第47話 今後の方針

 第一航空艦隊それに第三航空艦隊がオアフ島に展開する基地航空隊との戦いに勝利した。

 中でも零戦隊が挙げた戦果は凄まじく、空中戦で二〇〇機以上の敵戦闘機を、さらに地上でも同じ数の爆撃機を撃墜あるいは撃破したのだという。


 その報告を受けた時点で第一艦隊は二式艦偵が発見した敵水上打撃部隊に向けて突撃を開始していた。

 オアフ島周辺海域に敵空母は存在しない。

 そして、同島の航空戦力を叩いた以上、制空権はこちらが奪取したものと考えて間違いなかったからだ。


 索敵機ならびに接触機からの報告によって、敵の戦力構成は完全に掴んでいた。

 戦艦が五隻に巡洋艦が八隻、それに駆逐艦が二四隻だ。

 そして、この水上打撃部隊に対して第二航空艦隊が放った攻撃隊が猛攻を仕掛け、四隻の敵艦に手傷を負わせた。

 中でも、九七艦攻の集中攻撃を受けた戦艦は五本もの魚雷を突き込まれており、こちらはもはや死に体と言ってもよかった。


 「二航艦が撃破したそれぞれ一隻の戦艦と巡洋艦、それに二隻の駆逐艦ですが、これらはそのいずれもが本隊から離れ東方へと避退中です。また、二隻の駆逐艦がこれらの護衛として同道しているとのことです」


 新たな報告を読み上げる首席参謀に対し、第一艦隊臨時司令長官の山本大将は了解したと短く告げる。

 これで、残る敵は戦艦が四隻に巡洋艦が七隻、それに駆逐艦が二〇隻となった。

 一方、こちらは戦艦が七隻に巡洋艦が一〇隻、それに駆逐艦が一六隻だから、一見したところでは第一艦隊側が優勢に思える。

 特に、水上戦闘の主役となる戦艦については、第一艦隊の側が二倍近く優勢だ。


 しかし、一方で問題があった。

 太平洋艦隊がそのすべてを新型で揃えているのに対し、こちらの新型は「大和」のみで、残る六隻は大正時代に整備された旧式艦だ。

 「扶桑」に至っては明治時代に建造が開始されたから、こちらは老朽艦と言っても差し支えなかった。

 そして、これら旧式戦艦は性能面において新型戦艦に遠く及ばない。

 仮に二対一でやり合ったとしても、果たして米新型戦艦に勝てるかどうかは分からなかった。

 だからこそ、一隻とはいえ航空攻撃で敵戦艦を脱落させた意味は大きかった。


 第一艦隊は現在、南東へとその舳先を向けて進撃を続けている。

 太平洋艦隊から見れば、第一艦隊が艦砲射撃を実施するために真珠湾に向かおうとしているように映っているはずだ。

 オアフ島にあった航空戦力がすり潰されてしまった以上、同湾を守る盾は太平洋艦隊以外に存在しない。


 「一航艦と三航艦はオアフ島攻撃を継続、同島に展開する戦力にとどめを刺す。二航艦は避退を図る戦艦の始末をつける。そして、太平洋艦隊主力の撃滅は第一艦隊がこれを受け持つ。これが私の考えだが、何か思うところはあるか」


 そう言って、山本長官は航空参謀にその視線を向ける。

 航空戦の専門家としての意見を求めているのだ。


 「米艦艇の対空砲火は極めて熾烈です。おそらく、先の攻撃で二航艦の艦爆隊それに艦攻隊はかなりの損害を被っていることでしょう。ですので、避退を図る戦艦の始末についてはこれを一航艦に任せ、逆に二航艦については三航艦とともにオアフ島攻撃に充てるのが至当かと考えます」


 二航艦攻撃隊の損害については、まだ報告が上がってきていない。

 しかし、マーシャル沖海戦や珊瑚海海戦を鑑みれば、こと艦爆隊と艦攻隊については相当に酷い状況になっているはずだ。

 このことは、海軍士官であれば容易に想像がついた。


 「了解した。航空参謀の意見を容れよう。そこで改めて命令する。二航艦ならびに三航艦はオアフ島を攻撃、同島の残存戦力を掃滅せよ。一航艦は避退を図る戦艦の追撃にあたれ。そして我々第一艦隊は太平洋艦隊を撃滅する!」

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