第52話 猛攻 第二戦隊
敵戦艦との間合いを詰めたことで照準が正確になった。
その中において、合計四八門にも及ぶ第二戦隊の砲撃には凄まじいものがあった。
「伊勢」それに「日向」からの猛射を浴びたのは三番艦に位置する「マサチューセッツ」だった。
「サウスダコタ」級戦艦の三番艦であり、四〇センチ砲を九門装備する同艦は、防御力もまた同じように四〇センチ砲対応を謳っている。
しかし、それはあくまでも分厚い装甲に囲まれたバイタルパートの話だ。
だから、装甲が施されていないかあるいは薄っぺらな艦の前部や後部、それに主砲塔を除く艦上構造物に関しては、それほど大きな抗堪性は備わっていない。
確かに「マサチューセッツ」の装甲は「伊勢」や「日向」から放たれる三六センチ砲弾に対し、そのバイタルパートへの侵入を完全に阻止していた。
だから、機関や主砲に限って言えば、十全にその機能を維持している。
しかしそれ以外の部分の損害は甚大だった。
艦の前部それに後部はそこかしこに大穴を穿たれ、そこから猛煙が噴き出していた。
艦上構造物の被害も甚大で、高角砲や機関砲それに機銃はその多くが叩き潰されている。
二基あったカタパルトのうちの一基は跡形もなく吹き飛び、残る一基もまた使用不能に陥っている。
もちろん、「マサチューセッツ」もまた反撃の砲門を開いてはいる。
しかし、「伊勢」を捉えるには至っていない。
「マサチューセッツ」にとって不運だったのは、滅多にその効果を発揮しない水中弾の被害を受けたことだった。
第二戦隊の戦艦が放つ九一式徹甲弾だが、その水中弾効果を発揮するためには適切な落角が必要だった。
つまりは、遠すぎてもダメだし、同じく近すぎてもダメだった。
砲戦が開始された時は二五〇〇〇メートルという遠距離だったが、しかし今は二〇〇〇〇メートルを切り、さらに距離は詰まってきている。
そのことで、九一式徹甲弾が最も水中弾効果を発揮しやすいレンジに入ったのだ。
「伊勢」と「日向」の二四門にも及ぶ主砲から放たれる三六センチ砲弾は「マサチューセッツ」の周囲にひっきりなしに着弾する。
そのほとんどは外れ弾だ。
しかし、同艦の手前に着弾した砲弾の中には水中を突進して同艦の横腹を食い破ったものがごくわずかだが存在した。
水線下に破孔を穿たれれば、当然のこととして海水が艦内に流入してくる。
そのことによって「マサチューセッツ」は水平を損ない、著しく射撃精度が低下した。
「伊勢」や「日向」が放つ三六センチ砲弾とは段違いの威力を持つ四〇センチ超重量弾も、しかし当たらなければどうということはない。
「マサチューセッツ」の窮状にいち早く気づいた「伊勢」と「日向」はさらに間合いを詰める。
時間の経過ごとにその射撃精度は向上する。
一方、「マサチューセッツ」のほうは加速する被害の拡大に、自慢のダメコンチームをもってしても対応できない。
そして、その事実は艦にとっては死刑宣告にも等しかった。
ほどなく、「マサチューセッツ」はその限界を迎えた。
「伊勢」と「日向」が「マサチューセッツ」を戦闘不能に追い込んでいた頃には、その後方で干戈を交えていた「山城」と「扶桑」それに「ワシントン」の戦いも大勢が決していた。
「ワシントン」は「ノースカロライナ」級戦艦の二番艦で、その攻撃力は「サウスダコタ」級戦艦と同等のものを持っている。
しかし、防御力のほうは「サウスダコタ」級にわずかに及ばなかった。
それゆえに、限界を迎えるのもまた「マサチューセッツ」よりも早かったのだ。
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