第33話 第八艦隊突撃

 第一次攻撃隊の九九艦爆が投じた二五番によって、すべての巡洋艦が航行に支障をきたしていた。

 さらに、そのうちの半数が第二次攻撃隊の九九艦爆それに九七艦攻の連携攻撃によって沈められた。

 そのことで、それら乗組員の救助に相応の時間がかかった。

 こういった要因が重なったことで、逆に第八艦隊のほうは太平洋艦隊の生き残りを容易に捕捉することが出来た。

 さらに、逃さじとばかりに豪州へと避退を図る残存艦隊の南方へと回り込む。

 この時、第八艦隊は旗艦「鳥海」と第六戦隊、それに第二駆逐隊と第二四駆逐隊の三隊に分かれていた。


 残存艦隊の正面に「鳥海」と第六戦隊、右斜め前方に第二駆逐隊、左斜め前方に第二四駆逐隊が展開する。

 彼我の距離が二〇〇〇〇メートルになった時点で第八艦隊司令長官の三川中将は魚雷攻撃を命令した。

 機先を制することによって、数的不利を可能な限り補うのがその理由だった。


 「鳥海」と第六戦隊から二〇本、第二駆逐隊と第二四駆逐隊からそれぞれ三二本の合わせて八四本の魚雷が残存艦隊の未来位置に向けて発射される。

 同時に「鳥海」と第六戦隊の四隻の重巡が砲撃を開始する。

 距離二〇〇〇〇メートルは戦艦であればともかく、重巡であれば長距離と言っても差し支えない砲戦距離だ。

 しかも、狙った相手が的の小さな駆逐艦だから、まず当たらない。


 それでも、互いの距離が近づくにつれて狙いは正確になっていく。

 これに対し、残存艦隊は次々に変針を開始、相手に照準修正を強いる運動を開始する。

 それに、開戦からこれまでの間に日本海軍が長射程の魚雷を持っていることが分かっていたから、それへの対応も兼ねた機動だった。


 その残存艦隊に向けて八四本の酸素魚雷が三方向から殺到する。

 残存艦隊の三隻の巡洋艦それに一八隻の駆逐艦は回避運動を継続する。

 だが、予期していたとはいえ三方向からの挟撃だ。

 さすがにすべてを回避するとまではいかなかった。

 まず駆逐艦「ジャーヴィス」の舷側に巨大な水柱が立ち上る。

 その直後に同じく駆逐艦「ブルー」も被雷、こちらは搭載していた魚雷あるいは爆雷に火が入ったのか、大爆発を起こして瞬く間に海上からその姿を消した。

 結局、命中したのはこの二本だけで、その命中率は二パーセント強という惨憺たるものだった。

 しかし、この場では大きな意味を持つものだった。


 混乱する残存艦隊に対し、距離を詰めた第八艦隊が一気に畳み掛ける。

 「鳥海」と第六戦隊の四隻の重巡は二〇センチ砲を振りかざし、米駆逐艦を叩きのめしにかかる。

 米駆逐艦も反撃するが、しかし二〇センチ砲と一二・七センチ砲では射程それに威力ともにあまりにも差が有りすぎた。


 その頃には八隻の「白露」型駆逐艦もまた、次発装填装置を使っての急速発射に成功している。

 放たれた六四本の第二波魚雷は、第一波よりも距離が縮まっていたこともあって四本が命中。

 命中率は六パーセント強と相変わらずの低率だったが、しかし一連の魚雷攻撃によって戦闘可能な米駆逐艦は一八隻から一二隻へとその数を減じた。


 さらに、五隻の米駆逐艦が「鳥海」それに第六戦隊の重巡から放たれた二〇センチ砲弾を食らったことで落伍する。

 装甲が無きに等しい駆逐艦が、しかも一二〇キロにも達する重量砲弾を浴びてしまっては、それこそたまったものではなかった。


 七隻にまで減った米駆逐艦に対し、八隻の「白露」型駆逐艦が突撃を敢行する。

 整然とした隊形を維持する第二駆逐隊それに第二四駆逐艦に対し、散り散りとなってしまった米駆逐艦のほうは組織だった戦闘を行うことが出来ない。

 七対八という数字以上に、日米駆逐艦の戦力差は隔絶していた。

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