第32話 追加の打撃
九九艦爆が投じた二五番を艦中央部に食らった「シカゴ」はさらに速力を衰えさせた。
そこへ、嶋崎少佐が直率する九機の九七艦攻が肉薄する。
左舷から迫る九七艦攻に対し、被雷面積の最小化を図るべく「シカゴ」が取舵を切る。
しかし、相次ぐ機関へのダメージによってその動きは悲しいほどに緩慢だった。
さらに、少なくない対空火器がこちらも被弾によって使用不能に陥っていたから、展開できる弾幕も相応のものでしかない。
そのうえ、艦が回頭していては正確な照準も覚束ない。
逆に敵の窮状を突く形となった嶋崎少佐率いる九機の九七艦攻だが、こちらはただの一機も損なうことなく理想の射点へと遷移することがかなった。
「撃てっ!」
嶋崎少佐の気迫のこもった声、それと同時に九一式航空魚雷が切り離される。
部下たちもそれ続く。
魚雷を投下すれば、あとは用は無い。
「シカゴ」の艦首や艦尾を躱し、九七艦攻が離脱を図る。
しかし、さすがに敵艦の至近を通過すれば、被弾する機体もまた出てくる。
艦尾方向から避退を図った九七艦攻が、火箭をまともに浴びて爆散する。
しかし、他の八機は超低空飛行を維持したまま、敵対空砲火の有効射程圏からの離脱に成功した。
ただ、それら機体の胴体や翼には少なくない被弾痕が穿たれていた。
部下の機体とともに高度を上げつつあった嶋崎少佐だが、その彼の耳に後席の部下から喜色混じりの報告が飛び込んでくる。
「目標とした巡洋艦に水柱! さらに一本、二本」
動きの衰えた相手に対し、三割強の命中率というのは少しばかり不満が残る成績だった。
あるいは、命中したものの不発に終わった魚雷があったのかもしれない。
ただ、いずれにせよ致命の打撃は与えた。
複数の二五番を食らったうえに、しかも片舷に三本もの魚雷を同時に突き込まれてなお浮いていられるような条約型巡洋艦など存在しない。
その頃には他隊からの戦果報告も挙がってきている。
「『翔鶴』隊攻撃終了。『ブルックリン』級と思しき巡洋艦に爆弾二、魚雷三本命中。撃沈確実」
「『雲鶴』隊攻撃終了。『ノーザンプトン』級乃至『ニューオーリンズ』級重巡に爆弾一、魚雷四本命中。大傾斜、撃沈確実」
「翔鶴」隊それに「雲鶴」隊はともに『瑞鶴』隊を上回る命中弾をそれぞれ目標とした艦に叩き込んだ。
「翔鶴」隊が撃沈したのは米側で言うところの軽巡「ヘレナ」、「雲鶴」隊のそれは重巡「ノーザンプトン」だった。
第二次攻撃隊は手負いの敵巡洋艦三隻に引導を渡したのだった。
残る敵は巡洋艦が三隻に駆逐艦が一八隻となった。
巡洋艦のほうはそのいずれもが前部に二基それに後部に一基の三連装砲塔を備えている。
このことから重巡と見て間違いない。
駆逐艦の艦型は判然としないが、しかし機動部隊に随伴している以上は新型で固めているはずだ。
(勝てるのか、第八艦隊は)
嶋崎少佐の胸中に疑念がわき上がってくる。
第八艦隊は旗艦「鳥海」と第六戦隊、それに第二駆逐隊と第二四駆逐隊の八隻の駆逐艦による臨時編成の艦隊だ。
このうち、第六戦隊は「青葉」と「衣笠」それに「古鷹」と「加古」の四隻の重巡で編成されている。
ただ、重巡とは言ってもこれら四隻は砲戦巡洋艦ではなく、偵察巡洋艦として建造されたものだ。
主砲も二〇センチ砲が六門と少なく、防御力も他の一般的な一万トン級重巡に比べれば見劣りする。
また、第二駆逐隊と第二四駆逐隊の「白露」型駆逐艦も、最新鋭の「陽炎」型や「夕雲」型に比べれば格落ち感は否めない。
一方の太平洋艦隊は傷物にされた巡洋艦が三隻に駆逐艦が一八隻。
嶋崎少佐には、どちらが優勢なのかいまひとつ分からない。
ただ、互角に近い戦力を持った艦隊同士がまともにぶつかれば、双方ともに無事では済まない。
そのことだけは理解できた。
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