第53話 猛撃 第一戦隊

 二隻の米新型戦艦から放たれる四〇センチ砲弾をしたたかに食らっていた。

 それでも「大和」はさほどこたえた様子も見せず、敵一番艦に向けて四六センチ砲弾を叩き込んでいる。


 予想外だったのは、敵一番艦の強靭さだった。

 「大和」が放つ四六センチ砲弾は旧式戦艦であれば一〇発、防御力に優れた新型戦艦でも一五発程度を叩き込めば廃艦に追い込めるものと見積もられていた。

 これまでの戦いで、敵一番艦に対してはすでに一〇発以上の四六センチ砲弾を命中させている。

 それなのにもかかわらず、敵一番艦は速力を衰えさせることもなく、またすべての主砲もその機能を失ってはいない。


 (「大和」にとっては不運、逆に敵一番艦から言えば当りどころが良かったということだろう)


 戦争は往々にして運に左右される。

 強いものが勝つとは限らないし、腕が立つ熟練が死んで未熟な新兵が生き残るといった話はそこら中に転がっている。

 そして、今のところ運命の女神は「大和」よりも敵一番艦こそを贔屓している。


 山本長官が胸中で「大和」の不運をボヤく中でも、戦闘は推移している。

 先手を取ったのは米側だった。

 敵四番艦が真っ先に「陸奥」に対して夾叉を得たのだ。

 一方、「陸奥」はいち早く回避運動に移行したことで被弾を最小限に抑え、致命の一撃を免れている。

 また、「陸奥」に遅れて敵三番艦に夾叉された「長門」もまた、同様に回避運動の措置を取った。


 戦局が大きく動いたのは「伊勢」と「日向」それに「山城」と「扶桑」から成る第二戦隊が突撃してからだった。

 敵戦艦との間合いを一気に詰めた第二戦隊の四隻の戦艦は猛攻を仕掛けた。

 そして、四八門にも及ぶ三六センチ砲のつるべ打ちによって、それこそ瞬く間に敵三番艦それに敵四番艦を戦闘不能に追い込んだのだ。


 そのことで、敵三番艦それに敵四番艦からの狙いを外すために回避運動を強いられていた「長門」と「陸奥」は一転、直線航行に戻り敵二番艦に目標を定めて砲撃を再開している。

 そして現在、「長門」と「陸奥」はこれまでの恨みを晴らしてやるとばかりに四一センチ砲弾を敵二番艦に対して叩き込んでいた。


 三対二となった戦いで、真っ先に崩れたのは敵一番艦、米側で言うところの「サウスダコタ」だった。

 「サウスダコタ」は「大和」の四六センチ砲弾をすでに一〇発以上被弾していた。

 しかし、そのことごとくが致命部を避けており、攻撃力も機動力もいまだ健在だった。

 しかし、戦場ではいつまでも幸運が続くという保証は無い。

 むしろ、そのようなことはレアケースだ。


 「大和」が放った第一三斉射のうちの一発が「サウスダコタ」の第一砲塔脇に命中する。

 あっさりと装甲を食い破った四六センチ砲弾は弾火薬庫でその爆発威力を解放した。

 熱と炎それに衝撃が弾火薬庫内部を席巻し、そこにあった装薬や砲弾が誘爆を開始する。

 いかに防御堅牢な新型戦艦といえども、内部からの爆圧に耐えられるものなど有りはしない。

 「サウスダコタ」は第一砲塔を境に真っ二つに折れ、第一任務部隊指揮官のリー提督もろともオアフ島沖の海底へとその身を沈めていった。


 わずかに遅れて「長門」と「陸奥」もまた敵二番艦、米側で言うところの「インディアナ」を戦闘不能に追い込んでいる。

 第二戦隊が自分たちを狙う敵三番艦それに敵四番艦をいち早く無力化してくれたおかげで、「長門」と「陸奥」は余裕を持って敵二番艦との戦いに臨むことが出来た。

 将兵の心の余裕が奏功したのか、「長門」も「陸奥」も早い段階で夾叉それに命中弾を得た。

 その後は四一センチ砲による猛射によって敵二番艦を散々に打ちのめしたのだった。

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