第48話 最後の砦
第一任務部隊を指揮するリー提督のもとに悲報が舞い込んできた。
本土へ避退中の戦艦「ノースカロライナ」と重巡「インディアナポリス」、それに四隻の駆逐艦が日本の艦上機の追撃を受けたのだ。
すでに深手を負っていた「ノースカロライナ」はあっさりと撃沈され、「インディアナポリス」もまたその後を追った。
四隻の駆逐艦も無事では済まず、このうちの三隻がすでに失われたことがこれまでの通信傍受によって確認されている。
そして、最後に残った一隻の駆逐艦のほうも、悲痛とも言える救援要請を最後に連絡を絶ってしまった。
こちらもまた、その生存は絶望視されている。
オアフ島の状況もまた似たようなものだった。
空中戦で戦闘機の大半を撃墜され、爆撃機もそのほとんどが地上撃破されてしまった。
制空権を日本側に握られた後は、そこれそやられる一方だった。
計算外だったのは、ジークの爆装能力だった。
これまで戦ってきたジークは、せいぜい一〇〇ポンド程度の小型爆弾しか運用していなかった。
しかし、今回の戦いに参加したジークは違っていた。
おそらくは五〇〇ポンドクラスと思われる爆弾を装備して、オアフ島の飛行場に押し寄せてきたのだ。
このことで滑走路は穴だらけにされてしまった。
また、付帯施設についても、こちらはケイトが猛爆を加えたことでそのほとんどが機能を喪失している。
さらに、オアフ島に配備されていた要塞砲もヴァルの精密爆撃によってその多くが使用不能に陥っている。
海上の敵に対しては無敵を誇っていたハワイ要塞も、頭上からの攻撃には存外脆かったのだ。
もはや、この戦域に残された戦力で稼働しているのは第一任務部隊だけと言ってもよかった。
「航空機接近、おそらくは観測機と思われます」
レーダーマンの報告に小さく首肯しつつ、リー提督は第一艦隊との戦いに思いを馳せる。
第一艦隊は進撃速度を緩め、夜間戦闘を避けた。
日が十分に昇ってから接触してきたのは、制空権を確保したことで観測機が使い放題という利点を十全に活かすためだろう。
あるいは、電子戦装備の不利を自覚しており、そのことで夜戦を避けたのかもしれない。
ほどなく、観測機を飛ばしたであろう本隊が、第一任務部隊の前にその姿を現す。
他の戦艦とは一線を画す、巨大な戦艦がその列の先頭に立っている。
まごうことなき、日本の第一艦隊だ。
「先頭『ヤマト』クラス! 二、三番艦『ナガト』クラス。四、五番艦『イセ』クラス。六、七番艦『フソウ』クラス」
艦橋見張りからの報告に、リー提督はすさかず攻撃目標を指示する。
「『サウスダコタ』ならびに『インディアナ』目標敵一番艦、『マサチューセッツ』二番艦、『ワシントン』三番艦。各艦ともに撃沈は狙うな。敵の戦闘力を奪った時点で速やかに四番艦以降にその目標を変更せよ」
戦艦に関してはこちらが四隻に対して第一艦隊の側は七隻。
残念ながら、数においては圧倒されている。
しかし、怖いのは「ヤマト」と「ナガト」それに「ムツ」の三隻のみだ。
だから、これら三隻を真っ先に無力化する。
それが成されれば、後は三六センチ砲を装備する旧式戦艦のみだから、そうなればこちらが圧倒的に有利だ。
「巡洋艦ならびに駆逐艦は敵の補助艦艇の拘束を図れ。こちらもまた撃沈する必要は無い。敵を我が方の戦艦に近づけさせなければ、それで十分だ。なお、敵が持つ長射程の魚雷に対しては最大限の警戒を成せ」
マーシャル沖海戦それに珊瑚海海戦で当時の太平洋艦隊は日本の軽快艦艇が放つ魚雷によって散々な目に遭わされた。
日本の魚雷は航跡が見えにくいがゆえに回避が難しい。
それでも、さすがに三度も同じ轍を踏むわけにはいかない。
さらにリー提督は、砲戦距離をはじめとした指示を次々に出していく。
オアフ島をめぐる最後の戦いは、目前にまで迫っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます