第11話 明日に架ける橋から見える町

 ……崖から飛び降りたはずだが、どうやら無事だったようだ。

 体が少し痛いくらいで怪我も見当たらない。

 結構な高さから飛び降りたと思ったが、よく生きてるな……毒も食らったんだろうけど、消えてるようだ。

 滝の音が近い……岸辺に打ち上げられたか、助けられたかのどちらかだ。

 グラドが見当たらないから、あいつが助けてくれたんだろう。

 本当に良い熊じゃないか。

 ――そう思っているとグラドが変な奴を連れて少し離れた場所からやってきた。


「おう、目ぇ覚ましたか」

「ああ。お前が助けてくれたんだろ?」

「いいや。礼ならほれ。そこの娘に言うんだな」

「娘? 娘なんて俺の目の前にはいないが?」


 一緒にいたのは遠めに見ても分かる、人型のアリだ。

 俺の背丈くらいある巨大アリの登場だよ、おい。

 一瞬期待した俺のトキメキを返せ。

 近づいてくるとなるほど、メスであることは理解出来た。


「何見てんだてめぇ」

「……俺、何かしましたっけ?」

「このしゃべり方が標準らしい」

「ちっ。うざってぇ野郎共が。助けてもらって礼の一つも差し出せないのか?」

「ええっと、まぁ差し出せるかもしれないけどあんた誰だ?」

「名乗る前にてめえらから名乗るのが筋ってもんだろう」


 なんかこのアリ怖い。

 なんですげー上から目線なんだ。殴りたくなってきた。

 

「お言葉だけどね。こっちは助けてくれなんて一言もいってないわけ。大体なんであんたこんなとこにいんの? 何してんの? 遭難ですか? 迷子ですか? 迷子センター行くか? おお?」

「おいやめとけ。こいつの声に聞き覚えないか?」

「聞き覚え? 聞き覚えも身に覚えもなんもありませんよ? 大体アリって。こっちは勇敢な女剣士に助けられるーとか、獣耳美少女に助けられたーとか、そういったものを期待してたわけ。それがアリですよ。アリ。がっかりだよこの世界には本当。もう一度寝るか」

「……殺す!」

「おい落ち着けって。こいつも悪気はないんだ。その、不幸が続いててな。いらいらしてるんだよ」

「現在進行形で不幸が続いてんの! 牢屋からここまで良いこと一つもありゃしない」

「ふぅ。仕方ないな。俺はグラドでこっちはエイトだ。その物騒なものを捨てろ」


 ちらりと見ると、キレかかったアリが棒切れのようなものをもって殴りかかろうとしていた。

 ほう……ちゃんと腕も手もあるようだ少しは使えるかもしれん。


「ちっ。こんなやつ助けるんじゃなかった。あんたらについていけば美味しい思いが出来るとタカをくくったあたいがバカだったよ」

「……ついていけば? お前まさか!」

「ようやく気付いたか。鈍いやつ」

「ストーカーだな! どうして俺はまともな奴にモテないんだ! バイトしてる頃もそっち系のお兄さんに誘われるし? 可愛い女子店員には凍り付いた笑顔で振られるし? ちくしょう俺にはクラウドさんしかいねー!」

「あ、ああ……まぁなんつーか、悪かったよ」

「同情するくらいなら可愛い子の一人でも紹介してほしいんだけどもね! ……あれ? お前よく見たらスタイルだけはいいな」

「……おい。やっぱこいつ殺してもいいか?」

「はぁ。それよりもだ。この場所見ろ。上に戻れないぞ」


 グラドにそう言われて起き上がって周囲をぐるっと見渡すと……何だここ。離れ小島かよ。

 周囲の水場は滝がすぐそばにあるせいで流れが早い。

 AI生成が出来ればどうということはないがな。ふっ。


「まぁ俺の能力があれば出られるだろうけどな。はぁ……」

「やっぱりお前だったんだな。牢屋を破壊したのは」

「そうだが? ……ってお前! 俺とグラドが騒いでたときにうるさいって怒鳴ってたやつか!」

「今頃気が付いたのか? 相当鈍いな。あたいはリーアだ。お前とかこいつとか呼ぶな!」

「ほう。アリでリーアとは……こいつは面白い」

「この野郎、ぶっ殺してやる!」

「落ち着けって……ったく、なんで俺が喧嘩の仲裁せにゃならんのだ。それよりエイト。食い物がここにはないんだが、お前の能力で食い物も出せるのか?」

「どうだろう。俺の愛しいクラウドさんに聞いてみる」

『マスター。お呼びですね。食べ物の生成はAIジェネレーターで可能ですが、大量のマジックを消費します』

「ほう。ちなみにリンゴ三つでいかほど?」

『リンゴ三つ生成で必要なマジックは、おおよそ四千五百です』

「まじかよリンゴで? ゴーレムの何倍必要なんだ……ああ、ゴーレムは消えるからか。いや待てよ。道具生成とは異なるから、食っても消えるんじゃないのか?」

『味覚や触感などよりリアルに再現されるため、その分マジックを消費しますが、空腹は満たされずエネルギー補給もされません。ゴーレムの場合構造が極めて単純であり、持続も短時間だったために生成可能だったとお伝えします。更に付け加えるのであれば、マスターの生成レベルによる要因が影響すると進言します』

「つまりもっとレベル上げろってことかよ。使ってみないと分からないし、試してみるか。いや、リンゴ作ってる場合か。まずはここから脱出だな」


 ひとまずこのアリだけ置いていく方法を考えよう。

 いや待て待て。こいつに恩を売って従えさせるのも悪くないアイデアだ。

 ここは一つ、エイトさんの優れた能力を見せて圧倒してやろうか。

 どうせならあの滝の上に橋を架けてしまおう。


「クラウドさん。あの滝付近にまで届く橋を架けられると思うか?」

『可能と推測します。マスターの呪文次第です』


 ふむ。任せてくれたまへ。

 そう思っていると、アリが俺をゴブリンでも見ているような目つきで見下してくる。


「こいつはさっきから何をぶつぶつと独り言をしゃべってるんだ?」

「気にするな。あれがエイトの詠唱前段階だ」


 分かってるねグラド君! さすが俺の相棒だ。

 

「よし。ならばアリにも見せてやるよ! きらめく滝まで伸びる安めのレンガ橋を生成してくれ!」


 俺が滝にめがけてそう叫ぶと……『AI道具生成……滝へ伸びるぼろいレンガ橋を生成します』


 ん? ぼろい? これはまずい。安いイコールぼろい? まぁぼろいなら安いわな。でもねそこは材質が……材質はレンガかそういうことか。

 滝一直線に伸びたレンガ橋は滝にぶつかり半分崩れ落ちた。

 残ったのは滝へと途中まで続く微妙な壊れたレンガ橋だ。

 グラドとリーアは呆れて滝の方を見ている。


「何かすごい魔法を放出したと思ったが、こいつは何がしたかったんだ?」

「きっと滝を近くで見たかったんだろう。どれ、行ってみるか」


 フォローいただいて、有難うございます、グラドさん。

 せっかく作ったのに、無駄になったよ。

 ――なので俺も橋に昇ってみる。

 すると……「おお、滝の上はこんな風景だったのか。写真じゃ滝と少し町が分かる程度だったからな。クラウドさんももっと天高く飛んでくれればよかったのに」

『マスターが下でいやらしい顔をしていたので、すぐに降りるようにしました』


 ……気づいてたんですね。すみません。カメラに夢中だと思ってました。

 どのみちクラウドさんはズボンでしたけどね。

 さぁ、それよりも向かおうじゃないか、あの町へ。


「おい! 早く引き返せ!」

「何を言ってるんだこれから向かう……」

『崩れる!』


 ……ですよねぼろい橋だもんね明日に架ける橋じゃありませんよね。

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