第20話 領事館、色白三白眼は腹黒い
服を新調して俺も少しは冒険者っぽくなった。
領事館への道を真っすぐ進むと立派な屋敷が見えて来る。
ここが町を統治しているやつの住処か。
領事館への道は少し上り坂になっていて、その先は町をそれなりに見渡すことが出来る場所だった。
町の統治ってことは王宮から派遣されている貴族ってことだよな。
大丈夫、俺はこの町で悪いことはしていない。
活動拠点となる場所を用意したいだけなんだ。
――領事館の門をノックすると、直ぐに若い灰色の髪をした、目つきの鋭い男が出てくる。
あれ、眼鏡……か? ガラスが貴重そうだったのに。
長身細身に黒色正装。いかにも出来るやつだ。
「どなたでしょうか。冒険者の方ですか? ご用向きは何でしょうか」
「道具屋のブルーナに話を聞きましてね。こちらで土地や建物の売買を行えると……」
「ああ、町へ移住を希望される方でしたか。少々お待ち下さい。ええと本日は……ふむ。今からでよければ少々時間を取れそうです。冒険者登録証はお持ちですか?」
「はい。こちらを」
「拝見します。エイトさん……まだ登録して日が浅いようですね」
「ははは……そうなんですよ駆け出しで。この町が気に入ったのでぜひ屋敷を持ちたいなー、なんて。それで色々聞いてみたくて」
「ほうほう。ちなみにどのあたりが気に入りましたか?」
「冒険者ギルドのお姉さんが可愛い!」
「はっはっは。面白い方ですね。確かに彼女は評判が良い。立ち話もなんですから中へどうぞ」
よし、まずは話を聞けそうだ。
立派な部屋へ案内され、高そうな椅子へと腰を掛けるように言われる。
「ただいまお飲み物を用意します。少々お待ち下さい」
「お構いなく。すげー……高そうなものばっかりだな」
『マスター。警戒を。あの方、相当な手練れです』
「分かってる。あの手の色白
「……何か? 紅茶を淹れました。どうぞ」
「いえ、こっちの話です。いただきます」
この世界の初紅茶。これも高級そうな容器に入っているが木製。
なら、ここでガラスコップを交渉に出すのはありかもしれない。
「さて、土地をお探しとのことですが、冒険者稼業だけで家を購入するのはかなり難しいです。あばら家か宿屋がいいところだとは思いますが……あなたからは何か特別なものを感じます。それで話を聞こうと思ったのですが、当たっていますか?」
「さぁ、それはどうでしょうね」
「ふふふ。失礼しました。私はライオット。この領事館で執事を務める一人です。領事の一部権限を預かっています」
「俺はエイトです。この町には来たばかりなんですよ。実はしがない商人もしてましてね。冒険者登録は行ったばかりですが……」
試しに一つ、ガラスのコップをことりと置いてみる。
「拝見しても?」
「はい。仕入れ先は教えられませんけどね」
あえて先手で仕入れたという事実を作る。
これが俺のやり方だ。
こうやって先手を打てば、どこで仕入れた? だの、どうやって手に入れた? だの聞かれることは無いはずだ。
先手を取れば常に俺ターン。上手いと言わざるを得ない。
「見事な品物です。これ一つで競売なら金貨数百枚はするでしょうね」
「あ、ああ。そうですね。そのくらいは妥当かなー……」
「それにしても製作者の名前が無いのはなぜでしょうね」
くそ。そっちでターン取りやがった。
こいつは
「銘入れが出来ないんですよ。作品が汚れるとかで嫌がってました」
「ほう。売名のための作品でもない。
「その通り。しかも名前が長くてね。確か……マハラジャスペペドピロンゴルード十二世だ。うん」
「マハ……聞いたこともない職人です。しかしこれは、実験用として用いる方が適切かもしれないですね」
「実験用?」
「ええ。これだけ精工な作りです。どうでしょう、これを領事館へ譲ってはもらえませんか?」
よし来た! その答えを待っていた。
「それは構いませんがね。しかし私は冒険者ランクもE。商談としてここを訪れたばかりですが、そんな奴を簡単に信用しても?」
「いえ。信用は数を重ねて
「……というと?」
「あなたの住む土地……いえ、屋敷まで含めこちらで手配しましょう。代金はこちらのガラス細工……同様のものを含めて全部で五つお持ちですね?」
「なぜそれを!?」
「ふふふ。観察眼というのは最初から真価を発揮しておくものですから」
分かってたってのか。やっぱり食えないなこいつ。
少しにやけた顔が邪悪な笑顔だ。
こいつは全てを見通す悪魔か何かか!?
「それらを全て我が領事館で買い取らせて頂ければ、その代金として土地と屋敷を手配しましょう。それだけの価値があるものと判断します。ただ、土地と屋敷を購入するにあたって、納めるべき税があります。そちらが不足していますね」
「だったら家を少し小さくするとか、もっと提供する数を増やすとかしてもいいんだけど」
「いいえ。先ほどもお伝えしたように、信用を勝ち取るためには積み重ねが必要です。考えてもみて下さい。あなたを不審者として捕らえてガラス細工だけこちらがもらう……なんてことも本来は可能なんですよ」
……確かにその通りだ。
冒険者なんて名乗ってはいるが、俺はただの脱獄者に過ぎない。
こうなりそうで怖いから、なるべくクラウドさんの能力は使わなかったのだが、ここは従うしかないか。
「分かったよ。それで何をさせようってんだ?」
「実は人出不足でしてね。あなたのような極めて有能な人材を求めていたのです。王都に使者を立てるのが大変なのですよ。そこで……あなたにはこの手紙と一緒に献上品として一つ、このガラス細工を王都のある人物に届けて欲しいのです。まずは王都のモットノメという酒場の主人へ出来るだけ人払いを行った上で、こちらを見せて下さいますか。酒場の主人への手紙は読んで頂いても構いませんが、当人に渡す手紙は読んではいけませんよ。酒場の主人に上手く見せられれば、その翌日、昼間にでも来いと言われるはず。そうですね、それまでは町の見学でもしてくると良いでしょう」
【モットノメ】ってなんつー店名だよ!
差し出したのは手紙と俺が渡したガラスコップ、それと酒場の主人に渡す小さな手紙。
「王都の重要人物に面会しろってこと? 俺が?」
「ええ。適任だと確信しています」
「まじかよ……ここからは遠いんじゃないのか?」
「早くても二日は掛かりますね。貴族用の馬車や貴族用の着衣を手配します。多少危険な旅路となるかもしれません。戻って来る間に屋敷は用意しておけるでしょう。そうそう、それともう一つ。もしも王都に沢山あり、あなたが入手出来そうな品物があれば、その報告もお願いしたいですね」
引っかかる言い方だ。
ガラス細工の入手方法は分からないにしても、俺の能力だと確信しているって感じだ。
こいつはまずい奴に目を付けられたかもしれない。
……いや、精々上手く俺が利用してやる。
お互い様だぜ、ええと……「分かった、それじゃ改めてよろしくな、ライボッチさん」
「……ライオットです。呼び捨てで結構ですよ、エイトさん。私はしがないただの執事ですからね。ふふふ」
「ではそうさせてもらうよ、ボッチ」
「ふふふ……ライオットです!」
その笑いが怖いんだよ。しかしこれで一歩前進だ。
衣類を渡され着替える前に、風呂まで借りることが出来た。
俺は絶対ここのような
成り行きで王都に行くことにはなったが、支度金として金貨十五枚を受け取った。
合計すれば金貨三十三枚。十分な軍資金を手に入れられた上、住める屋敷の用意が待っているわけだ。
まずは王都とやらに行ってやろうじゃないか。
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