第10話 数の暴力ってすげーんだわ

 ゴブリンってのは緑色の気色悪い、小さなおっさんと聞いたことがある。

 まさにその通り、おっさんだ。

 しかし上半身裸体の奴もいれば服を着込んだ奴もいる。

 顔で見分けはつかないが、衣類で多少の見分けがつく。

 そして手にはおのおの独特な獲物を所持。

 統一感の欠片もなく、ぎりぎり知的生命体か? というレベルだ。

 分かりやすく言えば、寄せ集めたおっさん的集団。

 しかし……「一、二、三……何匹いんだよ、おい!」

「まずい。ゴブリンの巣穴近くを通ったようだ。アクアバレット!」

「ギィギィーー!」

「本当にギィギィ言うんだなこいつら。おお、数匹仕留めたか?」


 グラドのアクアバレットがゴブリン数匹を貫いた。

 グロテスクな光景に目を背けつつ、やっちまえグラドさんと心の中で思う。

 後ずさりしながらグラドはこう叫んだのだ! 


「逃げるぞ!」

「ですよねー!」


 俺たちはリアカーを捨てて退避。

 するとゴブリン親父の集団は、リアカーに積んだ木の実が目当てだったようで、仲間が倒されたことを気にも止めずにリアカーの木の実へ飛びついた。

 逃げた俺たちも無視だ。

 ちくしょう。俺の木の実を。いや、グラドが拾ってきたやつなんだが。


「お前の強さならあの集団も倒せるだろうが、準備が必要なんだろう?」

「俺が倒せるのか? 二足歩行の知的生命体だぞ? それにナイフ持ってる奴もいた。刺されたら痛いだろ?」

「まぁ、レベルが低ければ死ぬかもしれんがいきなり絶命はしないだろう」

「いきなりでも後からでも刺さるのは嫌に決まってるだろ!」

「ステータスを見てみろ。ライフはいくつあるんだ?」

「えっと。リファレンス」


 エイト

 年齢 26

 職業 脱獄者

 レベル 768

 LIFE 22000/23340

 MAGIC 17790/38900

 STR 770

 VIT 2300

 DEX 5250

 INT 999999不能

 AGI 530

 習得魔法 無し

 スキル AIトーク、AI生成メニュー、AI並列処理


「二万二千だ」

「なんだと?」

「だから二、万、二、千、だよ! 多いのか少ないのか分からねー」

「レベルはいくつなんだ、お前」

「七六八らしいぞ」

「冗談だろう!? ついこないだ召喚されたばかりの奴がか? レベル一だったと聞いたがあれは嘘……いやまさか、あのときか!」

「ああ。クラウドさんが暴走してあの森にいた獲物を殺戮……ううん俺は何もしていない……」

「それだけあればゴブリンの武器などレアが無ければ全く通用しないだろう。逃げる必要無かったかもな」

「おい、その中に仮定が入っているのを忘れんな。グラドはレベルいくつなんだよ?」

「俺のことはいいだろう。それよりどうするんだあのリヤカー」

「いいから道を急ごうぜ。少しくらい道を外れても……ん?」


 グラドと話をしていると、遠くから声が聴こえた気がした。

 それはゴブリンから逃げた方角とは別だ。

 

「おいおい。まさか他のゴブリンの巣穴が近くに?」

「みたいだな。どっちに逃げる?」


 俺たちは東へ真っすぐ進んでいたわけで。

 そして逃げた方向は進行方向に対して西だ。

 そして西に進んだ正面からギャーギャー聞こえたわけだ。

 つまりまた東へ進めばいいわけだな。うん。

 

「東へ逃げるぞ」

「倒さなくていいんだな」

「仮定があんなら逃げるが一番だ。それにいちいち構ってたら日が暮れる。俺は早く水のある場所に行きたいんだ。そして……」


 滝を見てから俺が意の一番にしたいことがあった。

 体を洗いたいもう耐えられない。

 二日以上体を洗えず耐えられるなんてこの熊は俺と違う生物だ。

 まぁ熊だから違う生物なんだけど。

 善は急げ。小さいおじさんと遊んでる暇などない。

 ムフフ展開があの町で待っているかもしれないじゃないか。

 ――言わずもがな、その選択は浅はかだったわけよ。

 最初に遭遇したゴブリン。それは東側に直進したら出会っていたわけだ。

 つまりそのゴブリンの巣穴がこの辺りにあるわけで。


「うおおおお、何匹いんだよ!」

「百、いや二百はいるぞ! 対処しきれん!」


 ……ゴブリンの二大集落と決戦だ。

 いやいやバカ言っちゃいかんよ。

 数の暴力ってのは凄い。

 グラドはライフとやらが高ければ攻撃は耐えられるとか言ってた。

 そりゃね、投擲物をくらっても死にはしないよ? 

 でもね、痛覚はあるんだわ。

 痛いの。一杯色んなもの投げられて痛いの。

 何だったら汚いものまで投げられて、オメー殺シテヤルってなるわけで。

 でもやってる場合じゃないんだわ。だってこのままだと囲まれるんだわ! 


「クラウドさんクラウドさん大ピンチです助けて!」

『マスター。素晴らしいムフフ展開をお楽しみですね』

「それ、AIがおもしろ反応するときのやつ! そうじゃなくて助けてくれ! 追われてる状況をなんとか出来ませんか? AIの神様!」

『走りながらAI生成は不可能と進言します。AI生成を使用可能な状況でないため、AI生成メニューは利用不可能です』


 それは聞いてない。いや、AIは察して教えてくれるほど本来親切じゃない。逃げる方法をいくつかパターンを掲示はしてくれるだろうが……。

「だったら知恵を貸してくれ! 数百のおじさんに追われてた場合、どうしたらいい?」

『逃げ切るには足場が悪く、マスターは森の歩行が不慣れです。森の木を倒して足止めすることを推奨します』

「それだ! グラド、木を倒すぞ!」

『ただし……』

「今はいい! 蹴りで倒せるか、これ。俺は非力なんだけど」

「任せろ! アクアアックス!」


 グラドは右手に水の形をした斧を作ると、周囲の木を切り倒した! 

 やるじゃねえか相棒。

 でも怖いからあんまりそのまま近づかないで。


「ギィギィーー!」

「ざまぁみろゴブリン共!」


 木で塞がれたおじさんたちは、よじ登ろうとして互いにぶつかり合い、同士討ちを始める。

 賢さがとにかく足りないようだな、ゴブリン共め。

 そのまま全速力でグラドと共に突っ切っていく。

 足場が悪いが熊はすいすいと移動している。これが種族の差ってやつか。

 ようやくゴブリンをかなり突き放し、森の出口が遠くに見えて来た。

 

「見ろ。もう少しで森を抜けるぞ」

「おお、森さえ抜けちまえば……」


 そして背後からブーンというとても大きな羽音が聞こえた気がした。

 またも気のせいじゃない。

 今度は……「うおお、なんだあのでかい蜂は!」


 俺たちが森を抜ける手前で、人の何倍かはある蜂の集団が現れた。

 色は金色っぽい。ちょっとゴージャス。

 そいつらは尻尾の先から何かをこちらに飛ばしてくる! 

 飛ばされたものが俺の腕に刺さる。


「痛ぇ。何だこれ刺さる!」

「おい、そいつ毒持ってるぞ! 森を走り抜けろ!」

「毒? まじで俺毒? 死ぬの? 毒で死ぬの? うっ……背中にも刺さった! 背中が痛ぇ!」

「お前のライフならまだまだ大丈夫だ!」

「だからお前、俺の前を走ってんのか!」


 グラドは俺を盾にして前を走る。

 いっそジャンプしてやろうか。くそ、毒って継続すんだよな。

 治るよな? 時間が経てば治るよなそうだよな? 

 ようやく森の出口寸前! このまま逃げ切れ「やったーーーーーアアーーーーーーーー!? そこで崖かよぉーーーーー!」


 俺とグラドは超ダイブ。

 明日へ向かってランデブーだよ。ちくしょう。

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