第31話 第二次攻撃
空母部隊指揮官のフレッチャー提督は人材の保全を優先した。
被雷によって航行不能に陥った空母「ヨークタウン」と「ホーネット」については、その乗組員を救助したうえで、味方駆逐艦による雷撃処分とした。
残る「ワスプ」については、すでに沈没が免れない状態にまでその傾斜と喫水を深めていたので、こちらは捨て置いている。
なにより、第二次空襲が確実視される中で、洋上の動かぬ標的と堕した空母の艦内に貴重な乗組員を閉じ込めておくわけにはいかない。
それに、日本海軍の水上打撃艦艇がこちらに向かってきていることも分かっている。
五隻の巡洋艦とそれに八隻の駆逐艦を擁する、それなりの戦力を持った相手だ。
もし彼らと一戦交えることになった場合、動けない空母を守りながらの戦闘は明らかにこちらの不利となる。
空母乗組員の移乗は速やかだった。
負傷者は医療設備の整った巡洋艦に移し、それ以外の者は駆逐艦に分散収容された。
それが終わってほどなく、恐れていた事が現実化する。
「レーダーに感! 一〇時の方向、距離九〇マイル。機数六〇乃至七〇、日本の艦上機と思われます!」
レーダーマンが叫び声のような報告を上げる。
これに対し、重巡「ヴィンセンス」に将旗を掲げたフレッチャー提督はすかさず対空戦闘を下令する。
本来であれば迎撃機を発進させたいところだ。
しかし、指揮下にあった空母はすでに全滅しているのでどうしようもない。
救いなのは第一波に比べてその数が少ないことだ。
自分たちもまたやられ放しではなく、敵に対して相応のダメージを与えていたのだ。
レーダーが捉えたのは第二航空艦隊が放った第二次攻撃隊だった。
一六機の九九艦爆それに二七機の九七艦攻を二四機の零戦が守っている。
その総指揮官は第一次攻撃隊と同様に「瑞鶴」艦攻隊長の嶋崎少佐だった。
その嶋崎少佐の目に太平洋艦隊の姿が映り込んでくる。
第一次攻撃の際は空母を中心とした輪形陣が三つあった。
しかし、現在ではそれが三列の単縦陣となっている。
そのいずれもが六隻の駆逐艦の後方に二隻の巡洋艦という並びになっていた。
それらが舳先を並べ、南へと避退している。
「目標を指示する。『翔鶴』隊は左翼、『雲鶴』隊は右翼の殿艦を狙え。中央は『瑞鶴』隊がこれを受け持つ。攻撃法については各隊指揮官の指示に従え」
わずかに間を置き、嶋崎少佐は命令を重ねる
「『瑞鶴』隊に達す。艦爆隊は目標の後方から、艦攻隊は左舷から攻撃せよ」
嶋崎少佐の命令一下、五機の九九艦爆が襲撃隊形を整えていく。
一方、九七艦攻のほうは海面に向かって高度を下げていく。
嶋崎少佐が殿艦を目標としたのは、他艦からの支援を受けにくい最後尾に位置しているからだ。
そして、雷撃の理想形とされる挟撃を採用しなかったのは九七艦攻の数が少なかったこと、それと第一次攻撃隊によって敵巡洋艦の脚が衰えていることがその主な理由だった。
「瑞鶴」隊に狙われたのは重巡「シカゴ」だった。
「シカゴ」は第一次攻撃の際に三発の二五番を被弾していた。
そして、そのうちの一発が機関部を直撃し、そのことで速度性能が大幅に低下していた。
坂本大尉率いる五機の九九艦爆が降下に移行する。
敵の対空砲火を分散させるためだろう、全機による一斉投弾だ。
それでも、一機が降下中に火箭に捉えられ爆散する。
他の機体は二五番を切り離し、そのまま超低空飛行で対空火網からの離脱を図る。
その直後、「シカゴ」の両舷に三本の水柱が沸き立つ。
同時に艦中央部から爆煙が上がった。
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