第8話 こいつぁクマった

 グラドが到着と同時に俺はさっと通行証を渡す。

 グラドがそれを受け取ると、ツナギの内側の毛皮にしのばせた。

 ポケットとかついてんの!? 


「どうだ、いけそうか?」

「五割、いや六割ってところだが、相手は所詮ゴリラだ。任せておきな。成功率十割まで引き上げてやるよ」

「頼もしいが。しくじったらやばい。かなり後ろの方だが、見回りの兵士が来てやがる」

「オウケイ直ぐ済ませよう」


 グラドと共にリヤカーを引いて、再びゴリラの下へ。

 どっちも黒のツナギを着ているから、俺の話がまんざら嘘でもないと思ったのだろう。驚いた顔をしている。


「本当にその恰好流行ってんのか。俺も買ってみるか……」

「止めろ、これ以上きわもののペアルックを増やすな! じゃなかった。これが通行証だ」


【マジックオブコート国、近衛兵隊長代理による緊急調達用品の運搬における通行証。エイトオブエイトはマジックオブコート国とマジックアカデミア国間の一時的な通行許可を認める。マジックオブコート国、近衛隊長代理ヤーレン・ソーラン】


 一通り目を通すと、ゴリラは額に手を当てて考え出した。

 おいゴリラ。無い知恵を振り絞る仕草をするのは止めるんだ。

 今すぐ俺たちを先へ通せ。頼む、お願いします! 


「近衛隊長代理……ヤーレン・ソーラン。思い出せそうだが、くっ……ここまで出かかっている。頼む、ヒントをくれ」


 くっ……じゃねえこのゴリラ! もういいだろ! 


「え、ええと。ほら、あの剣の……あれだよ、あれ! 剣がピカって光るあの!」

「ちょっと待て!」


 やっべー何か勘違いしてくれてフォロー入れたらそっちがダウトだったか!? 

 くそ、ゴリラの癖に。そろそろ知恵を振り絞り過ぎてお前の血管切れるぞ、留まれ! 血管留まれ! 


「思い出した! 先の戦争、ニーベル平原におけるヤーレン! 七つの大将首を上げて二階級特進した伝説の兵士じゃないか!」


 二階級特進ってそれ、死んでますよね。


「そそ、そうだよそのヤーレンソーラン節だよ、そう!」

「ソーラン節?」

「違う違う。ヤーレンさんだよいやー、ゴリさんも知ってたか」

「こっちの国じゃ有名だ。まさか隊長代理までのし上がってるとは……部隊はギガズ殺戮隊あたりか?」

「いやー。それはちょいと話せない内容ですんで……ははは」

「うむ。通行証自体どうみても本物だ。通ってよし」


 おい、まじでもう足ガクガクだよ。

 どうしてくれんだよこのゴリ。

 ギガズ殺戮隊って何だよ怖えーよ! 

 あっちの国もやばい国ですか、このやろー。

 とにかく一難去った。

 さっさと通ってグラドとサラダでもつまむとしよう。


 ――とぼとぼとリアカーを引いて門をくぐると、さっさと門を閉められた。

 はぁー……どうにか門をくぐり抜けたけどもうクタクタだよ。

 それもそうだ。何せ俺もグラドも、森で二日以上過ごしたはずだ。

 まともなベッドが恋しいが、あちら側に兵士が来ていたならこの辺にいるのはまずいだろう。

 

「無事抜けられたな」

「無事なのかねえ。ヤーレン・ソーランとか適当な名前つけても隊長の代理にしちまえば分からんだろーとか思ってたんだが、まさか実在するとはな」

「ヤーレン・ソーランではないがな。腕の立つヤーレンという者の話なら俺も聴いたことがある」

「ソーランじゃないの? あのゴリラやっぱバカなの?」

「あまり賢い奴には見えなかったが、あの門兵もなかなかに強そうだったな」

「はぁ……どうでもいいけどさ。国境抜けてもまだ森かよ」

「森は嫌いか?」

「森が嫌いなわけないだろ。同じ風景で見飽きたって言ってんの」

「人間らしい答えだな。ここから先は俺にも道が分からんが……」

『マスター。地形把握をお望みですか?』

「うお!? クラウドさんが突然話しかけてくるとびっくりするな」

『びっくりしなくなるには、マスターのAI生成レベルを上げる必要があります』

「生成レベルって自分のレベル上げても上がらんの?」

『はい。マスターが多く生成しなければ上がることはありません。いかにAI生成を多く行ったかによります』

「そっか。学習みたいなものか。それでクラウドさんや。地形把握って出来そう?」

『並列処理を試してみませんか? AI道具生成とAIジェネレーターの並列による地図の作成です』

「おお、それすげー面白そう。やってみたい……けどな。マジック足りてないんじゃ?」

『マスターの目の前には沢山の木の実があります』

「ありますね」

『あとは分かりますね?』

「分かりません」

『マスター。沢山食べて。クラウドは沢山食べるマスターが好きです』

「おっしゃあ俺は食うぞ見ててねクラウドちゃんーー!」


 俺はちょろかった。

 クラウドさんの手のひらに転がされていると知りつつも、止まらない手が口へ口へと木の実を運んでいく。

 そして――「もう食えねー。気持ちわりー」

「食い過ぎだろ。それにしても俺にそのスキルの声が聴こえんのは困ったな」

「なぁにきっとそのうち聞けるようになるぜ、相棒。待ってなええと……眠くなってきたわ」

「おい! これから何かしようとしてたんだろ。今寝たら道端で邪魔だぞ」

「どっこいしょっと。安全な木陰まで頼むよ。リヤカーゴー」

「俺が引くのか!? まぁお前はここまで頑張ったから、少し引いてやるか……」


 食い過ぎて腹いっぱいになった俺は、並列生成の一件を引き延ばしていることを知りつつも眠りに着いた。

 楽しみは後に取っておく。

 ショートケーキのイチゴも、食うのは最後ってな。

 あれ? 食おうとしてたのはサラダだったか。

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