第30話 ほんとにくまった
移送方陣とやらの近くに向かうと、ブーーーンという気色悪い音が鳴り響いていた。
あいつら何も気にせずよくこんな場所に入れるな。
これが異世界人との違いってやつなのかね。
ここまで来たら入るしかないんだけどさ。
「クラウドさん。写真助かったぜ。気付かれてはいないようだ」
『マスター。その写真は誰にも見せない方がいいと進言します』
「そうだな。武器もニードルガンで大丈夫か?」
『現状では問題ないと進言します。しかし防具面に不安が残ります』
「そうなんだよな。あの女のせいで微妙に汚れたズボンのままだわ。落ち着いたら一式、ばれないように生成するか。考えはある」
『マスターの発案、楽しみにしていますね。クラウドの生成はマスターが適切なタイミングで行って下さい』
「そっちは争いから逃げる算段が立ってからだ。よし、行こう」
移送方陣の中に入ると視界ががらっと変わる。
――出ました! その先は森林の登場です。
さすがに見飽きたわ! 何回来てんだよ森林!
森林の区別がつかないが、見覚えがあるような無いような。
眼前には箱と仮面の女騎士ヤーレンが遅いと言わんばかりに待っていた。
「ここ、ゴブリンに襲われたところか?」
「何? ゴブリンに襲われたのか?」
「ああ。プラプライムの町に向かう最中グラドと二人で……ああ、グラドってのは仲間だ」
「そうか。ここはカヤキスの森。マジックアカデミア国境付近だ」
「カヤキスの森?」
「お前、この国出身じゃないな? まったく、子連れの癖に地理も頭に入ってないのか」
「別に俺のことはいいだろ。それに言っとくがな。ミミ―は俺の子供じゃない! こんな大きい子供いる年齢に見えるのか?」
「はぁ? じゃあお前子供をさらってきたのか?」
「だからお前とこうしてると話が進まないって言ってるだろ。俺のことはいいんだよ」
「ああそうだった。さっさとこの男をライオットに突き出して、どういうことか説明をつけてもらおう」
「おい待てって」
あんまり話をして俺の正体がばれるとまずい。
何せ俺はヤーレンの名を語ってマジックアカデミアを脱出した脱獄者だ。
そんなことがばれれば真面目そうな落第騎士のこいつは俺をマジックアカデミアに突き出すかもしれない。
今はばれないように好感度を上げようそうしよう。
「ところでお前、結構可愛いな」
「なっ!? と、突然何を言う! 騎士である私に向かって可愛いだと? 侮辱するのも対外にしろ!」
「おいおい俺は思ったことしか言ってないだろ? 事実は事実だ。それより女が前を行くな。そういうのは男の役目だ」
「なな、ななな……」
「いいからだまって俺について来な」
『マスター。道が不明であるとお伝えします』
「……ついて来な」
クラウドさんの心配をよそに、ぐいっと手招きをする。
ふっ。決まった。
ちなみにこれで俺についてきた奴は過去一人もいない。
しかしミミーはちゃんとついてきている。
お前が一番可愛いぞミミー。
「お前はよく分からない男だ。だが、今はついていくことにしてやる」
あれ? こいつ案外素直だな。
本当に可愛く見えて来たぞ。仮面だけど。
「よーし、遅れるなよ!」
「そっちじゃない」
「……いやいや。足元が危ない道を避けただけだ。遅れるなよ!」
「そっちでもない!」
おかしいな。あいつが進もうとした方角へ向かったはずなんだけど。
仕方ない。
「すみません方角だけ教えてもらえませんか?」
「南西だ。全く……少しだけ見直してやったというのに」
「ん? 南西の後の言葉、良く聞こえなかったんですけど? 罠でもあるんですかね?」
「いいから南西に進め!」
「へいへい」
言われた通り進んでいくと、次から次へと周囲にガサゴソという音がする。
俺の腰にはアルミニウムブレードのサブちゃん。
そして懐にはニードルガンがある。
クラウドさんと連携すればオートエイムが可能。
とはいえヤーレンにニードルガンを見せていいものか。
しかしいざとなったらアルミニウムブレードで……待てよ? アルミニウムブレードもオートアタック的なことが出来るんじゃないのか?
『マスター。可能であると進言します』
「……さすがですクラウドさん。では頼みます。俺目つぶってるんで」
「おい気をつけろ……この森、様子が変だ」
「森なんて大体変だろ? ゴブリンもいたしでかい金色の蜂までいたぞ」
「それはどういう……まずいぞ、囲まれてる! グランツベアーだと? こんな強力なモンスターがなぜカヤキスの森に! おいエイト、下が……」
『オートターゲット、目標固定、オートアタック、オートウェポンスキル発動モードへ移行します。アクティブリンク……サブソードクラウド始動開始』
「仮面のせいでサーモグラフィサングラスがつけられないじゃねーか! クラウドさん頼んます……はい取ったー!」
オートアタックでクラウドさん操作による俺の剣無双が始まった。
相手は名前からして熊だが小型のようだ。
東、西、北からそれぞれ数匹の足音。
見た目がグラドとは大違いの熊。
なんで数がはっきりしないのかって?
目をつぶっているからです。
「グオオオオオ!」
「声、怖っ! クラウドさんもう一匹声! はい取ったー! もう目開けてもいい? まだダメ? はい次取ったー!」
「な……なんという剣さばきだ。まるで剣に操られているような流れる動き……しかも、目をつぶっている!? まさか、閉眼剣の使い手だったというのか!?」
「ずるいー、ミミーも遊びたいのにー!」
「お前は箱になって隠れてろ! そうすりゃ安全だろ」
「ベアさん開けてくれるかな?」
「そんな知的生物に見えるか! いいからさっさと箱になれ!」
「あーい」
三匹は倒せたみたいだけど、この剣の切れ味やばすぎる。
それもそうか。最先端の技術で大量生産される刃物が一本三千円程度の時代だよ。
こんなもの大量に異世界へ持ち込んで装備させたら、全員ソルジャークラスファーストだわ。
だがあえて言おう! 俺は銃がいい。
だって怖いんだもの。
俺のニードルガンもパワーアップさせて麻酔銃にしたい。
銃はもちろん考えがある。
麻酔銃なら打っても怖くない! きっと! 多分!
『素晴らしい提案を有難うございます、マスター』
「今じゃないから! はい取ったー!」
「一人で四匹のグランツベアーを一瞬……私もまだまだ人を見る目が無いな。この男がこれほど腕の立つ剣士だなんて」
「次東? はい取ったー! もう嫌です色々嫌です! 目つぶっててもちょー嫌です! お願いもう来ないで下さい!」
「……あいつは一体何を。そうか、あれは剣作法の一つか。斬りながら弔いをしているんだな」
「バカなこと言ってないでお前も戦えー!」
五匹くらい倒したと思う。
クラウドさんは確実に俺を誘導して襲ってくる小型熊を倒してくれる。
でもまだいる。どうしよう疲れてきた。
「私の実力も見せてやろう。これがアイシュ・ヤーレンの秘技。ビハインドディビジョンソード」
「助けっ……ってま、まじかよ」
耐えられなくなって目を開けたそのときだった。
ひるんでいた五匹の熊。
その全ての背後にヤーレン。
そして一刀のもと切り捨てた。
何あれ。やだあれ。
あんな技あったら七つも大将首一気に上げられるわけだ。
ただの鋼鉄の剣であれですよ。
魔法剣とかだったらどうなっちゃうわけ?
ていうかなんで剣とか増えてるわけ。
いや、あれが魔法なんだな。
自分と同じ姿形、所有物を一時的に具現化したのか?
だとするならすごい技だ……「おいヤーレン。お前すごいな!」
「……どうにか五匹ならまだ平常で動けるか」
その場に座り込むヤーレン。
すごい技だがもしかしてこれは……「おい、あの技すごいマジック消費するんじゃないのか」
「その通りだ。あまり多用出来る技じゃない。お前のようにもっと剣技を磨かなければならないんだ」
「お、おう。頑張れー……」
まぁ俺のはクラウドさん頼みなんだが。
全部片付いたようなので、周囲の光景を見ないように俺は空を向いている。
手はがくがく、足もがくがく。
こいつらモンスターってのはなんで襲って来やがるんですかね。
いや、ミミーも最初襲ってきたな。倒すとたまに起き上がって仲間になるのか?
これ以上熊の仲間はいらんぞ。
「おいヤーレン。倒したモンスターってこのまま放置してもいいのか」
「問題はないが素材になるモンスターもいる。たまに魔透石を持つものもいるが、こんな小さい個体ではまずない。それにこいつら……エイトが戦ったやつは全員致命傷を避けて無力化している!? 私は仕留めるのがやっとだったのに。エイト。お前の腕を見くびっていたよ。ヘタレなどと言ってすまなかった」
「もういないよな、いないんだよな? ふうー……ふざけんなお前こんなん出てくるなら最初から言っとけ! そうすりゃ俺が前歩くなんて言わなかったってのに危うく死ぬところでしたよ?」
「……はい?」
「こんなんじゃまたいつ化け物が出てくるか分からないしお前先行けよ」
「前言撤回だ! ちょっと見直したら直ぐこれだ。お前と言う奴は! ぶっ殺してやる!」
「無理ですー、俺とクラウドさんが組んだら最強だからな。お前の衣類だけ綺麗に切ってやるぞほら、かかってこい!」
「美味しいー、ベアー」
「……おいミミーお前何喰ってんだ!?」
ヤーレンが仕留めたベアーを丸食いってまじかよ。
ミミックさんぱねーですわ……。
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