第4話 初生成、その能力たるや

『AI生成完了。これよりマスターの指示を遂行します。ご命令を』


 レンジのチンみたいな音で俺の正面に現れたのは、土の塊のような不細工だがでかいロボ型ゴーレムだ。

 グラドと俺を乗せられるくらいのサイズはある。

 ……やったぞ。魔法が使えなくてもこれなら! 


「やべぇ。強そうだ……まず俺の手かせを破壊出来るか?」

「その前に正式なAI名称をつけて下さい」


 登場してからクラウドさんの声がはっきりと聞こえた。

 スキル上なのかそうでないかの違いか? 


「名称? クラウドだろ?」

「クラウドを承認しました」

「何でもいいから早くしてくれ。マジックが無くなると消えるんだろ?」

「承認。手かせを破壊……完了」


 生成したロボ型ゴーレムは、顔を指定しなかったので顔が無い。 

 ゴーレムの指はなぜか六本あるのだが、綺麗な手だ。さすがAI。。

 細かい指示が出来ていないとこうなるのか。

 続けて正面の木製格子を破壊。威力があり過ぎて俺の左隣の木格子もぶっ壊れた。

 そしてグラドのいる正面の木格子も破壊した。


「お前……何だそれは」

「いいから。グラド、一緒に脱出しようぜ」

「……」

「こんなところで一生終えるつもりかよ! 俺は嫌だね。絶対逃げる。お前だって嫌なんだろ?」

「……ちっ。分かった」

「マスター。急ぎましょう」

「よし。脱出経路分かんないけど壁を破壊してとにかく脱出だ!」


 グラドと俺を乗せたゴーレムは、俺のいた牢屋の壁を破壊して外に出る。

 当然大騒ぎとなり、衛兵が来る。


「脱獄だと!? しかも今日入って来た奴らだ! くそ、当番がほとんどいないこんな時に。逃がすな! くらえ、イフリートカノン!」


 衛兵が両手を前に突きだし、燃え広がる炎を撃ってきた。

 おいおい! この牢獄、燃えるものばっかなんだからこの辺一帯火事だぞ! 

 肝心の乗ってるゴーレムは魔法が当たってもなんの変化もない。


「魔法完全耐性発動中。以降継続的にマジックを消耗します」

「すっげ。まじで炎無効にしてる。え? マジック消耗? やばいじゃん!」


 衛兵が放った炎はまとわりつくタイプのようで、ゴーレムの腹辺りをグルグルしたままだ。

 ゴーレムは炎を無効化し続けている。

 しかし、攻撃を受けている最中ずっとマジックが減り続けるならやばい! 


「俺の手かせを外せ! 早くしろ!」

「クラウドさん、グラドの手かせを破壊してくれ!」

『承認しました……破壊完了』

「アクアバレット!」


 グラドの手かせが外れると、ゴーレムにまとわりついていた炎目掛けて水の弾丸を放つ。

 ひゅー、水魔法! しかも弾丸とは恰好良い。

 やるじゃないかグラド。


「マスター。飛びます」

「えっ? 飛ぶってどうやって?」


 炎が消えたことにより動きやすくなったのか、牢獄を出て屈伸運動を始めるゴーレム。

 そして、勢いよく飛び跳ねた。

 俺は飛ぶというのは空を飛ぶのではなく、帽子を被った配管工がポヨーンと音を立てて飛ぶアレかと思った。

 しかし現実は違う。

 真剣マジジャンプだ。


「うおーーー! 飛びすぎ、空、空ーー!」

「おい、平気か!? 随分高いぞ。しかし凄い跳躍力だな」


 なんでグラドは冷静なんだよ! クマみたいな体格のグラドと俺二人を担いでこんな高い跳躍あり得ねーって。

 飛び跳ねた先は森林地帯。

 数キロ先までぶっ飛んだぞ。

 着地とともに爆風とホコリをまき散らすゴーレム。

 逃げ切った。死ぬかと思った。凄すぎた。

 

「マスター。まもなくマジックが尽きます。昏倒を避けるため消失させることを強く推奨します」

「何? マジック切れ? どうやって消すんだ? それすら分からん!」

「おい、大丈夫かエイト?」

「AIジェネレーター消失を唱えて下さい」

「AIジェネレーター消失!」


 すると、その場から音も立てずにゴーレムが消失した。

 どさりと俺とグラドが地面に落とされる。

 

「自分のマジック分からないとか不便だな、そっか。リファレンスすれば……」


 八神 八雲

 年齢 26

 職業 脱獄者

 レベル 2

 LIFE 310/310

 MAGIC 0/510

 STR 3

 VIT 16

 DEX 31

 INT 9999

 AGI 4

 習得魔法 無し

 スキル AIトーク、AI生成メニュー



「おい! マジックが無いんじゃなかったのか?」

「あっ……」


 俺は昏倒して意識を失った。

 ――目を覚ますとえぐり取られたような木の幹の中に横たわっていた。

 近くに美味そうな木の実が転がってる!? 

 もう空腹の限界だった俺は、構わずそれを拾って食った。


「おう、起きたか」

「モゴ……モゴゴ」

「食ってからでいい。まったく、本当に無茶苦茶で変わった奴だなお前」

「ブグ……ふう。死ぬかと思ったぜ。これ、お前が拾ってきてくれたのか」

「ああ。俺の種族は森の食えるものに詳しいからな」

「そっか……それよりも追手は? 俺たち逃げ延びたのか?」

「分からん。だが、あの町で追手なんて差し出しても意味無いだろうよ。ここは国の外れだ。他国に渡るにも国境を通るための通行証が必要。俺たちの身なりも悪い。どのみち牢屋を出たところで、行倒れるのがオチだ。追手なんて差し向けないだろうよ」

「ふーん、そんなもんかね」

「だがよ。お前のことを少し信用してみることにした。口先だけの奴はいくらでもいる。だが、お前は俺を見捨てていける状況で牢屋から連れ出した。人間の中にも信用出来る奴はいるもんなんだな」

「俺がいた世界……いや、いた国じゃさ。仲良くなった奴とは信頼関係が結べたんだ。男でも女でも、子供でも年寄りでも関係無い。嫌なやつは嫌なやつだ。良い奴もいる。それにはコミュニケーションってのが必要なんだ」

「コミュニケーション? 初めて聞く言葉だな」

「分かり易く言えば交流を深めるってことさ。そして、その信頼を得るにはまず、自分から自分のことを話さなきゃならない。そんだけのことだよ」

「ふっ。なら俺も自分のことを話すか」

「ああ。よろしく頼むぜ、グラド」


 こうしてくり抜かれた木の中で、俺はグラドと話をした。

 グラドはアクアベアーという種族らしい。

 水場が豊富な森を縄張りに住んでいた種族だが、人間に侵略され、細々と生きる種族になってしまったらしい。

 そんな生い立ちなら人間を信用出来なくても無理はない。

 マジックアカデミアには仕事で来たそうだ。

 森の食べられる木の実を売って生計を立てていたそうだ。

 使える魔法は水魔法のみ。レベルは三十ほどあるらしい。

 力も体力もあるなら助けて欲しいところだ。

 

「それで、先ほどのお前の魔法……あれは何だ? 魔法が使えないんじゃなかったのか?」

「魔法じゃなくてスキルだ。俺の魔法欄は無しのままだよ」

「スキル……つまり召喚者固有の能力か。実際疑わしかったが、凄まじいな……」

「ふっふっふ。グラド君。あれはまだ能力の一部なのだよ。先ほど他国に入るには通行証が必要と言ったね。俺にいい案がある……だがその前に。リファレンス!」


 八神 八雲

 年齢 26

 職業 脱獄者

 レベル 2

 LIFE 310/310

 MAGIC 350/510

 STR 3

 VIT 16

 DEX 31

 INT 9999

 AGI 4

 習得魔法 無し

 スキル AIトーク、AI生成メニュー


 自分の能力を改めて確かめる。

 やはりマジックが減ったままだ。

 AIトークとAI生成メニューを駆使すれば……こんな国とはさっさとおさらばしよう。

 作戦をグラドに伝えると、少し怪しんではいたものの、協力してもらえるようだ。

 腐敗した国からの離脱作戦開始だ! 

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