第29話 空中の蹂躙劇
マーシャル沖海戦時、米空母の艦上機隊は空中集合それに編隊を維持しての進撃を大の苦手としていた。
艦隊単位はもちろん、母艦単位のそれもままならず、飛行隊単位か場合によっては中隊単位での進撃がせいぜいだった。
しかし、これは相手から見れば戦力分散あるいは戦力の逐次投入以外の何物でもない。
逆に日本の艦上機隊のほうは、一〇〇機を大きく超えてもなお整然とした編隊を維持し、そして当時の太平洋艦隊に対して大打撃を与えた。
彼我の技量の差は歴然だった。
その苦い戦訓を受け、空母「ヨークタウン」と「ホーネット」それに「ワスプ」の飛行隊は大編隊による進撃が可能になるよう、猛訓練に明け暮れた。
その甲斐あって、現在では母艦単位での進撃を可能とするまでにその技量を向上させていた。
ただ、一方で艦隊単位が可能になるまでには至っていない。
この戦いにおいて、「ヨークタウン」と「ホーネット」にはそれぞれF4Fワイルドキャット戦闘機が三六機にSBDドーントレスが同じく三六機、さらにTBDデバステーターが一二機搭載されていた。
これら二艦に比べて艦型が小さい「ワスプ」のほうはF4FとSBDがそれぞれ三六機となっている。
三隻の米空母、その中で最も速く出撃を完了したのは「ヨークタウン」隊だった。
これは、同艦が索敵爆撃隊を日本艦隊の捜索に投入しており、その分だけ出撃機数が少なかったからだ。
艦上機の数が少なければ、その分だけ発艦や空中集合にかける時間も短くなる。
その先行する「ヨークタウン」隊の構成はF4Fが一二機にSBDが一八機、それにTBDが一二機の合わせて四二機だった。
この「ヨークタウン」隊に対し、攻撃を仕掛けたのは上空警戒にあたっていた「翔鶴」と「瑞鶴」それに「雲鶴」の合わせて三個中隊、三六機の零戦だった。
「翔鶴」隊がF4Fを抑え込みにかかる。
その間に「瑞鶴」隊がSBDを、「雲鶴」隊がTBDを潰しにかかった。
悲惨なのはTBDだった。
旧式で速度性能や運動性能が低く、そのうえ重量物の魚雷を腹に抱えている同機体が、しかも同数の零戦に襲われてはひとたまりもない。
実際、これら一二機のTBDは一〇分と経たずにその全機が撃墜されてしまった。
一方、SBDのほうはTBDに比べて強武装で運動性能も優れていた。
しかし、しょせんは急降下爆撃機であり、戦闘機とまともに戦える機体ではなかった。
零戦よりも五割多い数を頼みに、密集隊形をとったSBDは防御機銃で必死の反撃を試みる。
だが、零戦のほうはその身軽さを十全に生かし、防御機銃の火箭を軽く躱しつつ肉薄、二〇ミリ弾や七・七ミリ弾をしたたかに撃ち込んでいった。
「ヨークタウン」隊に続いていた「ワスプ」隊もその末路は悲惨なのものだった。
こちらには「龍驤」と「瑞鳳」それに「祥鳳」の三個中隊、合わせて三六機の零戦が襲いかかった。
「龍驤」隊が護衛のF4Fを引き剥がしにかかる。
F4FのほうはSBDを必死に守ろうとはするものの、しかし同じ数の零戦が相手ではそれもままならない。
むしろ、F4Fのほうは自らが撃墜されないようにするのが精いっぱいだった。
邪魔な用心棒がいなくなった隙に「瑞鳳」隊と「祥鳳」隊がSBDに食らいつく。
二手に分かれた二四機の零戦は、左右からカモ番機と呼ばれる編隊最後尾の機体から啄んでいく。
三六機あった「ワスプ」隊のSBDは、それこそ櫛の歯が欠けるようにしてその数を減じていった。
最後の「ホーネット」隊には緊急発進した「翔鶴」と「瑞鶴」それに「雲鶴」の三個中隊がその迎撃にあたった。
まず、「雲鶴」隊が護衛のF4Fに戦いを挑み、これを爆撃隊や雷撃隊から遠ざける。
その間に「翔鶴」隊と「瑞鶴」隊がSBDの駆逐にかかる。
見逃された形になった「ホーネット」雷撃隊はそのまま進撃を続ける。
だが、彼らが日本の艦隊を視認することは無かった。
先に「ヨークタウン」隊それに「ワスプ」隊を始末した多数の零戦が追いすがってきたからだ。
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