第42話 制空権奪取
一〇〇機あまりの編隊が二つ。
そのいずれもが整然とした隊形を維持している。
どちらかが戦闘機群で、残る一方が爆撃機群だろう。
そう当たりをつけたランディ・ウィリアムス少佐は右翼の編隊がわずかに先行していることを認める。
「全機に達す。右を行く編隊を攻撃せよ。左の編隊は即応待機組にこれを任せる」
そう言い置いて、ウィリアムス少佐は機首を右に向けて加速を開始、速度が乗ったところで上昇に転じる。
七一人の部下たちもまた遅れじとウィリアムス少佐の機動に追随する。
口火を切ったのは、低伸するブローニング機銃を装備したP40の側だった。
両翼から合わせて六条の火箭を吐き出す。
一方、これに絡め取られる零戦は皆無だった。
米戦闘機が優れた機銃を装備していることは、とっくの昔に承知している。
日米の戦闘機が交錯、互いに相手のバックを取ろうとした時に異変が起こった。
自分たちをスルーしてオアフ島に向かうと思われていた左翼の編隊が自分たちに向かってきたのだ。
ゴマ粒だった機影が飛行機の形を成した時、ウィリアムス少佐は全身から汗が吹き出すのを自覚する。
そして、自身が致命的な誤認をやらかしてしまったことも。
「日本の編隊はそのすべてを・・・・・・」
日本側編隊の正体、そしてその意図に気づいたウィリアムス少佐は友軍に危機を伝えるべく無線通信を試みる。
だが、それが成就することは無かった。
ウィリアムス少佐が伝えきる前に、左側編隊の先頭を行く零戦が放った二〇ミリ弾それに一三ミリ弾が彼とその乗機を刺し貫いたからだ。
ウィリアムス少佐を含めた上空警戒組の末路は悲惨だった。
ただでさえ自分たちより五割も多い零戦との戦いの最中に、そのうえ側面から同規模の零戦による奇襲を受けたのだ。
七二機あった上空警戒組のP40はあっという間にその数を減じ、生き残ったのは咄嗟の急降下で難を逃れた一〇機ほどの機体のみだった。
一方、上空警戒組を一方的に蹂躙した零戦の搭乗員らは、自分たちに向かってくる七〇機あまりの戦闘機を南東の空に認めた。
こちらは緊急発進した即応待機組のP40だった。
零戦は好餌ござんなれとばかりにP40に向かっていく。
二〇〇機を大きく超える零戦に襲われては、わずかに七二機にしか過ぎない即応待機組のP40もたまったものではなかった。
零戦は上空警戒組に続き、さらに即応待機組のP40もまたあっさりと撃滅する。
数もそうだが、機体性能それに搭乗員の技量もまた零戦のほうが優っていたからだ。
数で、性能で、そして技量で劣っていては、P40に勝機など見出せようはずもなかった。
立ち向かってきたP40を相次いで撃破した零戦は、オアフ島に向けてさらに飛行を続ける。
その途中にも零戦はP40やあるいは太平洋戦線において初見参の双胴戦闘機とも矛を交えた。
しかし、相手が少数だったこともあり、逆に数の暴力によってあっさりとこれら機体を殲滅した。
オアフ島上空に到達した零戦はここで四つのグループに分かれ、それぞれが指示された飛行場に向けて降下していった。
戦闘機の発進を優先させたからだろう、滑走路や駐機場には多数の爆撃機がわだかまっていた。
その爆撃機の群れ目掛けて零戦が銃撃を開始する。
動かない爆撃機に二〇ミリ弾や一三ミリ弾が面白いように吸い込まれていく。
一方、爆撃機にとって不幸だったのは、決戦に備えて機内に爆弾や銃弾、それに燃料を満載していたことだった。
これによって、爆発炎上するものが続出、さらに周囲の機体を炎の海に呑み込んでいく。
オアフ島の飛行場群は短時間のうちに煉獄と化した。
そして、それは日本側が制空権を奪取したことを意味した。
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