第7話 レベル768だと……?
目を覚ますと、グラドがぶっ倒れた俺を担いで歩いていた。
こいつ、結構優しい熊だな。
黒ツナギいっちょうの熊こうが可愛く見えてきやがったじゃないか。
「悪い、グラド。もう平気だ」
「目ぇ覚ましたか。同じことをやるとはお前も結構間が抜けてるな」
「マジックの残量が分かり辛いんだよ。ゲームなら表示の上の方に出てるんだけどな。こればっかりは慣れるしかない。少しはマジックも回復しただろ。見てみるか。リファレンス!」
八神 出雲
年齢 26
職業 脱獄者
レベル 768
LIFE 800/23340
MAGIC 3500/38900
STR 770
VIT 2300
DEX 5250
INT 999999不能
AGI 530
習得魔法 無し
スキル AIトーク、AI生成メニュー、AI並列処理
「誰が不能だゴラァーー!」
「うお!? どうした突然」
「はぁ、はぁ……いやすまん。おかしい。どう考えてもおかしい」
INTの横に不能とか書きやがった奴出てこい。
俺はまだ二十六だぞ。不能なわけあるか。
それよりも重要なことは無いんだがそれはひとまず置いておく!
レベル七六八? 二か三辺りから? 一体俺、何倒したの? 怖くて調べたくもない。
それにスキル増えてるんですけど。AI並列処理って何だ?
『マスター。お目覚めですか。お早うございます』
「クラウドさん。あれ? 一体どういうことか全部説明して欲しいんですけど」
『全てと言われても、範囲が広すぎてお答え出来ません』
「そうでしたAIでした。それじゃAI並列処理について教えてくれ」
『AI並列処理とは、AI処理を同時に複数行える機能のことです。例えばマスターがAI画像生成とAI道具生成を同時に組み合わせて行いたい場合に実行可能です。ただし、必要となるマジックの桁が跳ね上がるのでご注意下さい。最低でも一万マジックを必要とします』
「一万だと!? そりゃ最初から無いわけだ。今の俺のマジック最大値でも数回しか使えないな」
『現在のマジック量であれば、AI道具生成が利用可能です。最低必要マジックは一千となります』
「道具生成が使えなかったのは納得だな。よし、これで商人の振りができる。そういえば俺の職業が脱獄者になってたんだけど、何で職業が脱獄者なんだ? それって職業なのか?」
『マスター。この世界において職業とは状態を含み表現するようです。つまり職業勇者がいてもおかしくはありません』
……そいつはつまり魔王もいるのか? やだやだ、脱獄者如きが魔王なんて遭遇したら急いで牢屋に戻りたくなるわ。
速やかに他国へ行くとしよう。
「よし、そんじゃ早速準備だ。グラド。クラウドさんも頼んますよ。AI道具生成、リアカー。材質はそこに生えてる木。出来るだけ質素。車輪は回転がいいやつ。そして何より一杯詰めて軽くて小型なやつだ」
『指定されたリアカーを生成します……完成しました』
指定された通りの雰囲気をかもしだしているリアカーが目の前に現れる。
このAI道具生成はAIジェネレーターと全然違うようだ。
「AI道具生成ってのは消えたりしないんだよな?」
『はい。その代わり、クラウドが操作する場合に限りその間マスターのマジックを消耗します』
「つまり、自分で動かせばマジックもこれ以上消耗せずに使えるってわけだ。便利じゃん、AI道具生成」
『生成されるものによっては、数万から数十万ものマジックを消耗します』
「燃費が問題ってわけね。つか、数十万のマジック消費するAI道具って何だよ」
『主に兵器類などがそれらに該当します』
「……作ることが無いと願うAI道具を告げられたわ」
クラウドさん物騒ね。
俺の脳内では既にクラウドさんの想像は完成済みだ。
ボンキュッボンのナイスバディーで細身の癒し系美女だ。
しかし創造をするとまだミステイクして指が八本足が五本とかになりそうなので想像しない。
『マスターの想像がクラウドに流れて来ました』
「すみません冗談だと認識してください! って俺が言わなくても分かるの?」
『マスターがレベルアップした影響でしょう。時折マスターが強く思考した想像がクラウドへ流れてきます』
「……気を付けます。絶対に」
「お前のスキルってやつは人格があるんだな。最初は驚いたが……」
おっと、グラドを無視してついついクラウドさんと話し込んでしまった。
いけないねえ。愛のソルジャークラスファーストだよ君は。
クラウドさんとの会話を終了し、リヤカーに詰めるだけ実を積み込むと、ゴトゴトと森林を歩く黒ツナギ二名。
怪しさ満点だが、きっと大丈夫。そう信じよう。
「ところで道ってどっちだ?」
「北だ。俺が一緒でよかったな。森で迷うことはないぞ」
「頼りになるぜ、相棒」
「相棒? お前と俺が? 寄せよ、まだ信用……いや、信用はした」
「無事この国を抜けたら一杯やろうぜ。美味いサラダを作ってやる」
「何か不吉な言葉に聴こえたんだが、気のせいか?」
おっと、こいつは死亡フラグの方だったな。
なぁにこんなところで死ぬつもりはない。
――木の実をつまみつつ森を進んでいくと、途中謎のモンスターの死骸がゴロゴロ転がっていたので手を合わせておいた。
すみません、すみません、本当にうちのクラウドさんがすみません……。
そう強く念じると、なんとなくクラウドさんが笑っているような声が聴こえた気がした。
――森林を歩いてどれくらい経っただろうか。
国境とはよく言ったものだ。
城壁みたいもんがずらーっと長く並んだのが見えてきた。
こりゃ侵入すんの大変だわ。
空? まぁ飛んで越えられるんじゃないか?
その壁の上に見張りいるから殺されるだろうけどな。
不法侵入したら直ぐにバレる造りだよ、ちくしょうめ。
やはりやるしかない。
「グラド。手はず通り頼むぜ」
「心配だが、分かった」
俺がリアカーを引いて門っぽい場所に近づくと、兵士がいかつい顔してやって来る。
ゴリラが兜被ってるみたいなやつだ。
いや、こいつはゴリラだ。
「おい止まれ……怪しい恰好の奴だな」
「ええ? 怪しい? この服は木の実売りの間で流行ってるんですけど知らないんですか?」
「木の実売り? お前、武器を隠し持ち襲うアサシンじゃないだろうな!」
「……俺、木の棒しか持ってないんですけど。どうぞ調べて下さい」
ゴリラは俺の衣類やリアカーを確認し始める。
なんも無い。せめて前世からの所有物、ジーパンとシャツは手放したくなかったなぁ。
「……本当に木の実と棒切れしか持ってないな。通行証を持たぬ者は通すわけにいかん」
「あの。それは連れが後で持ってくる予定なんですけど、本当に合っているか分からないので見せてもらえませんか?」
「ほら、こういうやつだ。よく見てみろ」
「ええっと、どれどれ」
【メフィスト団所属通行証、ゴール・リラール。この者はマジックアカデミア国とマジックオブコート国国境の警備に赴任するため、永続的な通行を許可する。マジックアカデミア国国王、マーチン・マジック】
やっぱゴリラじゃねーか!
国王の許可証? 全部国王が発行してんの? ていうかこれ、参考にして作っていいのか?
内容を少し変えるか。外観は真似出来る。あっちの国はマジックオブコートって言うんだな……いや待てよ? どうせ作るならマジックアカデミアじゃない方がいい。ボロが出たらまずい。向こうの国王なんて誰だか知らないが、ここは一か八かで違う方向性にしよう。
マジックアカデミアの国王名義で作ったら確実に怪しまれるはずだ。
他国でなら上手くやれる方法がいくつかある。
「やっぱり合ってそうです。俺たちはマジックオブコート国側からの積み荷を降ろして、こっちで仕入れして帰る途中だったもんで、へへっ」
「ほう。どうりで見ない面だとは思ったし、おかしな恰好だと思ったわ。コートの奴らは変な奴も多い。念のため離れて待ってろ」
願っても無い申し出だぜゴリラ。
待ってろゴリラ。お前よりハクがあるゴリ……クマがもう直ぐ来るぜ。
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