第6話 自動射撃装置抹殺クラウドによるパワーレベリング

 AI道具生成するためにレベルアップを計る俺。

 パーティー構成は水熊と非力AI戦士の二名。

 ここは牢獄の町から離れた、よく分からん謎の森林地帯。

 武器は木の棒。

 防具は黒のツナギ一丁。

 敗北確率九十九パーセントの無謀パーティーとは俺たちのことだろう。


「グラド、本当に平気か? 平気だよな。お前熊だもんな。強いよな?」

「分からん。この辺りにどんなモンスターがいるのかも俺は知らんぞ」

「モンスターってのはあれだよな? 学校で教師に噛みつく親とか夏場で半分お化粧が溶けちゃった姉ちゃんとか国産で地味に売れ行きが悪いハンバーガー屋とかプルプル震える青色の可愛らしいスライムってやつだろ? 後はあれだ、定番のゴブリン! それにオークか? トカゲか? ミノタウロスなんかはいないよな? な?」

「ここは森林だ。出るとしたら、ボアじゃないか?」

「ボア? ボアってイノシシか? 通常サイズか? ラージサイズか? スモールか? ああ?」

「何で震えながら後ずさりしてるんだ。しっかりしろ、おい……えーと名前はなんだっけか」

「エイトだ! お前が改名しろって言ったんだろ!」

「ああ、そうだった。エイト……どうやら来たようだぞ」


 ガサガサとする物音。

 森林といえばくさむら、くさむらと言えば森林って言うくらいだ。

 なんのこっちゃよく分からんが、俺の目の前にあるくさむらがガサゴソしてる。来るなら来てみろモンスターペアレンツ。

 この音だけで恐怖だよ。例えこっからピョンガエルが出ても俺はちびるぞ! 


「別にびびってねーし? 強盗とか入られるより怖くねーし? レジのうちミスくらい対応してみせるし?」

「こいつは丁度いい。ノーズボアだ。弱い方だぞ!」

「ノーズとか鼻で笑っちゃうやつか。よーし……」

「グオオオオーーー!」

「ふっざけんな、全然ノーズじゃねーじゃねーか!」


 目の前に飛び出して来たのは身の丈八尺もある青龍偃月刀をひっさげた関羽……じゃないけど巨大なイノシシだよこんちくしょう! 

 鼻で笑えるかこんなの。

 木の棒でどうしろってんだよ! 

 取ってこいっつって投げりゃいいのか? 


「ウオーターバレット!」


 くさむらから出たノーズボアはグラドの方向ではなく一直線に突進している。

 グラドは手先からバンバン水の弾丸を巨大なノーズボアに撃ちつけていく。

 俺がいる方向はグラドよりずっと後方でノーズボアの正面。

 グラドは俺の正面よりやや東にいる。

 つまりノーズボアの斜め後ろから巨大なそいつを攻撃しているわけだ。

 これはひとたまりもない。

 でもな。イノシシってのは真っすぐ突っ込んでくるわけだよ。

 猪突猛進なんて四文字熟語があるくらいだ。

 いや、あれは許猪って武将のことだったな。

 ノーズベアは背後からケツをアクアバレットで撃たれても振り返ったりはしない。

 突っ込むのは正面なわけよ。


「はいきたー!」

「グオオオーーー!」


 冗談じゃねえ! 後ろから更にグラドがどんどん攻撃するから勢いを増してこっちへ向かって来る。

 その顔面に、持ってた棒切れを投げつけてやると、方向を逸らして明後日の方向に走っていった。なんでだ? どこ行ってんだよノーズボア。

 だが、このままじゃきっと奴は戻ってくる。

 木の上に急いで昇り試案を……何か方法、方法は……ぁーー! 「AI生成メニュー!」

『AI生成メニューを開きます。指示をお願いします』

「AIジェネレーター! あのイノシシを軽く葬れる竜! ああそうだ。竜を生成!」

『マジック不足のため、指示内容の変更をお願いします』

「ですよねー! それじゃあ、えーと……」


 武器がないと倒せないだろ。刃物? 刃物のある生成物? 何だ? 頭が回らん。


「そうだ。生きてる剣? やたら長く生きてる剣で誰でも扱えるイノシシを葬り去れる剣!」

『AIジェネレーター生成を開始します。クラウドソード、生成完了』


 俺の右手に突如長すぎる剣が生成された。

 その剣はぐにゃりと伸びていき、こちらへ向かってきて俺を睨んでいたイノシシを串刺しにする。

 どさりと倒れると同時にレベルが上がったことを知らせる安っぽい音が鳴り響いた。


「AIジェネレーター消失……」


 早いところレベルを上げてまともに戦えるようにしないと。

 そう考えていると……「マスター。パワーレベリングを推奨します」

「AIジェネレーター消失。パワーレベリング? 何だ、それ」

「おーい。無事仕留められたな。エイト、お前やっぱやるじゃないか」

「死ぬかと思ったわ! 撃つなら撃つ方向を考えろ!」


 木から飛び降りてグラドの下へ向かう。

 グラドは倒したノーズボアを担ぐと自分の魔法で洗いだした。

 よく見ると直ぐ近くに見張り台? のようなものがあるのを確認した。

 それなりの大きさで休めそうなので、その上に二人で登る。

 ここは見張りと危険な動物を狩るための場所なのか? バリスタのようなよく分からん文字がびっしり書かれた、大きな矢を飛ばすようなものがあるのだが、肝心な矢が一本もない。


「それにしてもまた魔法が効かないものを出すのかと思ったんだがな」

「ありゃ燃費が悪すぎるんだよ」

「燃費?」

「マジックってのは言わば燃料みたいなもんだろ? 無くなったら補充しなきゃならんし、補充方法だって決まってる。そんなら今所持している最大容量を考えて使わないといけないの。マジック五百とか、少なすぎるわ。話にならん!」

「それで、レベルはいくつに?」

「ん。そうだな。確認してみるか」

『マスター。今の状態で確認することは推奨されません。パワーレベリングを行ってから確認することを推奨します』

「そうはいってもな、クラウドさん。一体どうすりゃいいんだ?」

『マスターがAI生成を最大限に発揮するためのプロセスを提供可能です。このクラウドにお任せ頂ければ提案した内容を実現可能です』

「よし。ならば気を失わない程度にマジックを使用してそのパワーレベリングの方法を……生成?」

『パワーレベリングの指示を確認。最も効率的にマスターのレベルアップを考察……方法を可決します。AIジェネレーターによるパワーレベリングに最適な兵器を付近に確認。汎用利用可能生成体を局所的に放出します……完了』

「は?」

「攻撃可能時間推定二十秒。対象を凶悪個体に限定。生命体感知機能搭載自動射撃システムを起動します。付近にある装置に接続……利用可能と推定。生命体感知。自動射撃します。生命体感知。自動射撃します。生命体感知。自動射撃します。生命体感知。自動射撃します。生命体感知。自動射撃します……」

「ちょ、え? 何してんの? 嘘だろ、おい! 大量虐殺だよこれ!? おい!」

「ご安心下さい。自動射撃装置抹殺クラウドはモンスターのみを対象にしています。引き続き自動で遂行します。生命体感知。自動射撃します。生命体感知。自動射撃します」


 次々に謎のレーザービーム砲をバリスタから放出し続けるクラウドさん。

 一体何発射出したのだろうか。

 俺のレベルアップ音が頭に鳴り続けていた。

 嘘だろ? パワーレベリングってゲームで言うところの他の奴に協力してもらって倒した敵から楽して経験値を得て一気にレベル上げるとかだろ? 

 これ、自動射撃するオプションが撃った玉でレベル上がり続けてるようなもんじゃねーか!? ツインビーよりひでーよ。大戦略? いや、大戦略なんて立ててないわ。そもそもレベルの概念がないぞそれらには。

 レベルって何よ。何なのよ! 


「推奨マジック到達を確認。消失を推奨します」

「……AIジェネレーター消失」

「お、おい。一体何やってたんだエイト」

「ええっと、無差別大量殺戮?」

「物騒だな……しかし凄いスキルの攻撃だったぞ」

「スキルなのか? スキルって呼んでいいのか!? 自分のスキルが怖くなってきた……」

「それよりもレベル上がったんだろ? 確認しなくていいのか?」

「おっとそうだった。リファレンス!」


 そして俺はまたやらかした。

 リファレンスするだけのマジックが残ってねーんだわ。

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