第29話 インスタントカメラバージョン2
ヤーレンの話じゃ馬車で馬鹿正直にプラプライムから王都まで向かえば襲われて当然だという。
つまり御者のやつ含めて俺を襲うつもり満々で、鼻で笑われていたに違いないんだとか。
怒ると話が進まないので我慢することにした。
馬車ごと移送方陣とやらで移動出来るらしいのだが、あの馬車はどう見てもプラプライムのもの。乗っていくのは避けた方がよく、また、同じ入口から出るのも避けるべきだという。
それと、移送方陣は直接町などに向かえるものではなく、移送方陣が描かれた場所と場所を繋ぐもので、二点間での経路を行き来出来るものだとか。
便利だが万能ってわけじゃない。
『マスターに進言します。その移送方陣に到着したらカメラで撮影して下さい』
「……分かった」
「理解したのか。ただの臆病者でバカでは無いようだな」
こいつ……言葉が鋭いのはダークエルフだからか?
「お前な。町中で剣なんか振り回されたら誰だって怖いだろ?」
「ふん。我が隊員にそんな弱音を吐く奴はいない!」
「ほう。お前隊長なのか?」
「私は第二近衛隊の副官だ! ……った」
「……そ、そうですか。へぇー……」
やっべえ。適当に言ったのどんだけ当たってたんだよ。
「お前の名前はソーランだったか」
「誰がソーランだ! 私はアイシュだバカ者! 我が家は……いや、なんでもない。それよりもだ。東門から入ってきたが、少し遠回りして出るぞ」
「お前仕事はいいのかよ。副官なんだろ?」
「……一昨日首になった」
「は? なんだよお前ただの浮浪者かよ!?」
「貴様、許さん!」
「わーとととと剣を出すな落ち着けー。どうどうー。お前は話せば分かる、分かる子だから。つーかそんな全力でいちいち怒るなよ面倒だなー」
「お前の言い方が悪いんだろうが!」
「お互い様だろ。俺の知り合いにこんな気性が激しい女子はいな……いや、いました。凄い形相で文句つけてくるおばちゃんいました」
「騎士に対して数々の言動、さらにはおお、おばちゃんと一緒だと! ぶっ殺してやる!」
あーなんか見たことある展開だと思ったら、こいつもリーア系か。
はいはい、殺せるもんなら……って本当に剣振って来るよこいつ!
洒落にならないんだけど!
「ねぇお兄。このお姉ちゃんつれてくの?」
「んなこと言ってないで助けろ! おい! 騎士なら子供の前で人殺しなんてしていいのか!」
「くっ……覚えていろよ」
「お前と話していると話が進まないんだが? こっちは図書館にも行きたかったってのに」
「今更知的を装ったって……いや、本当に話が進まない。お前が余計なことを毎回言うからだぞ」
「あーはいはい俺が悪うございましたー。それで、町の西から出て直ぐにその移送方陣ってのがあるのか?」
「そうだ。移送方陣に繋がっている場所の影響で利用する者はまずいない」
「……おい。プラプライムの町に近いんだろ?」
「この王都から直接向かうよりは断然近いってだけだ。お前も当然戦えるんだろう?」
「ま、まぁ多少はな。だがあれだ。戦力として俺を考えるな。人相手に剣なんて振り回せないからな? 強盗とか滅茶苦茶怖いんだぞ知ってんのか!?」
「何を言っている。強盗などから王都を守るのが騎士の務め……だった……」
「面倒くせーなお前毎回暗くなんなよ陰キャ! ほら、心は騎士なんだろ? 王都に仕えなくたってほら、困ってる人を救ってやる奴にはなれるだろう?」
「お前……ふ、ふん。それもそうだ。マジックオブコートのやり方には疑問を持っていたのだ。これも運命かもしれない。もうこの国の騎士には戻れないし、覚悟を決めて行くか」
だからさっさと行くぞっつってんのにこの女は。
――支度を整えて西門へ向かう俺たち。
俺は仮面を外してズボンだけ貴族なちょっとだけ変態スタイルだ。
ヤーレンはどうやら騎士を辞めさせられ、装備一式などは自前で購入した安物らしい。
二階級特進つっても給料はそんな高くないのか? 剣がただの鋼鉄の剣? っぽいものなのも納得だ。
――ヤーレンに西門前まで案内され、外には簡単に出れた。
しかし兵士が町中にあふれかえっていた。ドンパチ始める雰囲気だ。
西門の先は街道が敷設されていて、こちらもどこかに続いているようだが、直ぐに脇道の馬車が入れるような小屋へ移動した。
そこにはびっしりと文字が刻まれた……そう、俺がこの世界に転移したときのような魔法陣があったのだ。
「AI生成メニュー、AI並列処理、AI道具生成、インスタントカメラ。AIジェネレーター。それを密かに撮影出来る小型浮遊生物ならなんでも。クラウドさん操作で頼むぜ」
「ん? 何か言ったか?」
「空耳だろ? 早く行こうぜ」
「ああ。誰もいないみたいだ。さっさと入るぞ。ついて来い」
ずんずんと一人移送方陣に進んでいき、姿が消えるヤーレン。
このまま俺だけリターンするとかどうだ?
……地の果てまでヤーレンに追いかけられて殺されそうだから移送方陣に入ろう……。
ちくしょう、大人しい清楚系美人との二人旅だったらよかったのに!
『インスタントカメラ生成……完了しました。ステルス機能搭載型ピクシーを生成……完了しました。合体します……インスタントカメラ、ピクセラを操作します』
「ギリギリな名前! しかも上手いこと言ってる! 頼むぜクラウドさん」
写真を数枚撮影してもらい、直ぐにAIジェネレーターを消失させた。
この移送方陣とやらが現実世界に戻るヒントになってくれればいいんだけど。
元の世界に戻れるのかどうかも分からないし、これから向かう先も怖い。
いやしかし待てよ? これはもしかして、ポンコツとはいえ女戦士との二人旅じゃ!
「お兄置いていくよー」
「……こいつがいたんだった。パーティー解散!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます