこっちに向けるなー!」
ほーう。これはチャンスだ。
なんのチャンスか? 決まってる。エロイベ……ではなく情報収集のチャンスだ。
「弁償って言われても、これはものすごーーーく遠い地方から専用のスキルもちが丹精込めて作ったこの世に二つとないかもしれない由緒ある魔剣士ダーインスレイヴさんが履いていたかもしれないズボンなんだが? お金なんかじゃとてもじゃないが支払えないだろうなぁ」
「……えっと、それならどうすればいいんだ?」
「俺が知らない情報を教えてくれ。宿屋に来てもらおうか?」
「ま、まさか変なことするつもりじゃないだろうな」
「するかーー! どーせざっくり切り伏せるつもりだろ!」
「分かってるならいい。ついていこう」
とりあえずこいつから情報を引き出しまくってやる。
にしても、なんで順当通りいかないん。
もうドロップ飴舐めて帰りたいわ。
……帰る場所がないのは辛いです。
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