第39話 頼みの綱
「ハワイの住民は即刻避難されたし」
非戦闘員への配慮を装った日本からの挑戦状。
これに対し、ルーズベルト大統領はハワイ諸島の住民に対して避難を勧告するとともに、在オアフ島の陸海軍に対して徹底抗戦を命じた。
最優先で着手したのは在オアフ島航空戦力の増強だった。
開戦時に同島に配備されていた戦闘機や爆撃機のうちで、旧式機については本土に送り返すか、あるいは現地処分とした。
その穴埋めとして新鋭機を送り込み、さらに戦闘機についてはその数を大幅に増やすこととした。
また、対空陣地を強化し、経空脅威に対する抗堪性の向上にも務める。
問題は艦艇のほうだった。
特に正規空母については「レンジャー」一隻しか残っていない。
その「レンジャー」は、現在では搭乗員や整備員、それに兵器員や発着機部員を養成するための練習空母のような扱いとなっていた。
とてもではないが、実戦投入ができる状態ではなかった。
それに、仮に参陣したとしても、多数の日本の空母が相手ではそれこそひとたまりもなく沈められることは分かりきっている。
だから、「レンジャー」の不参加については、関係者の誰もが納得していた。
戦艦については、多少は状況がマシだった。
太平洋艦隊は開戦劈頭のマーシャル沖海戦で実に八隻もの戦艦を失った。
しかし、今春から「サウスダコタ」級戦艦が相次いで竣工しており、その数は四隻にのぼる。
ただし、四番艦の「アラバマ」については就役してから日が浅く、慣熟訓練が終わっていないために今しばらくは使えなかった。
そこで、残る三隻の「サウスダコタ」級戦艦と、同じく新鋭戦艦の「ノースカロライナ」それに「ワシントン」を加えてハワイを防衛するための第一任務部隊を新たに編組した。
それと、米海軍には他にも「コロラド」をはじめとした七隻の旧式戦艦があった。
しかし、こちらは西海岸を守るために、本土に留め置くこととされた。
万一、日本艦隊がハワイをスルーして米本土に迫ってきた場合は、これら七隻の旧式戦艦によって編成された第二任務部隊が最後の防衛線を務める。
「最終的にオアフ島にはP40が二一六機、それに最新鋭のP38が三六機配備されることになっています。これに海軍それに海兵隊の機体を加えれば三〇〇機を大きく超える一大戦力となります」
オアフ島防衛会議の席上において、陸軍航空隊司令官が自信の色を滲ませつつ戦闘機の配備状況を説明する。
その言葉を耳に入れつつ、しかし太平洋艦隊司令長官のニミッツ大将は別のことを考えている。
(ハワイ防衛のための戦力は揃いつつある。開戦時に比べてその防空能力は著しく向上した。しかし、まだ足りない)
ニミッツ長官が懸念するのは太平洋艦隊の艦隊構成だった。
戦艦こそ新型のそれが五隻もあるが、しかし空母はただの一隻も無い。
本音を言えば、ニミッツ長官は五隻の戦艦よりも五隻の空母のほうが欲しかった。
空母が五隻あれば、それは四〇〇機の艦上機を手にしたことと同義だ。
そのうえ、不動の陸上基地とは違い、空母は機動力を兼ね備えているから、状況次第では日本艦隊の側背を突くことも可能だ。
(無い物ねだりなど、最高司令官の振る舞いでは無いな)
思わず湧いた想念に胸中で苦笑しつつ、ニミッツ長官は第一任務部隊を指揮する部下に思いを馳せる。
今年初めに少将になったばかりの彼は、しかし第一任務部隊を率いるために中将に昇任することが内定している。
(頼んだぞ、リー)
米海軍における砲術の権威であり、またレーダー射撃の第一人者である彼であれば、あるいは航空劣勢という逆境をはねのけてオアフ島を危機から救ってくれるかもしれない。
今のニミッツ長官にとって出来ることは、部下を信じることくらいしかなかった。
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