第38話 新戦力

 連合艦隊はインド洋それに珊瑚海で米英艦隊を相手に大勝利した。

 しかし、一方で被った損害も決して小さなものではなかった。

 特に母艦航空隊は機材人材ともに損耗が大きく、再編成とそれに伴う錬成に時間が必要だった。

 また、水上打撃艦艇についても、程度の差こそあれ少なくない艦が被弾損傷している。

 こちらの修理もまた、造修施設にとってはかなりの負担となっている。


 被害回復に務める帝国海軍だが、一方で新戦力もまたその産声を上げている。

 大型貨客船「橿原丸」それに「出雲丸」を改造した空母「隼鷹」と「飛鷹」がこの春に相次いで就役を果たした。

 「隼鷹」と「飛鷹」は商船改造空母のために脚は遅いが、しかし搭載できる艦上機の数は常用機だけで四八機にも及ぶ。

 飛行甲板の運用の不便を忍んで露天繋止の数を増やせば、さらなる増載も可能だった。

 さらに、これら二隻とほぼ同じ時期に潜水母艦「大鯨」もまた空母への改造工事を終えている。

 こちらは「龍鳳」と命名され、脚こそやや遅いもののそれ以外は高速給油艦改造の「瑞鳳」や「祥鳳」とほぼ同等の戦力を持つものだと評価されていた。


 また、これら空母を敵機から守るための防空艦も続々と就役を開始している。

 「秋月」型駆逐艦と呼ばれるそれは、本来であればマル四計画で六隻が建造されるはずだった。

 しかし、マル四計画は「大和」型戦艦に人手や資源を集中するために、空母や巡洋艦それに駆逐艦といった補助艦艇の建造については二の次とされた。

 こういった理由から、「秋月」型駆逐艦はその建造を繰り上げ、マル三計画で整備されることになった。

 その「秋月」型駆逐艦は新開発の九八式一〇センチ連装高角砲を四基装備しており、従来の駆逐艦とは一線を画す対空能力を備えている。


 さらに、航空機も新型が登場している。

 制空権獲得の要となる艦上戦闘機だが、こちら零戦の最新型である二二型の配備が進んでいる。

 二二型は一一三〇馬力を発揮する栄二一型を搭載しており、これは二一型が搭載していた栄一二型(九四〇馬力)に比べて出力が二割近くアップしている。


 武装も強化されている。

 二〇ミリ機銃は短銃身の一号機銃から長銃身の二号機銃に換装された。

 このことによって、弾道特性ならびに破壊力が向上した。

 また、七・七ミリ機銃は廃止され、二式一三ミリ固定機銃に取って代わられた。

 その二式一三ミリ固定機銃は海軍甲事件の副産物と言ってもいいものだった。

 欧州をはじめとした海外の航空機銃の最新情報を貪欲に調べ上げた帝国海軍は、いち早く七・七ミリ機銃の限界に気づき、早い段階で手を打った。

 もし、これが無ければ開発は遅れ、二式一三ミリ固定機銃は三式一三ミリ固定機銃になっていたかもしれなかった。


 投下器も最新のものがおごられている。

 こちらは増槽だけではなく、爆弾もまた扱えるようになった。

 これによって三三〇リットル増槽に替えて二五番であれば一発、六番なら四発を懸吊できた。

 さらに両翼の投下器もそれぞれ六番を一発懸吊できるので、その気になれば最大で六発搭載することができた。


 防御については防弾鋼板や防弾ガラス、それに自動消火装置が追加された。

 一連の武装強化や防弾装備の追加による重量増によって、二二型は二一型に比べて最高速度のほうは微増にとどまっている。

 それでも総合性能は明らかに向上しており、F4FやP40であれば十分にこれを圧倒できるものとみられていた。


 九九艦爆それに九七艦攻のほうは一三〇〇馬力を発揮できる金星五〇系統の発動機に換装した新型の配備が始まっている。

 出力増によって得られた余裕を、こちらは防弾装備の充実に充てている。


 これら戦力をもって連合艦隊は新たなる戦いに臨む。

 作戦開始までに残された時間は、決して多くはなかった。

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