第5話 AIを駆使せよ

「これだけあれば足りるか」

「ああ。助かるよ」


 くり抜いた木の中に、食ったら美味かった実を指定して沢山拾ってきてもらった。

 水源も近くにあったのだが、生水を飲んで変な病気にでもなったら困る。

 その実をかじりながら、リファレンスを唱えてステータスの変化状況を確認する。

 どうやら食って休息を取るとマジックが回復するようだ。

 しかし俺は人間だ。

 腹が膨れたらそれ以上は食えない。

 回復条件が分かれば後はバランス良くAI生成を使えばいい。

 まず試したのがAI画像生成だ。

 こいつは単純に写真を放出するような代物じゃない。

 質感までリアルに、指定した材質そっくりのカラーコピーを作ってしまうような能力だ。

 紙が無くても指定したものをクラウドさんが書いて放出してくれる。

 つまり、画像の材質さえ調整出来れば、衣類ですら同じようなものが作れることが分かった。

 目の前にあった実がイメージしやすかったので、それをひとまず指定したら写し絵のような写真サイズのものが飛び出てきた。

 それを見てグラドが腰を抜かして驚いた。


「この大きさでマジック三十ってところだ。つまり二枚書いても六十で足りる」

「まるで本物だ。大したものだな。こんなこと魔法じゃ絶対に出来んぞ」

「そうだろうそうだろう。俺のクラウドさんは優秀なんだ。しかも俺はまだレベル二だからな。貧弱なステータスなので助けろ下さい」

「お前は命令してるのかお願いしてるのかどっちなんだ……」

「どっちもだ。俺とお前はギブアンドテイクな関係。その方が信頼しやすいだろ? ただただ与えられてたら気持ち悪いし胡散臭い」

「違いない。それで、次は何をすればいいんだ?」

「それなんだが……俺たちの今の恰好って不審者だよな」


 俺はここへ連れて来られたまんまの異世界人丸出しの格好。

 つまり変態だ。

 一方のグラドは、皮か何かで出来た羽織りに半パン。

 こちらも変態だ。

 俺たち変態コンビに美女でも出くわしてみろ。

 大げさに騒がれた挙句再び冤罪を浴びせられ、再びあの牢屋にぶち込まれるどころか処刑だろう。

 それは避けたいのでこうして変態同士、木の中で話し合っているわけだ。

 しかし何で俺の相棒が美女とか美少女とか美女獣耳とか実はお姫様とかやっぱり妹でした展開じゃないんだよ。

 熊だよ? 面白い構成だけど熊ですよ。せめて着ぐるみしたベアー娘だろ? 

 クマ美女はどこいったんだ、おい。

 親父ギャグ好きがいたらクマったとか言い出すぞ、俺は言わないけど。

 

「そうか? アクアベアー族は何も着用しないやつもいるぞ」

「それは変態を通り越した神の領域だ。俺たちには関係ないアナザーエンジェルだぞ。裸の熊男なんて連れ歩いてみろ。石投げつけられる。この国の服ってのがどんなのか知りたいんだよ。イメージさえ分かればきっと作れるよな? クラウドさん」

『可能だとお伝えします。マスター好みの美女が着用している服も生成可能だとお伝えします』


 熊男に美女服着せてどーすんだよ! 誰が得するんだ。

 クラウドさんってAIなのに察しすぎじゃありませんか。

 能力自体はAIじゃないのか? 


「グラド、地面に描いてみてくれよ。ここいらの特徴が分かれば似せて作るからさ。色は地味に黒にでもすればいいだろ?」

「分かった。大体こんな形だな」


 大雑把に地面へ描いててもらったものを、AI画像生成で真似して作ってみた。

 材質は綿を選択してある。

 するとどうだろう。見事に地味なシャツとズボンが一体化した、いわゆるツナギが出来上がったわけだ。

 確かにこれなら熊でも人でも着用しやすい。

 そしてローコスト。ギリギリ俺の意識が飛ぶくらいのマジック消費で生成出来た。

 ブラックアウトしたのは言うまでもない。

 ――そんな二度ブラックアウトを体験して二着の黒いツナギが完成。

 どこぞの配管工ブラックバージョン兄弟として、くり抜いた木の中に爆誕したのだ。

 着たらなんだか泣けてきた。


「あとは帽子がありゃ完璧だよな」

「これ、結構いいな。気に入ったぞ」

「そりゃどうも。二回ぶっ倒れたけどな。さて、ここからが問題だ。どうにかして通行証を一度見てみないと生成出来そうにない。そこでだ。先ず一度国境まで行こう。そこで商人のふりをした俺が、この周囲の木の実でも運んで通ろうとする」

「それは無謀だろう。止められる」

「まぁ聞け。当然止められるが、そこで通行証がどのようなものかを聞き出す。確認出来たら完璧だ。そして、後からグラドが持って来てくれるというてはずにするわけだ」

「俺は通行証なんて持ってないが?」

「遅れて来たお前はさも通行証を持っているふりをする。そして俺がお前に通行証を気付かれないように生成して手渡すんだ」

「……成功するのか?」

「試してみないと何とも言えないところだが、俺のクラウドさんは最高のスキルだからな。きっと上手くいくだろ」

『その通りであることをお伝えします』


 あれ、何も言ってないのに喋りかけてくるようになりましたよ。

 クラウドさん。早く出たいんですね。分かりますとも。

 でも、これもマジック消費するんじゃ? 


「まず木の実を運ぶ台車が必要だな。こいつはAI道具生成でいけそうか?」

『可能ですが、AI道具生成の使用は推奨されません』

「それ、前も言ってたな。理由は?」

『AI道具生成を行うためのマジックが不足していることをお伝えします』


 それってつまり……レベル上げしろよってことか。

 はぁ……いやいや、グラドだっているんだ。

 やってやろうじゃないか。

 何ですか、モンスター退治ですか、このやろー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る