第26話 水着姿

「……結構人居る」


 平日とは思えないほどの賑わいを見せるプールに、俺は驚きと不安が溢れていた。

 そりゃそうだ。普段は自分の部屋に1人なんだから、こんな場所での人混みはやっぱり慣れない。


「授業以外で水着姿の二十日はつかとか、何十年ぶりだ?」

「……自分が1番びっくりしてるよ」


 礼紋れもんの言葉に、俺も共感して強く頷いた。てか、何十年ぶりって言っても、我々まだ17年しか生きてないっすけども。


「ラッシュガードだからあんま分からんけど、池添いけぞえの体結構がっちりしてんなぁ!」

「たしかにそれは思った!」

「なんかスポーツしてたん?」


 大岡おおおかを始めとする、普段あんま喋らない3人から質問が飛んでくる。


「……あんまり覚えてないけど、実は……」


 嘘ついて隠すのもあれだし、過去の事を話したら凄いリアクションだった。祭田まつりだにいたってはちょっと泣いてるし。いやいや、泣くような話だったか?


「記憶喪失ね……」


 神妙な面持ちでこっちを見てくる大岡。記憶喪失と言うと、大体めちゃくちゃ心配される。仕方ない事なんだろうけど、あんまり好きじゃないんだよな。


「え、でも今生きてるからいいやん」

「それな、池添は変わらず池添なんだし!」

「てか、今の池添しか知らないし俺ら!」


 おっと、なんか思ってた反応と違った。


「大岡達は一味違うぜ?楽しめそうだろ?」


 礼紋の言葉に、微笑みながら頷いた。珍しいみたいな表情でこっち見てくる。いや、俺だってたまには表情豊かになるよ?


「お待たせ!」


 その声に反応し先に振り向いた俺以外男子陣は、言葉を失っていていた。え?今から後ろ向くの怖いんだが。


「……!」


 そこに居たのは、人間界に舞い降り黒主体の可愛い水着を纏った天使……では無くて碧木あおきが恥ずかしそうに立っていた。露出は少なめだが、スタイルの良さをやはり隠しきれていない。


「どう?似合ってるかな?」

「……う、うん。めっちゃ可愛いよ」


 この反応で合ってるか分からないけど、似合ってるのは事実だしめちゃくちゃ可愛い。


「なぁ礼紋、あの2人やけに仲良くねぇか?いつか付き合いそうじゃね?」

「……さぁな。まぁ、3年になるくらいには付き合ってそうだけど」


 礼紋にあとで聞いたところ、そんな事を大岡に言われたそうだ。そうだよな、同居してる事知らないんだよな大岡達は。


「ひゅーひゅー」

「……!?ちょっと彗星すいせいなによその口笛!」


 碧木の後ろから現れた彗星達女子陣が、からかいながらやって来た。当然のように、みんなスタイル良いの凄いな。


「……ん?」

「二十日、どしたの?」


 いや、なんか視線を感じた。誰かに見られてる気がしたけど、多分気のせいだろう。


「おーい、俺ら先にウォータースライダー行くぞ」

「あ、私も行きたい!」

「いいね、れーくん私らも行くわ」


 全員がウォータースライダーに行くと言うことで、特に視線については気にせず俺もついて行った。

 そういや俺、碧木と彗星以外の女子2人と1回も喋って無くね?


 ◇◆


「……あれって、もしかして?」


 二十日達が居る所からすこし離れた場所で、彼らの姿を見つめている少女。腰あたりまで伸びる紫色の髪が特徴的な彼女は、二十日の姿を見てそう呟いた。


さき?行くよ~?」

「あ、うん!」


 友達に咲と名前を呼ばれた少女。ちらちらと二十日の方を見た後に、友達のあとを追い走り出した。

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