第34話 第八艦隊猛攻
米駆逐艦の始末は第二駆逐隊と第二四駆逐隊に任せ、重巡「鳥海」それに第六戦隊の四隻の重巡は最後に残った三隻の米巡洋艦にその矛先を向けた。
「『青葉』と『衣笠』は右翼、『古鷹』ならびに『加古』は左翼、中央の敵は『鳥海』がこれを受け持つ」
三川長官の命令に、第八艦隊の五隻の重巡はそれぞれの目標に向けてその照準を合わせる。
先に砲門を開いた米側のほうだった。
三隻の米巡洋艦はそのいずれもが機関を損傷していたため、友軍駆逐艦と連携をとることが出来なかった。
その窮状を突かれ、まんまと戦力を分断されてしまった。
このことで、米駆逐戦隊は第八艦隊の重巡それに駆逐艦によって袋叩きにされてしまった。
これまでの鬱憤を晴らすかのように、三隻の米巡洋艦はその砲口から火弾を吐き出す。
これを見た第八艦隊の五隻の重巡もまた、同様に砲撃を開始する。
第八艦隊旗艦の「鳥海」は中央の巡洋艦、米軍で言うところの重巡「ヴィンセンス」との一騎打ちに臨んだ。
将旗を掲げた艦同士の、言わば大将同士の戦いだ。
「ヴィンセンス」に対し、「鳥海」は常にその頭を抑え、T字を描くようにして砲撃戦に臨んだ。
「鳥海」と「ヴィンセンス」の間には、その機動を可能とさせるだけの速度差があった。
被爆によって脚の上がらない「ヴィンセンス」は、この状況を打破することが出来ない。
前部砲塔の六門しか使えない「ヴィンセンス」に対し、「鳥海」は五基ある連装砲塔のそのすべてを同艦に対して指向する。
夾叉を得たのはほとんど同時だった。
射撃管制システムは「ヴィンセンス」のほうに分があったが、しかし日本側が制空権を握っていたことで「鳥海」のほうは観測機が使えた。
あとは、単純な門数の差がその明暗を分けた。
「ヴィンセンス」は「鳥海」に対して中破と判定されるほどの打撃を与えたものの、しかしそれが限界だった。
だが、もし仮に「ヴィンセンス」が万全の状態で「鳥海」との一騎打ちに臨むことが出来たのであれば、あるいは勝敗は逆転していたかもしれなかった。
「青葉」と「衣笠」はダブルチームで格上の「クインシー」に戦いを挑んでいた。
「青葉」と「衣笠」が二〇センチ砲を六門装備しているのに対し、一方の「クインシー」のほうは五割増しの九門となっている。
また、防御力も「クインシー」のほうが明らかに優れており、「青葉」型重巡が一対一の勝負を挑めば、まず勝ち目は無いと言ってよかった。
しかし、これが二対一であれば話は違ってくる。
砲撃戦が始まった早い段階で「青葉」それに「衣笠」は艦上の危険物の排除とばかりにそれぞれ四本の魚雷を発射した。
水上艦艇が搭載する九三式酸素魚雷は九一式航空魚雷の実に三倍近い重量を持つ。
当然のこととして破壊力は極大だ。
だが、それゆえに艦上で誘爆でもすればそれこそ目も当てられない。
いつ被弾するか分からない状況となった以上、危険の芽は早めに摘んでおくべきだった。
それと、発射したのはわずかに八本だから、それら魚雷が命中すると考えている者はいなかった。
これまで、一四八本もの魚雷を発射したのにもかかわらず、しかし命中したのがわずかに六本なのだから、期待するほうがどうかしている。
砲撃戦は際どいものだった。
「クインシー」が格の違いを見せつけるかのように「青葉」を痛撃する。
「青葉」も果敢に反撃するが、しかし体格差を覆すには至らない。
一方、「青葉」と「クインシー」の削り合いの最中において、「衣笠」のほうはまったく攻撃を受けずに済んでいたことから、余裕をもって「クインシー」を滅多打ちにしていった。
「青葉」をあと一歩のところまで追い詰めた「クインシー」だったが、しかし先に限界を迎えたのは彼女のほうだった。
その頃には「古鷹」と「加古」それに「アストリア」の戦いも終わっている。
こちらもまた、「青葉」と「衣笠」それに「クインシー」と似たような結末となった。
つまりは、「古鷹」が被害担当艦となっている間に「加古」が「アストリア」に対して散々に二〇センチ砲弾を叩き込んだのだ。
「アストリア」もまた、「クインシー」の後を追うようにして力尽きていった。
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