第24話 王都荒れてんな

 翌日、ついに到着した王都前。

 この馬車はプラプライムの領事のものなので、止めるのは貴族方面の停車場だと言われたようだ。

 いうても操縦者強盗なんだけど。

 気付かないのか? 案外ザルだなおい。

 一般の馬車を止める場所は王都門前なわけだが、王都に入る列が凄い並んでる。

 よくみたらごろつき連中もいるし商人とごっちゃになってる。

 兵士も多いし、その腰には剣を差し、兜も被っている。 

 待てよ。そういえば国境であのゴリラが戦争がどうのとか言ってたな。

 この国、戦争さ中か戦争後直ぐって可能性もあるのか? 

 あのプラプライムって町は王都から馬車で二日も掛かる辺鄙の地で、亜人や獣人が多い。

 つまり避難民が集まってる土地? 

 だとすると王都の治安が悪い可能性はある。

 プラプライムの治安が悪くなかったのは、領主が有能だからか。

 あの場所を拠点として情報を探るっていう俺の判断は間違ってなかったんだな。

 しかしボッチの野郎。適任だと確信? 本国の状況知ってて任せやがったな。

 つくづく嫌な野郎だ。

 馬車を引いていた賊の頭目は大人しくしている。

 まぁ、俺が賊の頭目だったとしても頭に銃を突きつけられたら同じようにするか。


「着きやした……このまま衛兵に話してきやす。命を助けて頂いて有難うございやした。あいつら共々罪を償ってきやす……」

「お、おう。しおらしくなったな。さて、俺たちは……」

「失礼。プラプライム領事館の馬車のようだが、君は?」


 衛兵が不審そうに寄ってきて、土下座している賊の頭目を捕らえているのが見えた。

 直ぐに兵士が手かせを……ん? あれはリリスとかいう奴に着けられた魔法の手かせだ! 

 ただの兵士でも使える魔法なんだな。

 おっと、今はそれどころじゃなかった。


「俺は使いのものですよ」

「そうか。あの賊が襲った挙句返り討ちにあったと言っていた。さすがはプラプライムの領事館の使いだ。随分腕が立つようだな」

「いやいや。なりたての冒険者ですよ。この通り妹を連れてますから必死で」

「お兄、お腹空いたー」

「そうか。残念ながらあの賊、懸金首ではなかったようだ。王都へは入国料が必要で、銀貨二枚頂いている。冒険者であれば登録証を」

「はい。ミミ―、お前もだ」

「こっちのお嬢ちゃんも!? ……確かに駆けだしのようだ。銀貨二枚ずつ、確かに受け取ったよ。町の地図もあるが買うか?」

「ああ、頼む」

「なら、銀貨一枚。はい、どうぞ」


 結構高いな。しかーし! 今の俺は懐も心も温かい。

 あいつを突き出しても報酬とかないのは残念だったが、戻れば屋敷が手に入るのだ。今はそれどころではない。

 ミミーを連れて町中に入って直ぐ思った。

 この町、きな臭い。兵士が市民に紛れてうろうろしてる。

 治安も悪そうだ。まずは宿屋を探そう。

 酒場に行くのはその後だ。

 

「おいミミー。一応手引いていくぞ」

「うんー!」


 ……妹萌えイベントがやってまいりました。

 こいつも大人しくしてれば可愛げがある幼女だ。

 ちょっとしたお兄ちゃん気分だな。


「あー! あれ食べる!」

「なんだ? 焼き鳥か? よしよし仕方ないな。一本くらいなら……」

「全部ちょーだい!」

「あ、ああ……全部で金貨一枚だが……」

「やったーいただきますー!」

「お、おい。まだ何も言ってな……」


 何も言わずに食い尽くすミミー。

 ……この化け物め! ちょっとでも妹萌えとか思った俺の気持ちを返せ。

 このままこいつと一緒にいたら俺は直ぐに破産する。

 妹萌えと破産を天秤にかけてみろ。

 天秤がぶっ壊れるほど傾くぞ。

 まぁどちらに傾くかは人によるだろうがな。

 ――腹をさするミミーとしばらく歩くと、宿屋は直ぐに見つかったが……た、高い。

 ミミーと二人で一泊金貨一枚。

 インフレが過ぎやしませんか? 

 一人一泊で銀貨五枚相当。

 プラプライムなら三人一泊銀貨五枚。

 これが王都との差か。俺がプラプライムの町を目指したのは正しい判断だったようだ。

 受付に金を払うと怪しい目で見られたが、ミミーがお兄と呼ぶのを見て誤解は解けたようだ。

 人さらいまでいる可能性あんのか。

 治安終わってるな。こんなとこ早く出てお家に帰りたい。

 帰るための家を用意するためにこうしてるから、本末転倒か。


「さてミミー。俺は少し出掛けてくる」

「すぅー、すぅー……」

「こいつ……」


 もう箱型になって俺のベッドのど真ん中で寝てやがる。

 腹いっぱいってか! 自分だけ腹いっぱいってか! 


「……やっぱ俺も休んでマジック回復してから行くか」


 念のため食えるものを食って休んでから向かうことにした。

 この先何があるか分からない。あの執事のことだ。まだほかにも裏がある気がする。


 ――一休みしてリファレンスを行いステータスを確認すると、十分なマジック量まで回復していた。

 よし、指定された場所を地図で確認して向かうとしよう。

 どうやらこの王都、かなりの数の店があるようで、地図にはびっしりと店名が書かれている。

 銀貨一枚は高いだろと思ったが、ミミーの胃袋に比べれば安いもんだ。

 はぁ……萌えっ娘ミミックより萌えっ娘スライムに替えてもらえませんかね。

 

『マスター。出発前に衣類の交換及び変装することを進言します』

「どういうことだいクラウドさん。ここってやっぱりやばい都なのか?」

『いいえ。王都というよりもこの一件の依頼主が危険であると推測されます。害意ではなく、マスターを試そうとしていると推測されます』

「……そうだな。用心しておくに越したことはないか。どんな衣装にするべきかね」

『兵士風の衣装とマスクを身に着けることを進言します。一見すると兵士に見えるようで近くにいくとそうではないと分かる冒険者衣装を作りましょう」

「ほう。それは面白いな。マスクは仮面にしよう。冒険者っぽい奴で半分隠せるようにして、実は怪我を……って設定のやつだ」

『さすがはマスター。指示を楽しみにして待機します』

「よし。AI生成メニュー……AI画像生成だな。金属もいけるのか?」

『可能であるとお伝えします。ただし大きさや指定する材質によっては大量のマジックを消費します』

「そっか。ツナギのボタンとかもそうだったんだろうな……仮面は右目と右額部分が何かにえぐり取られた形状の銀製仮面で鼻っ面に切り傷のある格好良い適度な装飾の仮面。衣類は……お、外歩いてるあの隊長と同じ奴にしよう。青いラインが三本入った黒鎧に見える鎖帷子くさりかたびら入りの着衣上下。これでいけるか?」

『AI画像生成……クラウドのアレンジを少々加えます……生成完了しました』


 レンジのチーン音で出て来た衣類と仮面。

 こいつは凄い。手に取るとどう見ても布製の服だ。

 コタルディって部類の服の重ね着とでもいえばいいのかな。

 黒ツナギ、怪しい貴族服ときてようやく恰好良い衣類だ。

 そしてこの仮面……腰にニードルガンを差しておけば……いや待て。

 この格好で腰にニードルガンはおかしい。冒険者風ではないし似合わない。


「クラウドさん。剣を腰に差してないと不自然じゃない?」

『それでは剣も生成しましょう。短剣であっても良いかもしれません』

「剣……短剣にしようか。どんな短剣がいいかな」

『マスターが創作したい武具となる道具生成は、性能は別として、マスターの世界単価の役五倍のマジックと考えて下さい』

「五倍!? つまり六千円のものを作るなら三万マジックか。さっき衣類作って消費したからな……そうか、包丁! あれなら安くて頑丈で錆びづらい。AI道具生成。アルミニウム合金の包丁だ。名前は後で変更しよう」

『再度クラウドのアレンジを加えます。AI道具生成を開始……完了しました。ショートアルミニウムブレード。それぞれのイニシャルであるSABから銘々、サブちゃんの完成です』

「サブちゃんって! クラウドさんがぼけた! うわ、サブちゃんって持ち手に銘が入ってる……」

『恰好良いですよ、マスター』

「ま、まぁクラウドさんがそう言うなら、これでいいのか俺の伝説の剣……一応マジック確認しよう。リファレンス」



 エイト

 年齢 26

 職業 ダンジョン攻略者

 レベル 769

 LIFE 23550/23550

 MAGIC 2290/39300

 STR 772

 VIT 2320

 DEX 5320

 INT 999999不能

 AGI 532

 習得魔法 無し

 スキル AIトーク、AI生成メニュー、AI並列処理


 ……かなりマジックを消費した。

 もっかい休んでから行こ。

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