第11話 九九艦爆猛襲

 昨日の洋上航空戦は完勝とまでは言えないものの、しかし圧勝と言うには十分な戦いだった。

 日米初となる艦隊決戦は、まず空母機動部隊がその口火を切った。

 互いに相手の空母を沈めるべく、双方ともに多数の艦上機をその刺客として送り込んだ。


 第一航空艦隊それに第二航空艦隊の艦上機隊の術力はまさに凄まじいの一言だった。

 三隻の米空母をあっさりと撃沈し、さらに多数の巡洋艦や駆逐艦を撃破した。

 撃沈した三隻の空母は捕虜となった米搭乗員の証言から「エンタープライズ」と「サラトガ」それに「レキシントン」の三隻だということが分かっている。

 一方、こちらは「翔鶴」が敵の急降下爆撃機によって中破相当の損害を被っただけで、他に敵機の機銃掃射によって護衛の駆逐艦がかすり傷を負った程度だ。


 日本側の勝因あるいは米側の敗因は考えるまでもなかった。

 日本の空母が七隻だったのに対し、米側のそれは三隻しかなかったことだ。

 もし、米側が日本と同じく七隻の空母をこの戦いに投入していれば、日本側が挙げた戦果は少なく、逆に被害は遥かに甚大なものになっていたことだろう。

 場合によっては、勝敗そのものが逆転していたかもしれない。


 いずれにせよ、すべての空母を失ったことで米軍のマーシャル攻略作戦は破局を迎える。

 制空権が無い中では上陸作戦などとても出来たものではないからだ。

 それに、機動部隊のほうは空母以外の損害も激しく、七隻の重巡と一八隻の駆逐艦が撃破され、このうちすでに二隻の駆逐艦が沈没している。

 さらに航行不能に陥ったかあるいは極低速しか出すことの出来ない五隻の駆逐艦が昨夜のうちに撃沈処分された。


 そのような状況の中、第一艦隊は夜明け前に太平洋艦隊の水上打撃部隊をその視野に収める位置にまで進出していた。

 第一艦隊が一晩のうちに米水上打撃部隊に追いすがることが出来たのは、同部隊それに機動部隊の残存艦艇がいまだマーシャル近傍海域から大きく動いていなかったからだ。

 傷つき脚の上がらない友軍機動部隊の残存艦艇を見殺しにして東進していれば、おそらく米水上打撃部隊は第一艦隊に捕捉されずに済んだはずだ。

 しかし、海の男として仲間を見捨てるような真似はできなかったのだろう。


 (敵ながらその心意気は立派だ。しかし、だからと言って容赦をするつもりはない)


 そう考えている第一艦隊司令長官の高須中将の耳に電探が多数の機影を捉えたという報告が飛び込んでくる。

 この空域に多数の航空機を飛ばせる存在は現時点で二つしか存在しない。

 一航艦それに二航艦の二個機動部隊だ。


 その一航艦と二航艦は昨日、大戦果を挙げる一方で艦上機隊に少なくない損害を被っていた。

 米機動部隊を攻撃した一二六機の九九艦爆とそれに一〇八機の九七艦攻だが、このうち九九艦爆は二八機、九七艦攻のほうは二三機が未帰還となり、その損耗率はいずれも二割を超えている。

 また、攻撃隊の護衛にあたっていた零戦も無傷では済まず、九六機のうち五機が未帰還となった。

 索敵任務にあたっていた一八機の九七艦攻のほうは一機が未帰還となり、さらに二機が被弾していた。

 米攻撃隊を迎え撃った零戦隊は一方的に敵を撃滅したように思われたものの、しかし一三機が未帰還となり、こちらも損耗率は一割を超えている。

 それと、帰還こそしたものの損傷が激しくて再使用不能と判定された機体は、失われたそれの二倍にも達している。


 そして、「大和」の電探が捉えたのは現時点において作戦行動が可能な九九艦爆それに九七艦攻の編隊だった。

 九九艦爆は四一機、九七艦攻のほうは五四機で、作戦開始時点に比べて九九艦爆のほうは三分の一以下、九七艦攻のほうも四割をわずかに超える程度でしかない。

 しかし、それでもこの局面では決定的な意味を持つ戦力だった。


 九九艦爆それに九七艦攻の搭乗員らは事前に攻撃目標を指示されていた。

 九九艦爆は敵巡洋艦、九七艦攻は敵戦艦のうちで五番艦から八番艦までを叩く。

 米水上打撃部隊は戦艦が八隻に巡洋艦が四隻、それに駆逐艦が一六隻だから、すべての巡洋艦と半数の戦艦にその矛先を向ける形になる。


 まず、九九艦爆隊が攻撃を仕掛けた。

 狙われた巡洋艦はそのいずれもが「ブルックリン」級軽巡だった。

 同軽巡は一五・五センチ砲を一五門も備える有力艦で、その戦闘力は重巡にも引けを取らないものだと考えられている。

 その難敵を相手に、四一機の九九艦爆が編隊を解き航空戦隊単位あるいは母艦単位に散開していく。

 敵一番艦に「赤城」隊と「加賀」隊の一二機。

 敵二番艦に「蒼龍」隊と「飛龍」隊の同じく一二機。

 敵三番艦に「瑞鶴」隊の八機、そして敵四番艦には「雲鶴」隊の九機。

 それらがそれぞれ腹に抱いてきた二五番を叩きつけるべくダイブに転じる。


 「ブルックリン」級軽巡から吐き出される火弾や火箭は凄まじい。

 投弾前に四機が高角砲弾によって叩き墜とされ、さらに投弾中あるいはその後の避退中に五機が機関砲弾もしくは機銃弾に絡めとられて撃墜される。

 二割を超える機体が失われるという大損害を被った艦爆隊だったが、しかし戦果も挙がった。

 三七発投じたうちの一八発が四隻の「ブルックリン」級軽巡に命中する。

 実戦で五割近い命中率は破格と言ってもいい。

 少ない艦で三発、中には六発命中した艦もあった。

 さらに、直撃こそしなかったものの、有効至近弾となったものも少なくなかった。

 重巡の主砲弾の二倍にも達する重量爆弾を弾き返せる水平装甲を持った条約型巡洋艦は存在しない。

 九九艦爆の襲撃を受けた四隻の「ブルックリン」級軽巡は、そのいずれもが最低でも一発を機関部に被弾し、その脚を奪われていた。

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