第30話 攻撃継続

 「まず艦艇の戦果ですが、こちらは三隻の空母に対してそれぞれ三乃至四本の魚雷を命中させました。これら空母については全艦が洋上停止、そのうちの一隻はそう長くは保ちそうにないとのことです。

 艦種につきましては、そのいずれもが艦橋と煙突が一体化していたことから『ヨークタウン』と『ホーネット』それに『ワスプ』とみて間違いないと思います。

 また、これ以外にも六隻の巡洋艦に複数の二五番を命中させました。これら六隻については、そのいずれにも速力の低下が認められています」


 戦果を読み上げる樋端航空参謀が、少し間を置き報告を続ける。


 「次に航空機のほうですが、まず攻撃隊に随伴していた護衛の零戦隊は七〇機乃至八〇機程度と思われるF4Fと交戦。これらのうちの半数以上を撃墜しました。また敵攻撃隊の迎撃にあたった直掩隊ですが、こちらは一五〇機以上の敵艦上機のうちのそのほとんどを撃墜。このことで友軍艦艇に被害は一切出ておりません」


 第二航空艦隊の六隻の空母から発進した一六二機の攻撃隊は米機動部隊に猛攻を加え、三隻の空母それに六隻の巡洋艦に対してそれぞれ魚雷と爆弾を命中させた。

 このうち、空母はすべて大破と言って差し支えないほどの甚大なダメージを与えている。

 また、直掩隊の零戦も奮闘し、こちらは米攻撃隊を完封、二航艦の艦艇で傷を負った艦は皆無だった。


 「次に損害ですが、攻撃隊については零戦が一五機に九九艦爆が一七機、それに九七艦攻一一機が未帰還となっています。また直掩隊ですが、こちらは一〇機が同じく未帰還となっています」


 大戦果を挙げた攻撃隊だが、しかし損害もまた大きかった。

 零戦は二割、九九艦爆と九七艦攻に至っては三割を超える機体が未帰還となった。

 また、米攻撃隊に対して優勢に戦いを進めたはずの直掩隊の零戦もまた、一割近い損害を出してしまった。

 それと、索敵に出した三〇機の九七艦攻だが、こちらはすべて生還しており、二機が被弾損傷しただけで済んでいる。


 「今すぐに使える艦爆それに艦攻はどれだけある」


 「攻撃から戻ってきた機体の中で、即時使用が可能なのは九九艦爆が一六機、それに九七艦攻が一二機です。また、索敵から戻ってきた九七艦攻のうちで、五航戦所属の機体に関しては一五機が使えます」


 小沢長官の問いかけを予想していたのだろう、樋端航空参謀が打てば響くかのごとく即答する。

 小沢長官は樋端航空参謀が挙げた数字を脳内で吟味する。

 米機動部隊の現有戦力は空母が三隻に巡洋艦が六隻、それに駆逐艦が一八隻だ。

 このうち、空母のほうは瀕死の状態であり、巡洋艦もまたかなりの深手を負っている。


 一方、こちらはすでに第八艦隊を刺客として米機動部隊に差し向けている。

 第八艦隊は重巡が五隻に駆逐艦が八隻。

 一方、相手は手負いの巡洋艦が六隻とそれに無傷の駆逐艦が一八隻。

 どちらが優勢かは判然としない。

 ただ、まともにぶつかれば第八艦隊の側もかなりの損害を覚悟しなければならない。


 「艦爆それに艦攻のうちで、使用可能な機体はすべて出撃させる。目標は巡洋艦乃至は駆逐艦だ。空母については第八艦隊にこれを始末させる」


 命令を出しつつ、小沢長官は第四航空戦隊を二航艦に編入する決断をしてくれた上層部に対して、胸中で感謝を捧げる。

 もし、四航戦の三隻の小型空母が無ければ、護衛の戦闘機不足から九九艦爆や九七艦攻はその半数以上を失うことになっていたはずだ。

 また、防空戦闘も零戦の数が少ないことによって破綻、少なくない艦艇が撃破されたことだろう。


 (やはり飛行機は数だな。なかでも戦闘機の充実は最優先だ)


 今後の空の戦いの有り様という思索を、しかし小沢長官はただちに脳内から叩き出す。

 これからのことよりも、今は目の前の現実に対処するほうが優先された。

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