第5話 救援艦隊
山本連合艦隊司令長官がその強い決意をもって推し進めていた真珠湾奇襲攻撃だが、しかしそれは幻に終わった。
このことで、連合艦隊はかねてからの計画通り、太平洋艦隊についてはこれを正面から迎え撃つこととされた。
これに合わせ、連合艦隊はその編成を大きく変えていた。
戦艦や空母は攻撃力の大きなもの、巡洋艦や駆逐艦は型式の新しいものを太平洋正面に回し、逆に南方作戦には戦力の小さな高速戦艦や小型空母、それに比較的旧式の巡洋艦や駆逐艦を配していた。
そのことで、戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」ならびに巡洋戦艦「レパルス」が出撃したとの報を受けた時には海軍全体が緊張に包まれたが、しかしこちらは基地航空隊の陸上攻撃機が始末をつけたことで事なきを得ている。
一方、ハワイ周辺海域で哨戒の任にあたっていた伊号潜水艦から太平洋艦隊出撃の報を受けると同時に、内地で待機していた第一艦隊それに第一航空艦隊と第二航空艦隊は抜錨、その舳先を南東へと向け進撃を開始した。
第一艦隊
戦艦「大和」「長門」「陸奥」「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」
重巡「熊野」「鈴谷」「最上」「三隈」
軽巡「那珂」「北上」「大井」
駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」「萩風」「舞風」「野分」「嵐」
第一航空艦隊
「赤城」(零戦二四、九九艦爆一八、九七艦攻二一)
「加賀」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻二一)
「蒼龍」(零戦二四、九九艦爆一八、九七艦攻一五)
「飛龍」(零戦二四、九九艦爆一八、九七艦攻一五)
重巡「利根」
軽巡「神通」
駆逐艦「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」「陽炎」「不知火」「霞」「霰」
第二航空艦隊
「翔鶴」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
「瑞鶴」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
「雲鶴」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
重巡「筑摩」
軽巡「川内」
駆逐艦「朝雲」「山雲」「夏雲」「峯雲」「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」
第一艦隊は高須中将、一航艦は南雲中将、そして二航艦は小沢中将が率い、全体指揮は高須中将がこれを執る。
陣形は第一艦隊が前衛を務め、その三〇浬後方に二航艦、さらにその一〇浬後方に一航艦の並びとなっている。
「第六根拠地隊からの報告によれば、マーシャル諸島に展開していた第二四航空戦隊の航空機はそのほとんどが失われたそうです。それと、米軍についてはいまだ上陸の動きは見られないとのことです」
その表情にわずかばかり焦燥の色を浮かべながら緊急電を読み上げる通信参謀。
その彼に、高須長官が小さく首肯する。
太平洋艦隊はこちらの予想通りマーシャル諸島に来寇した。
マーシャル諸島は艦隊泊地に適しており、そのうえ複数の飛行場を擁している。
フィリピン救援のための足がかりとするには格好のロケーションだ。
そのマーシャル諸島は現在、第六根拠地隊とともに二四航戦がその防備にあたっている。
しかし、二四航戦は戦闘機や攻撃機それに水上機や飛行艇を合わせても数十機程度でしかなく、しかも主力の戦闘機や攻撃機はそのほとんどが九六艦戦や九六陸攻といった旧式機だ。
レーダーを配備していたことで奇襲こそ免れたものの、しかし複数の空母を含む太平洋艦隊の主力に襲われたのであればそれこそひとたまりもなかったことだろう。
「敵の動きについてなにか分かっていることはあるか」
「敵の攻撃手段は専ら空爆によるもので、その矛先はすべて飛行場ならびにその関連施設に向けられているとのことです。一方で港湾施設や島のインフラのほうは被害を受けていません」
高須長官の問いかけに、打てば響くかの如く通信参謀が即答する。
「どう考える」
高須長官が傍らの小林参謀長に端的に尋ねる。
「米軍はすでに我々がマーシャルの救援に向かっていることを察知しているはずです。それぞれ七隻の戦艦と空母を擁する三個艦隊を見逃すほど敵もぼんくらではないでしょう。
実際、これまでに潜水艦からのものと思しき不審電波を何度かキャッチしています。それと、敵の上陸についてですが、こちらは我が艦隊との雌雄を決するまでは無いものと考えます。
それと、敵の攻撃が航空基地に集中しているのは、制空権の奪取をその目的としているからでしょう。しかし、一方で港湾施設のほうは攻撃を受けていない。こちらのほうは可能な限り無傷の状態で確保することを目論んでいる。あるいは、我々が考えている以上に米軍はフィリピンの救援を焦っているのかもしれません」
自身の見立てが小林参謀長と同じだったことに安堵しつつ、しかし自分たちが逃げることはもちろん敗北もまた絶対に許されないことを高須長官は再認識する。
自分たちが負ければ米軍は上陸作戦を実行に移すだろう。
制海権と制空権を失った孤島の守備隊の運命など考えるまでもない。
高須長官は進撃の速度を上げるよう命令する。
そのことで燃費は悪化するが、しかし今は時間こそを惜しむべきだった。
(頑張ってくれよ)
高須長官は胸中で強大な敵と対峙しているマーシャル守備隊の将兵にエールを送る。
同様に自身が座乗する第一艦隊旗艦にもまた。
(頼んだぞ「大和」。皇国の興廃はお前の肩にかかっている)
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