第9話 並列処理ってやばない? 確かに一文字違いだけれども!
目が覚めるとリヤカーの上。日陰で眠っていたようだ。
眼前には木からびよんと伸びる虫が見える。
そして隣にいるのはいびきをかいて眠る熊。
異世界っていったら隣に寝てんのは美女だろ?
おかしーだろ、これ。
もっかい寝ようかな。
「んご!? ……お、ようやく起きたかエイト」
「それはお前だろ。ここが夢の中ならよかったよ。はぁ……さっさと行動して美女……違う、安息な環境を目指すとしようぜ相棒。リファレンス」
エイト
年齢 26
職業 脱獄者
レベル 768
LIFE 22000/23340
MAGIC 17800/38900
STR 770
VIT 2300
DEX 5250
INT 999999不能
AGI 530
習得魔法 無し
スキル AIトーク、AI生成メニュー、AI並列処理
……それなりにマジックは回復したようだ。
全回復してないのはこんな環境だからか。
つーかこのステータスが強いのか弱いのか分からんが、不能だけはまじで許せん。
こんな数値、誰かに見られたら何勘違いされるか分からん。
『マスター。お早うございます』
「クラウドさんお早う。早速だが昨日の続きだ。AI並列処理を試してみたい。周囲の状況把握をするにはどうしたらいいか提案してくれ」
『いくつかの方法がある中、適切だと思われる結果を提案します。AI道具、インスタントカメラの生成。AIジェネレーター、翼のある生物を生成し、クラウドが撮影することを推奨します』
「それだー! さすがはAIのクラウドさん。天才だ。後は呪文を考えればいいんだな?」
『仰る通りです』
俺とクラウドさんとの話はグラドには聞こえない。
突然俺が叫んだり、呪文だのと言ったりしてるからさぞ不安だろう。
「呪文か。お前は魔法が使えないのに呪文を唱えるんだな」
「そういうスキルなんだよ。魔法が使えないのに呪文……ああ、いい響きだ」
「よくは分からんが……お前の力は凄いものだ。あらゆる魔法を耐えるゴーレム。謎の道具で魔法のような何かを放出し大量虐殺。まさかこんな人間がいたとはな。召喚者とは恐ろしいものだ」
「話は後回しだぜグラドさんよ。まずはAI道具生成。広範囲を投影できるインスタントカメラ。回数はそうだな……フィルム十枚位にしよう。マジックいくら消費するか分からんし。AIジェネレーターでは綺麗な羽が生えた美女型天使の生成だ。頼むぜクラウドさん!」
ついに野望が叶うときだ。
俺の目の前に、それは見目麗しいエンジェルが舞い降りるに違いない。
『AI道具生成開始……並列処理を行います。美女型天使を生成……完了。AI並列処理効果により合体を実行します』
「合体!?」
聞いてないぞ! なんだ合体って!
合体ってあれだよな、いい感じの合体だよな? な?
美女がカメラを持つ的な合体だよな?
『AI並列処理により美女型天使カメラが完成しました。これよりマスターの要望を叶えます』
「美女型天使カメラってなんだ……」
……そしれクラウドさんは、今想像していた通り美女型天使になりました。
綺麗な羽の生えた、スタイル抜群の……カメラです。
顔面は当然インスタントカメラだ。
美女の定義ってなんだ? 何かが美しければそれは美女か?
カメラの性別? 知らんがな。
「思ってたのと違--う!」
「凄いな。こいつはキメラか?」
「キメラとカメラなら確かに一文字違いだわー! ……ちょっとお前黙ってろ! くそ、俺の夢が!」
ふわりと空を舞い上がるクラウドさんは、まるで小悪魔のように笑った……ように感じた。
カメラだから喋らないんだけどね。
そして、天高くからパシャパシャと撮影開始。
撮影されたものがぱらぱらと降って来た。
一枚一枚が大きい写真だ。東西南北それぞれを映した写真が整列されたまま降って来る。
適当に落としたわけではなく、それぞれの方向を撮影した通りに落としてくれているのが直ぐに分かった。これにもマジック消費してるんじゃね?
現在地を中心に、南側が国境だ。
北には城……か。でかいな。あれが王都か? 村も映ってる。街道もある。その写真が全部で三枚。
南はくそったれのマジックアカデミアがある方角の写真だ。こっちは一枚だけで、国境が見える他、森林の一部が映ってる。
西は深ーい不気味な森が見える。洞窟……ダンジョンか? みたいなものも映ってる。それと奇妙な建物。合計二枚の写真だ。怖すぎるわ。ここは却下だ。
東は小さい滝が見える写真がある。その滝の上、川付近に町のようなものがあるな。のどかそうだ。東側の写真が四枚もある。
どうやらクラウドさんもこちらが気に入ったようだ。
東側の滝付近に向かうルートの写真が撮影されているが、森の中を突っ切るか、目立つ街道を進むかの二択だ。
「マスター。役目を果たしました。AI消失を推奨します」
「相変わらずクラウドさん出てくると声がはっきりするな。もう少しクラウドさんを眺めていたいんだけどなー……」
「それは推奨されません。並列処理によりマスターのマジックが底を尽きかけております」
「なんだと!? あんなにマジックあったのにもう? AI消失!」
AI並列処理ってのはコスパがとにかく悪いらしい。
待てよ? 考えても見ろ。呪文を一つにまとめてAIジェネレーターでカメラつき天使を創造したらよかったんじゃないのか?
そうすればわざわざ並列処理なんて必要ないよな。
『マスターがお考えの内容をAIジェネレーターで実行すると、呪文が長くなりすぎて生成が不可能だと進言します』
「それ、パソコンのAI生成でも同じだわ。つまりシングルコアでやるんじゃなくてマルチコア……つまり並列処理でやればパソコンでももっと正確に生成出来るかもってことか」
『仰る通りです。マスターの能力が高くなれば、高度なものも生成可能と進言します。パワーレベリングを推奨しま……』
「お断りだー!」
と、文句を言いつつもクラウドさんをどう生成したらいいか悩む俺。
隣にいる熊のような女性で生成された場合、俺のハッピーライフは露と消えるだろう。
クラウドさん生成は慎重に考えるとしよう。
そんなわけで、一路東にあるという滝付近に向かうことになった俺とグラド。
リアカーを引いて写真通りに道を進んでみる。
俺たちはどうみても不審者だ。
堂々と道の真ん中を歩けば職務質問待ったなし。
俺の職業は脱獄者。
この国でも牢屋行きになるのは間違いないだろう。
そんなわけで景色は森林のままだ。
だが、ついに俺は見てしまった。
前方にいる奴ら……ゴブリンだ。
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