第三段作戦
第35話 次なる選択
日米の艦隊が激突した珊瑚海海戦。
この戦いの中で太平洋艦隊は壊滅的とも言える大敗を喫し、多くの艦が撃沈されてしまった。
同艦隊の中で無事に豪州の港に逃げ込むことが出来たのは第二駆逐隊それに第二四駆逐隊の追撃を振り切ることに成功した三隻の駆逐艦のみだった。
一方、太平洋艦隊という最大の邪魔者を排除した第二航空艦隊ならびに第八艦隊はポートモレスビーへと進攻、ラバウルの基地航空隊の支援を受けつつ、同地の攻略に成功した。
この一連の戦いで太平洋それにインド洋の連合国海軍戦力は完全に一掃された。
東洋艦隊はインド洋において日本の第一艦隊それに第一航空艦隊との決戦に敗れ全滅した。
三隻の空母と五隻の戦艦、それに七隻の巡洋艦と一三隻の駆逐艦のそのすべてが撃沈されてしまったのだ。
太平洋艦隊も状況は似たようなものだった。
こちらは二航艦ならびに第八艦隊との洋上航空戦それに水上砲雷撃戦に敗れ、三隻の空母と六隻の巡洋艦、それに一五隻の駆逐艦を失った。
立て続けの敗北に、連合国陣営はそれこそパニックに近い様相を呈していた。
米国は開戦劈頭に当時の太平洋艦隊主力を撃滅され、そのことでフィリピンを失陥する羽目になった。
そのうえ、ようやくのことで立て直した新生太平洋艦隊を此度の戦いで海の藻屑にされてしまった。
相次ぐ失態に、ルーズベルト大統領の支持率は急降下。
身内の民主党議員からも批判が出る始末だった。
英国もまた苦境の渦中にある。
自信をもって送り込んだ最新鋭戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」をあっさりと沈められ、東洋最大の拠点であるシンガポールを失った。
さらに東洋艦隊が全滅したことで、インド洋の制海権まで喪失している。
このことで、チャーチル首相は政治生命の危機に瀕している。
米国や英国以上に動揺が大きかったのが豪州だった。
東西の守護神とも言うべき太平洋艦隊と東洋艦隊は連合艦隊の前に完全敗北し、その戦力を喪失した。
さらに、ポートモレスビーの失陥によって、日本軍に匕首を突きつけられる格好になった。
今、日本軍がその総力をもって豪州に攻め入ってくれば、同国にそれを阻止する力は無い。
もちろん、日本に豪州全土を占領する能力は無い。
だが、シドニーやメルボルン、それにブリスベンといった主要都市を破壊するだけの力は十分に備えている。
もし、これら三大都市が致命的打撃を被れば、その時点で豪州は継戦能力を失ってしまう。
苦境にあえぐ連合国だが、一方の当事者である日本もまた問題を抱えていた。
帝国海軍の戦略方針が一本化されていないのだ。
南方資源地帯を攻略する第一段作戦、それに西太平洋ならびにインド洋の連合国軍戦力を排除する第二段作戦は成功裡に終わった。
当然、次は第三段作戦となるのだが、この方針が各セクションによってバラバラだったのだ。
ドイツそれにイタリアとの協調を重視する海軍省は、インド洋への圧力を強め、状況次第ではスエズ打通を同盟国に依頼しつつ、日欧交通線の開通を図るべきだと考えていた。
逆に、軍令部のほうは日本の勢力圏の柔らかい下腹に、それこそ切っ先を突きつけるようにして位置する豪州を叩くべきだと主張していた。
軍令部は南方からの連合国軍航空戦力の突き上げを恐れていたからだ。
そのためであれば、豪州東海岸の中央部から南部にかけて存在するシドニーやメルボルン、それにブリスベンを破壊するための遠征も辞さない覚悟だった。
一方、連合艦隊司令部のほうはハワイ攻撃に固執していた。
これは、短期決戦早期和平をその信念とする山本連合艦隊司令長官の意を受けてのものだ。
足並みの揃わない帝国海軍ではあったが、しかし戦力に限りがある以上、戦略の一本化は必要だ。
そして、それは決定される。
採用の可否を決めたのは、帝国海軍がなによりも重視するようになった情報だった。
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