第31話 プラプライムの町へ帰還

 熊に襲われた怖いカヤキスの森とかいう場所から先へ進むと、しばらくして街道が見えた。

 この見飽きた森林の景色ともおさらばだ……そう思いながら進むと、街道の先に見えたのは森。

 いい加減にしろと思ったが、自分がどこにいたのかようやく理解出来た。

 東に見えるのが国境。正面に森だから、この森を抜けた先に滝とプラプライムがある。

 今度は黒ツナギ一丁の怪しい姿じゃない。

 ヤーレンが言うには、街道を進めば直ぐに到着すると言われた。

 どうしたもんか。

 あまり目立ちたくはないが……と 街道を少し歩いていると奥から馬車がこちらへやって来る。

 慌てて隠れようとしたが、見覚えのあるやつがその馬車から降りて来た。

 ……ボッチだ。

 これにはヤーレンも俺も頭を抱えた。


「さすがはエイトさん。仕事が早いですね。そして本当に彼女を連れてきてしまうとは」

「てんめえふざけんなよ! よくも俺を色々とだましてくれやがったな!」

「おや? 私はあなたをだましてなどいませんよ。それを証拠にあなたの屋敷も用意してあります。土地も含めてね」

「ライオット……殿。ここで積年の恨みを晴らしても良いか?」

「おやおや。エイト殿から何も受け取らずに同行して来たのですか?」

「くっ……あれは突き返そうと思ったんだ。大体貴様は!」

「落ち着いて下さいヤーレン。それよりもまずは湯あみでもしたいところでしょう? 領事館へ向かいましょう」


 はぐらかしやがって。俺もヤーレンもこいつの手には乗らないぞ。

 しかし立派な馬車だ。

 買い替えだと言っていただけあって、俺が借りた馬車より更に高そうだ。

 二頭引きの馬車なんて初めて見たわ。

 中も広いしクッション性のある椅子もある。

 それよりもだ。まずは文句を言ってやるぞ!  


「お前のせいでこっちは盗賊の類に殺されかけたんだぞ! それとヤーレン。こいつにもだ、ボッチ!」

「……ライオット、と」

「名前なんてどうでもいいんだよ。戻ったらまずは風呂、そして飯だ!」

「そうですね……エイトさん、そちらの子供は?」

「ミミーこの人嫌いー」

「エイトさんの子供……いえ、お仲間ですか。面白い仲間が他にもいたんですね。ああエイトさん。あなたのお仲間はすでに屋敷でくつろいでいるはずです。エイトさんの鍵をお渡ししておきますね」

「今なんつったお前」

「ですから鍵をお渡ししますと」

「その前だよ! 何か? 俺の手柄にあいつらはどっぷり乗っかって既におくつろぎですか? ていうかなんで知ってんだよ俺の仲間がいるって! 大体あれだよ? グラドはともかくリーアなんて仲間ですらないぞ!」

「おや? 親戚の者と妻だと聞きましたが?」

「あいつら……ひどい目に合わせてやる!」

「おいエイト。気持ちは分かるがまずは領事館へ行こう。じっくり話を聞く必要がある」

「ああそうだとも! 大体あのアリ、言うに事欠いて妻だと? ふざけんなよ。ちょっとエロい体してるからって調子に乗りやがって。すまきにして放りだしてやる」


 ちくしょう俺がいない間に新品の俺の屋敷が汚されているだと!?

 聞いてない、聞いてないぞ! 

 その屋敷を売り払って安全かもしれない場所に行こうとしてたってのに。

 ボッチは下を向きながらあれこれ気味悪く考え始め、ヤーレンは草臥れていて寝不足だったのか、眠ったようだ。

 仮面を着けているのでよく分からないが。

 ミミーも箱型に戻り眠り始めた。

 俺も寝よう。クラウドさん、警戒だけ頼んます。

 ――目を覚ますとそのままプラプライムの領主館に到着していた。

 直ぐに領事館内へ案内するボッチ。とにかく機嫌が良さそうだ。


「ただいま紅茶の準備をいたします。少々お待ちください。なんでしたらお二人とも湯あみでも」

「私は結構。エイト、お前は行ってこい」

「んじゃお言葉に甘えて早速……おいミミー、お前も獣臭いから入ってこい」

「ミミーも?」

「では子供用の湯あみ場をどうぞ」

「なんでもあんなこの館。さすがは領主様ってか」

「聞いてしまったんですか。つまらないですね」

「お前やっぱ悪い奴だな……」

「はっはっは。決して悪い人物というわけではありませんが、これでも領主ですから。土地を守るには策が必要なんですよ。色々とね。さ、あちらです」


 出発前同様さっさと湯あみを済ませながら考える。

 ここ領事館にはどう見てもこの世界としてはあり得ないものが多い。

 あのボッチは相当キレモノだ。

 INTこそ高い俺だが、あいつとは敵対したくない。

 奴はすでにがっつりと俺に目を付けただろう。

 屋敷は手に入ったが、この国は戦争しようとしているに違いない。

 そしてそのことをボッチも考えているんだろうな。 


「ふー。やること多いな。冒険者の依頼も受けないと登録抹消されるんだよな……あれ身分証みたいなもんだし」

『マスター。しばらくこの町を拠点に活動してみてはいかがでしょうか』

「クラウドさんもそう思うか? 俺はクラウドさんを正式に生成したいんだけど」

『AIメニューレベル三に上がってから生成することを推奨します』

「分かったよ。しばらく家で色々な道具を生成してみるか」


 風呂から出るとなぜか勝手に用意されている着替え。

 俺が生成した上着すらなくなっている。

 あの野郎……どこまでも抜け目ない。

 どうせ聞いても洗濯しているとか言って、がっつり調べてやがるに違いない。

 その服に着替えて部屋に戻ると、どうやらヤーレンはミミーと一緒に風呂へ入ったようでここにはいない。

 臭いだの言われてボッチに上手く丸め込まれたな。

 

「湯加減はいかがでしたか?」

「湯加減より俺の着るもの勝手に持っていくなよ」

「その答えはもう理解されていると思っていましたが……言う必要はありますか?」

「こいつ……まぁいい。それより酒と飯だ」

「ええ。そちらも用意済みです。どうぞあちらへ」


 まじで怖いわ! なんなの? 先読みのお化けなの? 

 変態先読みお化けとでも呼んでやろうか。

 ――別室に入ると、そこには豪華な料理が並んでいる。

 そしてこちらが本物の執事たちか。

 ずらっと並んで挨拶する……全員子供だ。

 こいつ! ロリコンだな! そうに違いないついに弱点を見つけたぞこのロリコンめ。このままじゃミミーが危ない! 


「お前ロリコンだったんだな! この変態領主が!」

「ロリ……コン? 彼らはみな、孤児だったものを私が雇い入れたのです。大人よりよほど信頼出来ますし、よく働いてくれます」

「……孤児?」

「先の戦争で親を失ったものは多い。それに亜人種で迫害を受けることもこの町ではありません」

「むう……いやいやだまされるなエイト。あいつは俺をだましたんだぞ」

「さて、まずは手はず通り動いてくれたことに感謝します。ヤーレンに情報が届くかどうかは五分だったんですがね」

「馬車が襲われた件ってかそもそも襲われる御者だった件は?」

「あの程度の者に襲われて死ぬようであれば、そもそも私と取引継続は難しいでしょうから」

「つまり試したってわけか」

「ええ、そうなります。ただの弱者ではマジックアカデミアから脱獄は不可能。撃退すると確信しておりました」

「……やっぱ俺のこと知ってたんだな」

「ええ。私は国境を警備する辺境伯です。このプラプライムの町でマジックアカデミアの動きを監視してきました。先日マジックアカデミアより無数の光が飛び散りましてね。それに伴いマジックアカデミアへの警戒を強めていたんです。ああ、偽の通行証、ポケットに入れたままでしたよ。実に精工なものでした」

「それでか。じゃあ俺が使えない奴だったらマジックアカデミアに引き渡すって算段だったのか」

「いえいえ。召喚者様を突き出すなど、そんな勿体無いことはしませんよ」

「っ! お前本当怖いわ! なんでそんなことまで」

「召喚者は特殊な力を持っています。この世界にはそれなりに召喚者がおりますが、エイトさんには彼らと全く違う力がある。違いますか? 例えば魔法ではなく凶悪なスキルを所持している……とかね」


 こいつは絶対悪い奴だ。そうに違いない。

 やべえ、逃げれる気がしなくなってきた。

 だがこいつの操り人形になるつもりは毛頭無い。


「さぁな。お前に俺の能力を話すつもりはないし協力だってしたくもない」

「そうですね。少々強引なやり方でした。信頼関係を築くにあたって私が最初に依頼したことは信頼を損ねるものです。ですが、そうしてでもヤーレン殿をこちらへ引き抜けたのは大きい。エイトさんは私が想像していたことよりはるか上のことを成し遂げて戻って来ました」

「どういう意味だ?」

「ヤーレン殿は王都で飼い殺しにされるところでした。彼女は騎士を首になったと言っていませんでしたか?」

「ああ、言ってたな。何をしたのかは聞いてないが」

「二階級特進を成した彼女は他の騎士に嫉妬され、罠にはめられたんです。今回の手紙はその警告文でした。命にかかわるので注意すること。そして最悪の場合こちらへかくまう準備がある、と添えた文章でした」

「そーいや手紙は読まなかったから内容は知らなかったな」

「エイト殿ならそうするでしょうね。私から信頼を得ようとしていたわけですから」

「そうじゃねえ。人様の個人情報は勝手に見ない。そんなのコンビニだろうがなんだろうが一緒だ。犯罪だよ犯罪。お前とは違うの」

「ほう。面白い発想ですが同意です。ただ、相手が情報を伏せていて不審な場合、その限りではありませんがね。話を続けましょうか」


 こいつは少し込み入った長い話になりそうだ。

 聞くしかない。なぜって? 

 湯上り美人が戻ってきたからだ、くそ。なんてタイミングだ。

 ボッチの奴、ここまで狙ってやがったな! 

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