第21話 予想外
「うぉぉぉぉ!?」
「
「今更だけど、『_ZERO』さん声可愛すぎじゃね?」
俺が1セットを先取し、コメント欄が湧き上がった。3つ目のコメント打った人、俺も同じこと思ったよ。
(ほんとに、ゲーム大好きなんだろうな)
いつもよりテンション高いし、小学生みたいにはしゃいでる。まじで目の保養。
「分かった!」
「……?何が分かったの?」
突然、閃いたように目を輝かせ
「対牡丹の攻略法、分かった!」
え、全国1位がそれを言ったら俺詰みじゃね?
心の中で戦慄しながら、再びコントローラーを握る。
そして、碧木の言葉は現実のものとなった。
「……くっそ、まじか」
「いぇ~い!」
両手を突き上げて喜びを現したのは、第2、第3セットを連取した碧木だ。
第1セットと同様、互いに少し削り合う展開だったが、どちらのセットも肝心なところで俺の技が決まらない。碧木の上手さもあるだろうが、違和感を覚えるくらい防御され弾かれているのだ。
(……どこだ、どこが俺の攻略法だ)
第3セットを終えた時点で、1ー2で碧木がリード。このセットを俺が落とせば負けが確定する状況下で、脳をフル回転させ考えていた。
動揺させる為の言葉か、本当に攻略法を見つけたのか。
――俺は後者だと思った。
(……だとすると、対応しないとまじで碧木の言った通りになるぞ)
昨日、あのお洒落なカフェで碧木が予告した3ー1。まさに言葉通りになりそうで、少し焦りを感じている。
(……ちょっと攻めて行こう)
「……」
勝負の第4セット、深呼吸をしてコントローラーを握る。碧木がちらっとこっちを見た気がしたが、それに応える余裕は無く前を向いた。
この辺りから警戒しないといけないのは、碧木が操作するアリスの溜め系の必殺技だ。
全体的に能力の低いアリスが厄介なのは、溜め攻撃が異常に強い所。
試合開始から少しずつ力を溜め続けている為、当たったら一発でKOの可能性も十分ありえるのだ。
(……溜め技1回も撃ってないのはどっちも。要は使い所が必ず来るはず)
溜め技・必殺技を、どのタイミングで使ってくるのかも注目しなければならない。それを警戒しながら攻める。
開始早々、やはり両者とも直ぐに駆け出した。
お互い間合いに入った瞬間、スピードに勝る俺のツクヨミが先制攻撃を仕掛ける。少しは削れたが、クリーンヒットは出来ない。そこは碧木の技術が光った。
「……やっぱ上手いな」
「ちゃんと防げなかったの悔しい!」
彼女はそう言っているが、今の俺の技の仕掛けは中々上手い方だ。
正面と見せかけて、下から突き上げるように技を出すフェイント攻撃。防御出来るか怪しいレベルの技を、ほぼ完璧にガードを合わせてきた。
細かい所に、全国1位の実力が見え隠れしてる。
「さて、こっから」
「私もだよ!こっから!」
俺はノーミスでコンボ技を決め、着実にダメージを与えていく。
碧木はアリスの特徴を最大限に生かし、弱点を自分のプレイスキルで補いながら、少しずつダメージを与えていた。
(……仕掛けるなら今か)
そう脳内に浮かんだ次の瞬間には、実行に移っていた。アリスの間合いにわざと入り、動揺を誘う。
「は!?」
「むふふ」
すると碧木は、なんとこのタイミングで溜め技を撃つ体勢に入ったのだ。
(この近距離で、自分の間合いに敵が居るのに……?)
そう焦ってしまった時点で、負けている。どう考えてもフェイクだ。
「……くっそ、間に合え!」
すかさず溜め技をキャンセルし、コンボ技を仕掛けようとする碧木。防御が間に合わないと判断した俺は、威力も弱く短い防御の代わりにする攻撃技を繰り出す。
それを簡単に捌いた碧木は、フェイントを入れつつ技を出そうとした。
(……十分!)
フェイントが来るのは想定内。今のうちに、ギリギリ間に合うくらいの防御態勢は取れた。
――ギィィィンッ!
独特な音と演出と共に大ダメージを食らったのは、攻撃した側である碧木のアリスだった。
「うわぁぁぁ!」
「『ハジキ』だ!」
「まじか!ここで!?」
コメント欄がどっと沸いたのを感じる。碧木も「やられた」みたいな表情を一瞬浮かべたが、すぐに切り替えていた。
今のは、「ハジキ」という超低確率で発生する完璧な防御技だ。
相手の攻撃技に対しこちらが完璧なタイミングで弾くと、逆に相手に大ダメージが入る。
難易度的にはとても高く、めちゃくちゃ難しい。なんなら弾くタイミングをミスったら、こっちが普通にダメージを受けるだけだからね。
(……今のは、ほんとにでかい!)
まだ第4セットは終わっていない。直ぐに畳み掛ける。
「ぐぬぬぬ!」
「……しぶとい」
アリスのHPはもうほぼ残っておらず、最後の抵抗と言わんばかりに細かい技を出しまくって押し返している。どんだけ負けず嫌いなんだよ。
白熱する勝負の中、なんとか一矢報い用とする碧木。キャラの動きに釣られ体を傾けている。
――その時
「うわぁっ!?」
「……うお!?」
バランスを崩した碧木が椅子からこちらに転げ落ち、その勢いで俺も倒れ込む。
「……!?」
「んむ……!?」
第4セットは終わったけど、今はそれどころじゃない。
覆い被さるように倒れてきた碧木の唇は、俺の唇と静かに重なった。
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